反省▲▽容姿
「あら、そう言えばプレデックはいつの間に喋れるようになったのかしら?」
三人で食卓を囲み、スープをプレデックの口へ運ばせる最中にレイミーが疑問を呟いた。
「あれ? レイミーおばちゃんは知らないのかい? 昨日プレデックがプレデターに向かって石を投げた時に喋っ…………」
ロッドが言ってはいけない事をいってしまったかのように言葉をつまらせると掌で口元を覆った。
「あ、……やべ」
「あらあら、"何が"やばいんですか? 続きを教えてくださいよ」
レイミーのかまかけにまんまとハマり。やってしまったと言わんばかりに焦るロッドに詰め寄るように、静かにふつふつと湧き出る怒りを堪えるように、話の続きを促すレイミー。
「まさか『プレデックがプレデターに向かって石を投げる』ような事があったわけではないですよね? 旦那のアルメロからはロッドさんがあんな姿になりながらもプレデックには"傷一つ付けないで"守ったって聞きましたけど、今の様子だとまるであなたがプレデックの側に"居なかった"、感じがしますけれども?」
レイミーは止まらない。
「では教えてくださいプレデックが喋る瞬間"何が"、やばかったんですか?」
レイミーはこれ以上にない怒りを、隠しきれていない薄い笑顔で誤魔化し、ロッドに話の真相が何だったのか問う。
「すみません……実は最後の最後まで守りきれたわけじゃないんです…………」
急所をこれでもかと刺されたロッドは、観念したのか昨日起きたことの内容を、先程とはまた違った青ざめた表情で説明し始めた。
「はぁ……、全く……あなたって人は……」
話を最後まで聞いたレイミーがため息を溢した。ロッドはショボくれている、骸骨みたいだ。
(うける)
ロッドの様子を面白がってみていたプレデックは鼻先で笑った。
「それにしてもおかしいわね……この地域のプレデターはあまり人里のある場所には降りてこない筈なのに……」
ため息混じりにそう呟くレイミーに、ロッドはビクッと肩を上げた。その様子をピリついているレイミーが見逃すわけもなく。
「あら……なにか心当たりがあるのかしら?」
またもや姿を現す鬼の気配。血気迫るその威圧は意見する者を黙らせる様な拘束力がある。ロッドは目を右へ左へ泳がせながら口を開いた。
「いやー、あのですね。最近アルメロおじちゃんとよく狩りに出てるじゃないですか、その時初めてアルメロおじちゃんに成長した姿を見せようと思いましてですね。分身を作ったんですよ、その分身に動物が好む魔力を加えて罠の前に待機させて狩りを楽してたんです……」
「それで?」
レイミーはロッドが言葉を詰まらせると間髪入れずに続きを促した。
「まあ……その、いろんな所に仕掛けたり時々動かしてたんですよ。そうすると木葉とか茂みとかに魔力が付くじゃないですか。それで段々その辺りの濃度が濃くなって動物が近寄って来てこれがもうすごくてすごくて……。たくさん集まるし一石二鳥みたいな。あは……」
「それでその動物達を狙ってお腹を空かせたプレデターも人里の近いところにまで降りて来たと……」
「はい……」
(なるほどな、確かにあの熊……あれが沢山動物を食べると言われれば納得できる。多分一口で完食だろうな……)
あんな図体をした怪物だ、あの大きさなら食べる量が増えるのも必然的で、動物の一匹や二匹じゃ空腹は満たされないだろう。
しかもあの数だ、そんな常に腹をすかした生き物が食料の豊富な所にやってくるのは当たり前で、食われる側にも欲があるわけで少しでも惹かれる匂いにやってくるのは当然だ。これが食物連鎖、そこを考慮しない辺りやはりこの男、
(アホだな……)
「それでアルメロは何処へいったのかしら? 治癒魔法で応急処置をされたあなたが運ばれた後すぐに居なくなったけれど」
「多分俺の魔力の残滓を処理しに行ったと思われます。」
