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「私にも、今度こそ何かをできればいいな、と思います」
遠くなっていく景色に、小さく溢した言葉。私の後悔でもある、エインズワース伯爵領の民たち。国としてもやっていけなくなったあの国で、今も真面目に暮らしている国民たちが被害に遭わなければいい。そのためには、私ができることをする必要がある。
「ずっと、心残りなんです」
「……殿下は、以前よりそのお話をされるので、そうだろうとは……その……」
「今は、どうにかできるかもしれない立場ですから、いつまでもクヨクヨしていてもいけませんね」
アランの複雑そうな表情には、私のことを心配しているという感情が浮かんでいる。国を内部から崩壊させるために動いている人たちは、現在数を増やしていて、真っ当な貴族も動き出しているようだった。こっそりと送られてきた書簡にも、新たに加わった貴族の名が連なっており、腐った王家も何もかもを流してしまう作戦は整いつつある。
ほんのわずかなきっかけ一つで、けして短くはない王政が崩れ去るのだ。かと言って、長いわけでもないが、それでも過去には賢君と呼ばれた名高い王も存在はした。もちろん愚王と呼ばれた、悪い意味で歴史に名を刻んだ者も。歴史は繰り返される、その言葉はよくできたものだ。
前王は、突出した何かを成し遂げた、と言った功績は無かった。良くも悪くも、保身に走る人だったらしく、今代の王よりは評判は悪くない。あくまでも、比較先が今代の王なので、他の歴代王になると、よくはないかもしれないが。
代替わりしてからは、衰退していくのが顕著になった。その対策をするどころか、自身の生活水準や見栄のために重税を繰り返す姿は、もはやいっそ滑稽とすら思える。
あまり多くを学べなった私だが、そんな私でさえもわかるくらいには、腐敗してしまっているのが現状。以前、私の身柄を返すように言いに来た王太子も、あの態度を見るに次代の王として相応しくはないだろう。
国民も、一部の貴族も、もう限界なのだ。それだけ酷いことをした、という認識を今の王家や王家派の貴族たちが持っていないのもすごい話ではある。
「恐れながら、どこの国の歴史も似たようなものだろう、というのが国民側の一人である自分の認識です」
「それは、この国にも言えることなのですか?」
「はい。このアルムテアは、長きに渡って皇家の方々は同じ血筋の方であります。しかし、それは細かく紐解いてしまえば、常に良き君主だった訳ではないのです。こんなことを、アルムテアの皇女たる殿下にお話するのは、不敬ですが……」
「私はそれを不敬だから、と責めることはありません。アランも、よくわかっているでしょう?」
「ははっ、バレてしまいましたか」
「さすがに、わかりますよ」
カラッとした笑みでこちらを見やる姿に、私のことをきちんと評価した上での言葉なのだろう、と思う。そうでなければ、こんな言葉はなかなか口に出せない。それこそ、あの王太子なら投獄されそうだ。
アランは良い意味で、過度な緊張を生まない距離感で接してくれる。実際に実力も含めて、この目で見て決めた護衛であるが、私は間違っていなかったといつも思う。
少しだけとはいえ、彼の護衛としてではない時間に思うことを、教えてくれるのはありがたい。国民一人ひとりの言葉を、声を、聞けたらいいけれど、残念ながらそれは難しいことだ。
でも、彼は平民出身だから、私から最も近い国民となる。同じ貴族だって国民ではあるが、生活の質においては平民と違う。暮らしがより近い貴族に聞いたところで、あまり参考にはならない。




