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伯爵家のあった土地は、王都と違って辺境だから田舎だった。王都へよく出かけていたカミラと継母が、エインズワース領は何もないから楽しくないと、そう言っていたから本当だと思う。


そんな伯爵家の治める土地は、残念ながら裕福とは言い難い。母が一緒に出掛けてくれた頃は、まだ人々に活気があって、貧しいながらも穏やかな生活が営めているとすぐにわかった。でも使用人たちのうわさ話や、屋敷へ嘆願に来た領民たちの話から、領地はどんどん貧乏になったのだと知った。


ある年、例年通り育っていた作物が災害によって収穫できなくなり、苦しい状況に追い込まれたときがあった。その状況でも、伯爵は通常通りの税を納めるように指示し、領民が苦しんでいた。その税金はもちろん、カミラと継母の無駄遣いに消えた。


「王都の情勢はわかりませんが、エインズワース領は今も疲弊していると思います。数年前の災害で、農作物の収穫ができなかったときも、税金が下がることはありませんでした。助けてもらえなかった領民たちは、すでに伯爵家を見捨てているようですし、裕福な部類の領民は他領地へ移動しているとも聞いたことがあります」


「たしかに、アルムテア帝国にも流れてきていたな……そういう背景があったのか。俺もリリム王国内へ外交で行ったことはあるが、かなり雰囲気は悪かったな。見せたくないものにはフタをして隠していたような印象だ」


「イアン兄さまがそうおっしゃるのであれば、間違いなく王都もそうでしょう」


いつだって、最初に犠牲になるのは立場が弱いものだ。お金ですべてが解決するわけではないのに、食などを支えている人たちを軽視し、苦しめる。そんなことをすれば、どんどん人々の心は離れていき、国力が衰えていく。そうして最後にあるのは国の崩壊か、無能のトップが討たれるかだ。


「では、ユーニスの案を採用しよう。おそらくだが、リリムは代替案に乗ってくるだろう。それを上手く使えるのなら国は戻るし、扱えなければ終わる。単純明快でいい」


もう少し時間がかかるかと思われた話し合いは、あっという間に終わり面会も何事もなく終えられた。私の居住はレイフ様のお屋敷で構わないとのことで、そのまま彼とともに帰ることになっている。


「ユーニス、大丈夫か」


「はい、大丈夫です」


私が無理をしていないか、と確認する彼は顔を顰めている。そんなに心配しなくてもいいのに、と伝えてはいるが、彼は心配が尽きないのだと言う。思う存分面会の会場を楽しんだアルは、馬車の座椅子にある座布団の上で丸くなっている。


「表情が暗い」


「……いえ、これは……その……」


リリムの行く末は見えているみたいなものだ。かの国は長きにわたって、現実から目を逸らしていた。その罪は大きなものとなって、今まさに跳ね返る寸前。少しでも民が安心安全に暮らせるように、外からできることを、私も考えなければならない。


「ユーニスは、生まれながらの皇女だな」


「え、そんな! 恐れ多いです!」


帰り道の車内で、そんなことを言い出したレイフ様。慌てて否定するけれど、彼は全然その認識を改めてはくれない。


「いいや、本当だよ。上に立つ者は、どんな場面でも周囲の声に耳を傾けなければならない。例えばそれが王であるならば、王は国民の命を預かっている。国民を守り、国を守る、それが王として必要なものの一つだ。次に、その立場が領地を治める貴族になったとする。貴族も規模は違うが、領地に住まう領民たちの命を預かる立場だ。安心安全に暮らせるように尽力せねばならない。だが、現実はどうだ? リリムではそういう生き方ができる貴族が、どれほどいただろうか」


「……私はあの領地しか知らないので、どれくらいの数かと問われると答えられませんが……間違いなくエインズワース伯爵家は、貴族としての責務を果たしてはいないと言い切れます」


勉強の機会を与えられなかった私でさえも、それだけは理解している。エインズワース伯爵家のような状態が規模が大きくなって王族にまで広がれば、もう言わなくてもわかる。国民たちの心は王家に沿ってはいない、と。


「私は、無関係の人が傷つくのを黙ってみていられるほど、無関心ではありません。私を愛して守ってくれた母がいたように、たくさんの人たちに愛すべき誰かがいます。もちろん、それは王侯貴族にも癒えることですが……。でも、立場ある人間が、責務を放棄して苦しめるのとはわけが違う。私のしようとしていることはきっと……傷つけることになる。それでも……」



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