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転生したひねくれ者は二度目の人生をどう送る?  作者: すり寄る玉の輿
幼児期
4/30

開戦▲▽二回戦

 

(おいおいまじかよ……一頭でもめちゃくちゃなスケールなのに、三体とかありかよ……)


 とある森の一角、比較的開けた広場のような場所でプレデター三頭とロッド、プレデックが相対する様な形で対峙していた。プレデックは固唾を呑み、冷静に状況の整理を始めた。


 アルメロは広場から東と西に繋がる拓けた獣道の東の方へと向かっていたので偶然鉢合わせなかったのだろう。


(にしてもでかすぎだろ、動物園で見た地球の熊の三倍はあるぞ)


 プレデックは獣歩きをするプレデターの姿を実際にその目で見やると異常なまでのスケールに感嘆の意を晒した。

 その上、足と背中に鉱石を生やしてるときた。異端すぎる大きさに加え、見るからに堅そうな鉱石が目の前の異獣のその巨躯を、外傷から守るために生えているようにも見える。そしてこちらの双眸を刺し貫くような殺気を放つ眼光には、プレデックの肝をこれでもかと潰しにかかってきてる様にも感じられる。


(これは無理だ……死ぬ)


 プレデックは一概に思考を巡らせると状況の整理が着き、結論を出した。着いた結論が完全に行き詰まっていることを理解すると運が悪かったのだとプレデックは生きることを断念してしまった。

 だが、プレデックのそんな思いを知ってか知らずか、諦め、ひょっとした意気地さえもを捨てるプレデックに呼応するように更なる不安が押し寄せた。


「グルルルアァァッー!!」


 地響きに似た轟音に近いような吠え声が森中に轟いた。その吠え声が赤ん坊であるプレデックの本能は警鐘を知らせてきた。

 泣き出したいと、本能が抗議をするがそれとは別に防衛機制がその抗議に抑圧をかける。

 もしここで泣き叫べばあの異体なプレデターの神経を逆撫でするだけだと。


「よく泣き叫ぶのを我慢したね、今のお前はめちゃくちゃかっこいいぞ」


 泣き叫びたい気持ちをぐっとこらえるプレデックに二言、安心させるような声で宥める人物が一人、ロッドだ。いち早くその異変に気付き警戒をしていたその男が、不安を払拭させる様な穏やかな顔つきでプレデックを見下ろしていた。

 さすが狩人といったところか、目前の化け物と相対するのはこれが初めてではないみたいだ。これまでの踏んできた場数が違うのだろう。


(若干半泣きなんだけどな……)


「まずプレデターは自分の存在を主張することで他の生き物達からの無駄な干渉をさせないために咆哮する」


 ロッドは頭の中で整理仕切れない事を口に出して、整理するように、自身に言い聞かせるように独り言を始めた。


「そのお陰でいままで仕掛けてきた罠に他の生き物が掛かる心配が無くなる、それを使ってなんとか仕留めるか、もしくは撃退するか……よし。」


 ロッドは整理が終わったように頭を縦に振り、頷くと反射的に構えていた弓に手を伸ばし矢尻を摘まみ引き伸ばす。臨戦態勢からプレデックを守るような厳戒体勢に変えた。


 他の生き物がこの場を離れる気配を感じ取ったであろう様子のプレデター達が再度こちらを確認して唸ると、お互いの殺意を込めた視線が絡まり、ロッドはジリジリと後方へ後ずさり自身とプレデターとの距離を引き伸ばしている。


 最初に動いたのはロッドの方だった。プレデター達と顔を合わせ相対したまま後ろへ飛び移り、宙に舞いながらもそのまま指を放し矢を射く。放たれた矢には強い風が纏われており、真ん中で威嚇する一番体のでかいプレデターの瞳目掛けて一直線に飛んでいった。

 風を纏っているお陰なのか矢の速度は今まで狩猟をしてきたときと比べて格段に速い。プレデターもその速さに身が追い付かずそのまま左目に矢が突き刺さると痛みと衝撃に後退さった。


「グゥルルアァー!」


 今までは弱風が矢にまとわりついていたからか魔法かどうか判断するのには一押し足らず難しかったが、今回のは明らかに魔法と言った方がしっくりくる程に矢に纏わりつく風は強かった。

 眼球に矢が突き刺さり後ずさるプレデターを、気にも留めないで両サイドにいた残りのプレデターが雄叫びを上げながらこちらに迫りかかった。


 ロッドの二歩目は後方へ、高い跳躍で未だ相対する形を崩さなまま森の中へ飛び込んだ。その際、追撃でもう一本、強い風を纏う矢を左から攻めてくるプレデターに放ち、それが眼球に突き刺さ、りはしなかった。

プレデターは飛んでくる矢を完全には見切る事はできなかったが、前回のプレデターと同じようにはいかず、その身をよじり矢先が肩口に突き刺さるとなんとか致命傷を避けた。

 プレデターは体勢を崩し身を回転させると地面に引っ張られるように倒れこんだ。


「さすがに二本目も目ん玉に突き刺さる、なんてラッキーパンチはプレデター相手じゃ無理か……」


 何の手も加えられていない、ライトから迫りくるプレデターが調子を崩さずにそのままロッドを追いかけ森の中へ入ると、残る二匹も怒りに全身を震蕩させ最初の一匹から遅れをとりつつも森の中へ四つの足を踏み入れた。


