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Ebb and Flow  作者: 奴衣くるみ
1/3

砂時計

「……実感湧かないな。本当にこのまま世界は終わっちまうのか?」

「……みたいだね。どこのチャンネルもそのニュースでもちきり」

 リビングのソファに二人並んで座りニュースを聞いている。

『世界の終末の日、大晦日の二十四時まで残り五分を切りました』

 いきなり世界が終わると言われても全然ピンとこなかった。二十世紀末にあったノストラダムスの大予言のように今回も外れていることだろう。普通に過ごしていればいつも通り明日がやってくる。そう思っていた頃もあった。

 でも連日ニュースで終末の訪れの根拠を解説しているところを見ると本当にそうなんじゃないかと信じてしまう。足りない頭じゃ理解できていないが、数多くの物理学者が解説しているところをみると真実味を感じてしまう。

 この世界は砂時計のようなものらしい。我々が生きているのは砂時計の上の部分で、日々「砂」が下の世界に漏れだしているそうだ。そして今夜、「砂」が枯れる。

「藍子は人生満足に生きれたか?」

「全然。やりたいこと叶えたいこといっぱい残ってる」

「だよな。俺も藍子ともっと生きていたかった」

 高校のとき俺と藍子は付き合っていた。でも卒業を理由に自然と別れ、別々の大学に進み別々の会社に就職し気付けば十年が経っていた。ただ今年の春に引っ越したマンションのお隣さんに挨拶に言ったら藍子が出てきたときは驚いた。そして運命も感じた。

 高三になって受験勉強が始まり、デートがあまりできなくなって次第に心が離れてしまったのだろう。でも俺は卒業してからも藍子のことが忘れられず、十年間彼女をつくることができなかった。そんな中での再会だったからすぐにお茶に誘った。

 回数を重ねる度、自然と一緒に過ごす時間が増えていった。いつのまにか俺の部屋で一緒に暮らすようになった。立派な告白をしたわけでもなく自然に交際がスタートして一年経って三十歳を迎えた今年結婚した。足りない勇気をかき集めても足りなくて結局藍子に求婚されることになってしまったのは男として恥なんだが、それでも藍子と結婚できて良かったと思っている。

 しかしこの幸せも期限つきであると先月突如発表があった。

 世界終焉が発表されて世の中大いに荒れたが、その話はもうどうでもいい。

 もう残り五分もない妻との時間を目一杯すごそう。

「わたしたちも運がないね」

「そうだな。なんでこんな時代に生まれたんだろうな。何千年もある歴史の中でよりによって世界が終わる時代に生まれるなんて」

「ほんとそう。それも結婚してすぐに世界が終わるなんてさ。わたしたちこれからなのに」

「あぁ」

 二人とも怒り、悲しみ、悔しさ、落胆、やるせなさ、様々な気持ちが混ざり合ってよくわからない感情になっている。

「高校卒業のときに別れなければもっと長く幸せでいれたかな」

「どうだろう。あの頃は喧嘩も少なくなかったしあのあと上手くいってたのか正直わからない。お互い成長したからこその今の幸せがあったんだろ」

「あのときから二人が大人だったらよかったのにね」

「……そうだな」

 高校のころ、藍子の気持ちをうまく汲んでやることができなかった。経験も少なく未熟なところが多かったから仕方のないところもある。

 今でも完全に藍子の気持ちを汲むことはできてないけど、あの頃よりも藍子も優しくなってお互いを尊重し合い許せる間柄になっている。藍子もあの頃の態度を後悔しているようだった。

「わたし、世界が終わるって知りたくなかった」

「どうして?」

「知らなかったら死ぬときまで幸せのままだった。知ってからの一ヶ月間世界の終わりに怯えて暮らしてきたわ。なんで物理学者の人は発表したんだろう」

 藍子が俯いて肩を震わせる。俺はそんな藍子の肩を引き寄せる。

「俺は教えてくれて良かったと思ってる」

「え?」

 藍子は驚いた様子で俺の顔を見てくる。

「だってもし知らなかったら藍子との最後の時間を大切に過ごせなかったと思う。ただ藍子と過ごす大晦日ってだけの日常を過ごしてしまったと思う。こうして二人並んで肩寄せ合って最期を迎えることができてこれ以上の幸せはないよ」

「……そうだね」

「だから発表されたんじゃないか? 最期に大切な人と大切な時間を過ごせるように」

 藍子が抱きついてきて俺も藍子を抱く。歔く声が聞こえる。

『世界の終わりまであと一分を切りました。本当に世界は消えてしまうのでしょうか』

 落ち着いた藍子が離れようとするが俺は藍子を抱えて離さない。このまま世界が終わるまで抱き合っていたい。

 抱き合ったまま藍子が話し出す。

「世界は砂時計って何度も例えられてるよね」

「そうだな。もうすぐ「砂」が枯れてしまうから世界がなくなると」

「なんで砂時計なんだろうね」

「ん? どういう意味?」

「別に漏斗とかでもいいと思わない? 落ちるだけなら」

「確かに……」

「わたし思ったの。砂時計って下に砂が溜まって、そしてひっくり返してまた砂が下に落ちるでしょ? だからこの世界が終わってもまた世界は同じように始まるんじゃないかって」

 ニュースキャスターの声も除夜の鐘の音も全部シャットアウトされ、ただ藍子の声だけが届いた。

「次の世界でもその次の世界でもわたしたち幸せでいようね」

 世界が終わる瞬間、抱き合ったままで藍子の顔を見れなかったことを後悔した。


拙い文章ですみません。徐々にブラッシュアップできたらなと思います。

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