ゲーム
これはある企業が開発中のテーブルトークゲームを試作する物語である。
「えー、では! まず私が思いついた事を述べます。舞台は中世ヨーロッパのよくあるロールプレイングゲーム。善と悪と無があり、善はエルフ、ドワーフ、ホビット。悪はモンスター、アンドロイド、ホムンクルス。魔法は炎雷の魔法と、雪炎の魔法とその他、例えば姿を変えるとか、テレポートとか、呪いとかの魔法。とりあえず私はこれくらい考えてきました」
これでは、ゲームの根幹の大事な要素が抜けている。
「プレイヤーはどうするんです?」
これだ! いくら設定を練っても、主人公たち、プレイヤーがどう遊んでいいかわからないとゲームとしては不成立である。
「あのー、こんなのどうですか? さっき言った善と悪にも属さない第三の勢力として人間があって、プレイヤーはそれで」
「なるほど」
「細かい数字はサイコロで決めるって事で」
「ふむ。それでいこう」
決定を下したのは開発部長である。
時は令和、日本の田舎の旅館にグループで旅行にやってきた。
「なぁなぁ! ただで旅行ってよくね? しかもゲームするだけでいいんだろ?」
「ちょっと、【久地】、浮かれすぎ!」
女性が久地という男性を制する。
「相変わらず能天気よね」
「そういうお前らはどうなんだよ! 【実弥】、【藍】!?」
二人は見つめ合って、声を揃える。
『ねー?』
アハハハと笑い声が辺りに響く。
古びた旅館には従業員はいなく、このゲームの開発者達がいた。
「やぁ、良く来てくれたね。ありがとう。私が責任者の【田辺田】だ。よろしく」
「久地っす!」
「藍です。よろしくお願いします」
「実弥です。お願いします」
「えと、【皿場】……」
各自、自己紹介。
「えー、この度我々、【プロジェクト・コスモス】、以下コスモスと略すが、コスモスが開発したのは、ただのトークゲームではありません。実体験ができるのです」
「VRっすか?」
「久地くん、そんな安いモノと一緒にして欲しくないな」コスモスから失笑が起こる。久地は少し照れた。
「あのー、実体験っていうと、どういう仕組みなんですか?」
藍が聞いた。最もである。そんな技術があれば特許が取れる。
「我々コスモスは、脳、ではなく、細胞に着目した。細胞は何か? 分子である。原子である。ならばそれを動かす何かが起これば、それは本当になる。と」
ややこしく難しい話にイライラして、久地は言った。
「とっととやりませんか?」
さっきの恥ずかしさをカッコつけて取り戻す目論見だ。
「良かろう。ならば四人とも着替えてもらおう。コスモスが開発した特殊スーツ【ヒューズ】に!」
と、いうことで、四人は別部屋で一人一部屋与えられ着替えた。
「ちょっと!」実弥が何やら……。
「こんなボディライン出るの恥ずかしいんだけど!!」
うむ、眼福。
「私は、コスプレするから平気かな。いや、ちょっと恥ずかしいわ」
藍はコスプレイヤーだったのか。一方男共は胸を張っている。久地の筋肉ぼでー、皿場の華奢なもやし。
四人は席に着いた。一面ガラス張りでテーブルとタブレット端末、サイコロが二つある不気味な部屋だ。初めて手術する前くらいの緊張が四人を襲う。
「おい! 今からやるのはゲームなんだよな?」
久地が沈黙に耐えかねて言った。
「勿論だとも」
コスモスが答えた。いや、そうなんだろうけど。未知のモノの追撃が止まない。
「で、でも、ゲームなら楽しいはずよね! 心配し過ぎよ!」
藍が励ます。だが、正論も、例えば死にそうな人にこれこれこうすれば平気と言ったところで、死にそうなのは当人なわけで。
「うし! やるか! やってやろうぜ!」
励ましはこういったバカらしい方が効果あったりする。
「そうね! 私達なら平気よ!」
実弥も根拠のない自信を表す。
「では、ゲームスタートだ」