「はぁ……、本当にあなたって人は……」
レイミーが呆れきっている、プレデックもだ。この男のせいでプレデックは死にかけたのだと考えるとゾッとしない。
「それで……後で聞こうと思っていたけれどあの荷物もそれと関係があるのかしら?」
荷物、玄関前に置いている木箱の事だ。
「はい……あります……」
「言いなさい……」
これ以上は聞きたくないだろうに、レイミーは事の顛末があまりいいものではないのを知っていながらも自分にも非があると思い、渋々話の続きを聞くことにした。
「朝、傷口の修復を速めるために村にポーションを取りに行ったじゃないですか。それで村に着いたらプレデターを倒したってことを昨日アルメロおじちゃんが村の人達に言い回してたみたいでですね。それでみんなが俺に御礼をしたいって言って来て既に渡す物を用意してたみたいでですね……。それです……」
ロッドは長々と説明をすると、少し柔らかい表情を浮かべた。きっと良いことをしたと思っているのだろう。
「ロッドさん……あなた、自作自演だったと言うことをちゃんと言ったのかしら?」
「言いました……」
「……それでも脅威を追い払ってくれたのが嬉しかったってとこかしら……」
「多分……そんな感じですね……」
レイミーは今まで以上に呆れ返って言葉が出ないでいる。その表情からはうんざりしたような気持がうかがえる。
(ん? 今のはなにがいけなかったんだ? 普通に良いことをして感謝されるのは悪いことじゃないだろう?)
プレデックは今の話の搦手が何かいまいちつかめていない。
(まあ俺が村人の立場だったら確実に許さないが……、だって死ぬかも知れなかったんだもんこいつのせいで!)
「まあ、あまり聞きたくなかったことですけどプレデックは無傷でプレデターを退治したのは事実ですし、大目に見てあげましょう……」
(ん? 俺は傷を負ったぞ? 背中に……。剣士じゃないから恥じてはいないが気づいてないのか?)
プレデックは今の会話が少しずれていることに気付く。実際、プレデターを一匹取り逃してる。今もアルメロがこの場にいないのはきっとその残党狩りもしているからだろう。
プレデックはそう思いロッドをチラッと見ると目が合った。
「……」
尚も目を泳がしている。
(あぁ……。そういうことね……、まあ確かに嘘は言っていない。言っているとしたら俺の背中の傷だろう、治癒魔法とやらを掛けて何とか誤魔化したんだろうな)
もう一度ロッドに振り返える。
「…………」
また目が合った。
このままロッドで遊ぶのもいいが一応その身を犠牲に守ってくれた漢。プレデックの情の懐は深い。
(仕方ない……許してやろう)
そんな感じで凍っていた食事の雰囲気も解消され今日の昼食の時間が過ぎていった。
▲▽▲▽▲▽▲▽
食事が終わってレイミーが食器を片付けてる最中、プレデックはというと。
木箱の中身が再び気になり中身を物色していた。
(これは……さっきロッドが俺にデマを流そうとしたバナナだ)
バナナを手にしたプレデックは皮をむいて見るが、見た目は完全にバナナだ。
(どれ、味見をしてやろう……うん……味はバナナだけど少し甘いな)
子供の味覚ってやつだろう。果物を物色してると、
「おっ! プレデック、さっきも見てたがやっぱり気になるのか?」
プレデックが木箱の中身を物色している姿をテーブルから離れずに、昼食の時から萎縮していたロッドが話しかけてきた。
プレデックは首を縦に振ると、
「そうかそうか! 気になるものがあったらなんでも聞いてくれ!」
喜々とした笑みでそう言われプレデックは物色を再開した。
(なんだこれは……)
プレデックが手にした物は子供用の女服だ。
(子供服なら分かるがなぜ女物なんだ? 理解が出来ない)
嫌な予感がする。プレデックはそう思いながらも衣類を全部確認してみた。が、それは的中した。
(どれも女用じゃねぇか!)
