第3話
修理店の中はどこも明るい。眩しすぎるほどに。
そんなことを、診察台がある部屋に戻る途中、紗織は思った。
「昨日までが暗すぎたんだ」
「ん~? 何か言った?」
「ううん、何も言ってないよ」
部屋に戻ると、再びうつ伏せになる。
顔の下で腕を組みながら、紗織は語り始める。
「私ね、初めて彼と出会った頃は幸せの絶頂期だって確信してたの。
告白されてすぐのうちはとても優しかった彼に惹かれて、ますます好きになっていって、彼に依存するようになった。
それからが分かれ道だったのかな。
私、いつの間にか太ってしまって、彼には『デブ』とか『ブス』呼ばわりされるようになって。
それからは彼が夜勤の日はタバコを吸って自分の気持ち誤魔化すようになったの。
それだけじゃないわ。
彼は段々暴力的になって、殴る蹴るは当たり前。何でも私のせいにする。
私から平気でお金をむしり取る。
そんな日々が嫌になって、昨日の夜遅くにこのお店まで逃げ出してきたの」
樹梨は悲しそうな表情をしながら紗織の翼を修理をしている。
「昨日までつらかったよね、嫌だったよね。この店にたどり着くまで、よく頑張ったね。もう嫌な思いはしなくていいからね」
「私、樹梨さんと結婚したい」
樹梨は泣き笑いした。
「ありがとう。私も強い心を持った紗織と付き合いたいわ」
「樹梨、明日、私の代わりに婚姻届持ってきてよ」
「わかった。持ってくるわ」
「でも、」と樹梨は続ける。
「あたしがいない間の紗織のことが心配ね。あたしが出かけている間は、この部屋から出ちゃダメよ。トイレなら姿見の裏にあるから、そこ使ってね。ちなみに、洋式だから安心して」
「ありがとう、樹梨」
「こっちこそありがとう、紗織。話さなくてもいいのに、わざわざ話してくれて。あたし、紗織に信頼されてるだなって、こころから思えたよ」
紗織が振り向いた。
「何も聞かず、黙々と優しく丁寧に修理してくれてるから、安心したし、いつかは話さなくちゃと思ったから」
「そっかそっか」
「じゃあ、私、寝るね」
「おやすみ、紗織」
「おやすみ、樹梨」
安心感を抱きながら、紗織は目を閉じた。