魔法少女に無理矢理変身させられる話
「変身セヨ! 変身セヨ!」
声がした方を見やると上空に光る物がある。晴天の昼間のなのに月より明るい。
――え? 変身って、僕が?
周りを見回すが地方都市なので周囲に人が居ない。東京なら、老若男女歩いているのだが、田舎は車が通っても人は居ない。
「オマエダ、オマエ。ハヤク変身セヨ!」
どうやら僕のことらしい。何に、どうやって、何のために変身しなければならないのか。5W1H をハッキリして欲しい。
「ジレッタイ、ハヤクシロ」
光る物体はビームを放ってきた。僕は慌てて避ける。
「サケルナ! 変身シロ!」
――なんでだ。見たところ敵みたいなの居ないじゃないか……
とっさに、ビルの中に入って隠れる。
「コラ!」
光る物体は地上に降りてきて僕に向かって光線を発した。
――うわわー
僕は魔法少女に変身していた。胸と足を強調したフリフリの服。右手にはバールのような物、いや、魔法ステッキか。
――何をするんだ。大体、敵なんてどこにいるんだ。
「変身スルトミエルヨウニナルンダ」
そう、腰の曲がったおばあちゃんが居た。
――敵? 害とか無さそうじゃないか。
「殺セ」
――マジで? なんで? 命令するなよ!
「ハヤクシロ。お前ノ嫌イナ酢デ〆タ鯖ノ刺身食ワスゾ」
地味に嫌なことを言ってくる。仕方がない、老婆と話して遠くへ行って貰おう。
「おばあちゃん。ごめんなさいね。ちょっと向こうへ行ってくれないかな」
「は? なんだって? わたしゃ耳が遠くてよくわからんわ」
なんでこんな人殺さないといけないのか。老婆をなんとか誘導して向こうへ……あ、僕が離れればいいのか。
ダッシュでその場から逃げ出す。バールのような物を握りしめたまま。
「待テ。ドコヘイク!」
――やってられるか!
後ろから光る物体が着いてくる。そうだ、こいつ壊せばいいのか。
追いついたところを見計らってバールのような物で殴りつける。ガンガン殴りつける。穴が空いてプシューという音と共に地上に沈んだ。
「何ヲシテクレルンダ。アノ婆サン殺サナイト人類ガ滅ブンダゾ」
――お前は間違っている。人間は納得しないと大それた事はできないんだ。人は機械じゃじゃないんだ。大体お前はなんなんだ。
「ワタシハ、コードネーム『ニードル』過去改変ノタメニ作ラレタロボット。アノ老婆がキッカケデ核戦争ガオキル。ソレヲ阻止スベク過去ニ送ラレタ」
――変身とか、ふざけた話はどうなっている。
「変身シナイト、敵ガ見エナイ。コスチュームハアニメヲサンコウニシタ」
どうして、未来から一個部隊送ってこなかったのか、エージェントを現地調達して思い通りに動くと思ったのか知りたいが、そこでロボットはウンともスンとも言わなくなった。
魔法少女の衣装はそのまま。
――おい、ほったらかしかい。過去を変えるのは不可能だと誰かが言ってなかったか?
とりあえず、目立つこのコスチュームをどうしようか考える。変身前に持っていた携帯端末も財布も一切消え失せていて、僕は元々女の子だからいいけど、ちょっと目立つよなぁ。
家に向かってヒールをカツカツ鳴らしながら帰ることにした。核戦争? 知ったことか。