服は全部子供服で。現代でよくあるパーカーやトレーナー等がない。異世界でありながらも目の前にある衣類はどれも現代の地球の技術にはない様子の、古い感じの物ばかりだ。
(なんと言うか……中世、もしくはそれより前の人達が来てそうな服ばかりだな。この中で一番現代を感じられるのは……これか)
白と薄青色のセーラー風の服と膝上まであろうパンツ。広がるような襟には外周ら辺に白い線が引いてある。正面にはリボンが、全体的にふわっとした感じで。
(割りと好みだ)
だがプレデックにはまだでかい、多分着るとしたら三歳位からが最低は必要だろう大きさのそれは制服に見えなくもない。他にもゴシップな服にドレスもあった。
(一体誰の物なんだ。俺はちゃんと股間が付いてる男だぞ全く)
っとそんな感じでプレデックが衣服を漁り終わると、
「興味あるのか……?」
ビクッ!。
背後から、わざわざしなくていい低い声色でロッドがプレデックに耳打ちをして来た。服をまじまじと見ていたプレデックがロッドには楽しそうに見えたのだろう。プレデックはロッドの顔を見やると彼は目を細めてニヤついた顔で見てきていた。
(うぜぇ……)
「その服がかわいくて着てみたいのは分かるけどプレデックにはまだ早いなぁ~成長はまあまあ早いけド」
語尾がカタカナになったのを感じた。
(超うぜぇ……)
プレデックは手に取っていたセーラー風の服を、しゃがみ込むロッドの顔面に投げ捨てて、中身がよく分からない袋を開いた。
(鏡だ)
そう言えばプレデックは自分の顔を見たことがない。
普通この年なら鏡で自分の姿を見たところで理解できない。だが、プレデックには前世の嫌な思い出がある。前世の容姿のせいで始まった苦い記憶。
(思い出したくもねぇ)
改めて鏡であることを確認すると余計に自分の姿が気になってきた。鏡に手を伸ばし、自分の見た目を確認しようとすると。背後から別の手が二本出てきて先に鏡を持ち上げた。
「あっ!」
プレデックは思わず声をだした。
「プレデック、鏡って知ってるか? これは自分の姿を映してくれるんだぞ」
(知ってるわ!)
既存の知識を説明してくれるロッドだが鏡を取り上げられプレデックはふくれ面をして多少の怒りを表していた。
「ほらプレデック、自分の姿を見てみろ」
そんな様子を気にも留めずロッドはプレデックの前に鏡を出してきた。
プレデックは自分の姿を見て思わず目を見開き口をぽかんと開け唖然とした。そのアホ面がまんま鏡から帰ってくる。
否、アホ面ではなく、むしろ可愛いという表現がぴったりとあてはまる。
(褐色の肌なのは知っていた、自分の腕を見たらわかる)
整った端正な顔立ちは美しいと言うより純粋に可愛いが似合い。純情可憐なその姿は、現代ならば誰もが視界に入るだけで一度は目に留めるような、他では類を見せない圧倒的な個性とも言える。まるで太陽光を写し出したかのような白銀のまつ毛の下に宝石を思わせる翡翠のような緑の瞳、何より生えかかった髪の色が白銀色なのに所々黒色も混ざっている
(いったいどんな遺伝子をしているんだ)
プレデックはこの世界でまだアルメロとレイミー、そしてロッドとしか関わってない。外を知らないプレデックにはこの三人がこの世界の容姿の基準で、その三人はいたって普通の見た目だ。アルメロは禿げておりレイミーはエアネットを常日頃から被っているからわからない、これが普通だとおもっていたプレデックだが、
(もしかしたら俺みたいなやつが普通なのかもしれない)
すぐに冷静に物事を捉えるのがプレデックの特徴だ。ポジティブになるのが速いがやはり、一番の問題はそこではない。
(俺は男がぶら下げているはずの股間がちゃんと付いててプレデックなんてかっこいい名前をしているのにこれじゃ……)
一旦冷静になるもやはり今の状況をうまく受け止めきる事ができない。
――(完全に女じゃねぇか!)――
いやービックリですね…今まで何とか容姿をはぐらかしてきましたけどここまで来てやっと主人公の容姿がわかりましたよ笑笑主人公も案外気に入ってたり入ってなかったり?笑笑
さて、次話ではいよいよ主人公が魔法を使います!
待ってました!長かったです!実に長かった!早く主人公に魔法を使わせたいです!語彙力が…笑笑