第2話
翌日の2月3日。午前11時。
紗織は目を覚ました。
真っ白な空間の中央の診察台から起き上がり、部屋の出入り口の反対側にある姿見で自分の姿を見る。
目元、口元、頬のあざは消えていた。
赤いワンピースからのぞく膝頭の擦り傷もない。
痛みすら感じなくなっていた。
背中を姿見で横に見ると、ワンピースの背中の部分のチャックは閉まっている。
新しい翼が見える。
まだ翼は修理途中なのだろう。
自分で自分の体を姿見で見ていると、ドアをノックする音と、樹梨の明るく優しい声がした。
「入るわよ~♪」
ドアが開くと、樹梨が笑顔で顔を出した。
「おはよう、えーと、」
「紗織」
「おはよう、サオリ。朝ごはん出来たから、一緒に食べましょ♪」
「この部屋から出て大丈夫なの?」
「昔のレジ台の後ろの左側に、《患者》と修理屋しか入れない食堂があるから、大丈夫よ」
また樹梨に手を握られた。
温かい樹梨の手を、握り返す。
樹梨に手を引かれて部屋を出て、食堂へ向かう。
食堂は狭く、10人入るのがやっとなほどだ。
今は紗織と樹梨以外誰もいない。
「好きな席に座って♪」
紗織はカウンター席に座った。
樹梨はカウンターにカレーライスを出した。
「さぁ、温かいうちに食べてね」
スプーンですくって、ひとくち食べてみる。
「美味しい」
「あら、良かった♪」
樹梨も隣の席に座った。
樹梨は何も聞いてこない。
紗織にとって、それはありがたいことだった。
変に色々聞かれるより、ずっと良かった。
それでもいつか、紗織は自分の身に起こったことを樹梨に話さなければならないと思うのであった。