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短編・中編集(ジャンルいろいろ)

聖者は星に願わない

掲載日:2021/12/31

 ここは天空、雲の上。

 神様の周りには星の妖精が集まっています。


「これから地上へ降りて、困った人たちの願いを叶えるのだ」


 神様の命により、星の妖精たちは地上へ降りて困った人を探します。


 雲一つない夜空。

 星たちが一斉に地上へと向かって飛び立ちます。


 地上の人々はその光景を熱心に眺め、各々の願いを心の中で三度、唱えます。

 星たちが消える前に願い事を唱え終えれば、その願いが叶うと信じているからです。


 でも、願いを叶えられるのはほんの一握りの人だけ。

 星の妖精に選ばれた人だけが願いを叶えることができるのです。






「ううん……誰が本当に困っているんだろうなぁ」


 地上へ降りたとある星の妖精は、街を行き交う人々の姿を見て頭を悩ませます。

 みんなとっても忙しそうで困っていそうです。


 妖精の姿は人に見えません。

 でも、願いを叶えようと思った相手だけに姿を現すことができます。

 道を行き交う人々は妖精を素通りして速足で歩いて行きます。

 皆とっても忙しそう。


「ここには困っている人はいなそうだ」


 そう思った妖精は場所を変えることにしました。

 あちこちと飛び回ったのですが、妖精は本当に困っている人を見つけることはできませんでした。


「はぁ、困っている人ってどこにいるんだろう?」


 ため息をついた妖精は、農場のはずれでうずくまっている女の子を見つけました。


 着ている服はボロボロ。

 髪の毛もぼさぼさ。

 肌はすすけて真っ黒け。

 おまけに足が不自由なようで、傍には木の杖が置いてある。


 あの子なら願いを叶えてあげるのにふさわしいのでは?

 そう思った妖精は女の子に近づいていきます。


 そして優しく声をかけました。


「こんにちは、僕は星の妖精です。

 なんでも一つだけ願いを叶えて上げます。

 あなたの願い事はなんですか?」


 妖精が声をかけると、女の子はとても驚いていました。

 でも……すぐに信じてくれたようで、ある願い事をします。


 それは……。


「この農場のおばあさんが倒れて目を覚まさないの。

 あと一日でいいから、みんなと過ごす時間を与えて欲しい」

「……えっ?」


 あまりに予想外の願いに、妖精は戸惑います。

 せっかくの願い事をそんなことに使ってしまうのかと。


 それが本意であるか、確かめずにはいられませんでした。


「おいしい食べ物や、キレイなお洋服が手に入るよ。

 お金だって沢山もらえるよ。

 なんならお城にだって住んでもいいし、

 お姫様にだってなれるんだよ?

 素敵な王子様と結婚したくないの?」


 妖精が尋ねると、女の子は首を横に振ります。


「いい、おばあさんを一日だけ元気にしてあげて。

 私は最後にお別れの言葉を伝えたいの」


 女の子の決意は固いようです。

 仕方がないので、その願いを叶えることにしました。


 妖精はおばあさんを一日だけ元気にしました。


「さぁ、行って確かめてごらん。

 そのおばあさんは一日だけ元気でいられるよ」

「ありがとう!」


 女の子はお礼を言って、杖をついて足を引きずりながら、おばあさんが住む家へと向かいました。


 本当にこれで良かったのかな?

 妖精は不安になりました。


 せめて、そのおばあさんがどんな人なのか確かめてみよう。

 女の子の後をついて行くことにしました。


「よかった、おばあさん!」


 女の子は泣きながらベッドから身体を起こしたおばあさんに抱き着きました。

 でも……なんだか様子がおかしいです。


 その部屋にいる男の人たちは、とってもつまらなそうにおばあさんを眺めています。妖精が彼らの心の中を覗いてみると、どうやら遺産を当てにして集まって来たということが分かりました。


「お前が私を助けてくれたのかい?」

「違うよ、お星さまの妖精だよ」

「そうかい……ありがとうね。

 あんなに酷いことをたくさんしたのに……」

「ううん、おばあさんは私にパンをくれたよ。

 あとスープも分けてくれた」

「それはお前が働いた取り分だよ。

 別に恵んでやったわけじゃない」


 そう言って申し訳なさそうに微笑むおばあさん。

 星の妖精は女の子が本当に嬉しそうにしているので、願いを叶えてよかったと思いました。


 けれども、おばあさんの言葉が気になります。

 あんなに酷いこととは、何をしたのでしょう。


 妖精はモヤモヤした気持ちを抱えたまま、天へ帰ることにしました。






 それから時が経ち、再び願いを叶える時がやってきました。

 星の妖精たちは地上へ降り立つ準備をします。


 あの女の子の願いを叶えた妖精は、どうしても彼女のことが気になりました。

 地上へ降りたついでに様子を見に行くことにしたのです。


 彼女が住んでいた農場へ行くと、そこには大きな教会が建っていました。

 中へ入ると一人の老婆が彫像に向かって祈りを捧げている姿が見えます。


 あの時の女の子でした。


「君……僕のこと、覚えてる?」

「ああ、あの時のお星さま」


 どうやら彼女は覚えていてくれたようでした。

 今はもう、あの頃の面影はなく、よぼよぼの老人になっています。


「あの時、人のために願い事を使ってしまったけど、

 今ならまた僕が君の願いを叶えてあげられるよ。

 本当の願いを聞かせて欲しいな」

「じゃぁ、一つだけお願いしようかね。

 たくさんの流れ星を、夜空に」

「……え?」


 またそんなことに願いを使ってしまうのか。

 どうせ願うのなら自分のことを願えばいいのに……。


 星の妖精は彼女を説得しようと思いました。


「あの、どうして自分のために願いを使わないの?

 流れ星なんて流して何になるのさ」

「きっと、流れ星を見た多くの人が願いを込めて、

 天に祈りを捧げると思うんだよ」

「それが……なにか?」

「たくさんの願いが生まれて、素敵じゃないかい?」

「ううん……」


 星の妖精にはよく分かりませんでした。


 しかし、彼女の願いを聞き入れないわけにもいきません。

 言われた通り、夜空にたくさんの流れ星を浮かべます。


「さぁ、願いを叶えたよ。

 外へ行って見てみてごらん」

「ありがとう、星の妖精さん」


 老婆はペコリとお辞儀をし、杖をついて外の様子を眺めに行きました。


 満天の星空に無数の流れ星。

 とても美しい光景が広がっています。


「ああ……お星さま、ありがとう」


 流れ星を見上げてうっとりとした表情で老婆がお礼を言います。


「でも、こんなことをして何になるのさ?」

「妖精さん、アレをみてごらんなさいな」


 老婆は教会のすぐそばにある小さな小屋を指さします。

 その軒下で何人もの子供たちが丸太に腰かけ、夜空を見上げながら手と手を合わせています。


 彼らは何かを祈っていました。


「えっと……」

「あの子たちは、この教会で保護されている子供だよ。

 わたしと一緒に暮らしているのさ。

 彼らの願いに耳を傾けて見て下さいな」

「うん……」


 妖精は言われるがままに、子供たちの願いを聞いてみました。


『みんなが幸せになれますように』

『世の中からあらそいがなくなりますように』

『平和な世がずっとつづきますように』


 子供たちは星に他人の幸せを祈ります。


「願いはね、誰かの幸せのためにするものさ。

 自分のために願い事を使ったら、幸せになれないのさ」

「え? でも……欲しい物とかないの?

 おいしい食べ物や、暖かい寝床や、きれいな服だって、

 なんでも手に入ったのに……」


 妖精がそう言うと、老婆は首を横に振ります。


「確かに、それも魅力的だね。

 でもね、それだけじゃダメなんだよ。

 人は一人では生きられないのさ。

 他人の幸せを願う者の傍には、他人の幸せを願う者が集まる。

 けれども、自分の幸せしか願わない者の周りには、

 やっぱり自分の幸せを一番に願うものが集まる。

 世の中、そう言うふうにできているのさ」

「…………」


 妖精は戸惑いました。

 まるで自分たちの存在意義を全て否定されているかのようです。


「私はね、今とっても幸せだよ。

 アンタが叶えてくれた願いのおかげで、

 あのばあさんは財産を寄付して大きな教会をたててくれた。

 私はそこで何不自由なく暮らせた。

 だからもう、何もいらないんだよ。

 それに……私にはあの子たちがいる」

「そうですか……」


 老婆は他人の幸せを願い、自らの幸せを手に入れた。

 その心は教会で暮らす子供たちにも受け継がれている。


 星の妖精は一緒に暮らす子供と老婆たちの姿を見て、誰の願いを叶えれば人を幸せにできるのか、なんとなく分かった。


「ありがとう、おばあさん。

 これからは願いを叶える相手を迷わずに済みそうだよ」

「そうかい、それはよかった。

 私の方こそありがとね。

 願い事を叶えてくれて」

「いえ……」


 星の妖精は頭を下げて、天へと上ります。


 夜空には輝く星々と、たくさんの流れ星。

 その空に吸い込まれるように妖精の姿は見えなくなりました。


「ありがとね、お星さま。

 でもね……これだけを覚えておいて。

 願いは叶えてあげるものではなく、叶えるものなんだよ。

 他人に叶えてもらった願いは、

 夢と同じですぐにさめてしまうのさ」


 老婆は妖精が消えて行った空を見上げ、そんな風に呟くのでした。




 瞬く星が空に流れている。

 多くの人々が星に願う。


 果たしてその中の何人が、他人のために祈っているのだろうか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うわ~。とってもとっても素敵なお話でした。 心の中が洗われるような、温かくなるような、ちゃんと叱ってもらっているような、そんな気持ちになりました。 [一言] 「他人の幸せを願う者の傍には、…
[良い点] 短編だからと軽い気持ちで読みに来て、すみません。短編なめてました…。短い文章にこれだけ深い中身がこめられることに脱帽です。 流れ星の作品たくさんある中でこれを見つけられて良かったです。 …
[良い点] 「冬の童話祭」から参りました。 「願いはね、誰かの幸せのためにするものさ」と言えるおばあさん、とても素敵ですね。
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