「へっ、森の中ならアルメロおじちゃんほどではないけど俺の専売特許の領域だぜ! オイウル・アバターロッド!」


 そんなことを言い、森を駆け抜けながらロッドは詠唱を唱え魔力で出来た分体を前方に二体だした。分体と言ってもシルエット位しか把握できない。だが、そのシルエットが力を発しているのをプレデックには感じることが出来たようで、多分この力が魔法というものなのだろうと思っていた。


 シュバッ。


 プレデックがそんなことを考えていると分体二体が各々右へ左へと高く横飛びをした。なんと、木々草々にはぶつからず、すり抜けていった。魔力だけでできているためか物体としては実在していないのだろう。


「これでなんとか居場所を誤魔化して分散させて足止めを、一体ずつ確実に倒して行かないと、やっぱり守りながらだと厳しいな」


(……む)


 そんなことを言うロッドに、プレデックは自分が足かせになっていることを少し嘆いた。


「でも、守るべきものがあるとその分力が沸き上がるんだよなぁ」


 ロッドはそうつぶやくが、悲観するプレデックには届かなかった。


 ある程度進んだところで来た道を振り替える、もちろんプレデターは付いてきている。

 だが、一体だけで矢が刺さっていないところを見るに、最初に右にいたプレデターだと推測される。咆哮をしながら攻めにくるプレデターは勢いを収めること無く大口を開けロッドに突っ込んできた。それに対抗するようにロッドは弓を引きお互いが衝突しようとするその時、プレデターの体がよろめいた。


 先の道中、ロッドとアルメロが二匹の動物を背負いながら森の広場へ向かう途中にいくつか仕掛けておいた罠にプレデターが罹ったのだ。後日掛かったら良いな程度で仕掛けておいたとらばさみ、大きさは合わないが鉱石の生えていない右前足の蹠行に反応し、思いっきり閉じていた。

 プレデターの蹠行は硬く、とらばさみが閉じきらない。プレデターは驚きそのままよろけるが蹠行に刺さったとらばさみがとれず、体勢を戻そうと足を地面に着けると更に深々ととらばさみが突き刺さった。


「今さっきちょちょっと仕掛けを増やしておいたトラップだぜ、普通の動物だったら足がへし取れる位の威力のはずなんだけどな」


(おおすげぇ)


 っとプレデックは感心して見せるが、ロッドが今さっきとらばさみに向かって詠唱をしていたのを見ていたから知っていた。


 プレデターがよろめき隙を作る。その隙を逃さずロッドは詠唱を唱えた。


「イミイル・バーストウィンドウ!」


 先ほどまでとは違い矢を纏っていた風がより強い風を、今度は矢だけでなく弓にも纏わせている。ロッドが腕を伸ばし、弦を引くだけで周りに落ちていた草木が宙に舞い散った。


「グギャァァッ!」


 その間、プレデターはとらばさみが深く刺さるためその痛みから避けるために仁王立ちしていた。鉱石のはえていない胸の方へと力いっぱいに放たれた矢が一直線に加速し突き刺さろうとした。

 だが、標準として定められたプレデターの胸の前に、プレデターは鉱石の生えた左前足を矢面へと突きだした。隙を取られ避けることができないと判断したのか、プレデターは自身の足の鉱石の硬さを利用してなんとか向かってくる矢を弾こうと試み見たのだ。


 バギンッ。


 甲高くも何かが破裂したような鈍い音を出し、プレデターの思惑とは裏腹に、鉱石を砕き左前足を貫く矢が一本。防御のためにと差し出された前足には大きな風穴を作られており気づけば左前足が消えていた。


 前文の際に、勢いを殺した矢がプレデターの胸に突き刺さり、矢に纏わり付いた風の後撃が炸裂し内蔵を強く抉った。プレデターはのけ反り、トラップで突き刺さった右前足を地面に着けるが蹠行へ、更に深くへ追い打ちをかける痛みに悶絶すると無くなった左前足を地面に着けようとした。

 だが、左前足がなくなったことに今更気づきそのままバランスを崩し前倒れてしまった。


「さて、ここまでは順調だが分体がひとつ消えた……もう一匹が援軍にやってくるのもそんなに遅くない、とっとと仕留めさせてもらうぜ」


 そう言い、先程と同じようにロッドが詠唱を始めようとするとプレデターが今まで以上の殺気を込めた咆哮を上げた。その咆哮には痛みによる苦鳴も含まれていたのか声色が最初の時とは違う。

 背中に生えた濁った白色をした鉱石が薄ピンクへと変色し、咆哮と共に高熱を纏う数多のビームが曲線を描きながらロッド目掛けて飛んできた。


「そうくると思っていたぜ、オイウル・アバターロッド!」


 ロッドはプレデターの動きを予測していたみたく、プレデターの反撃に反応するように両サイドに1~2メートルほど離れたところに、先程と同じように二体の分体を出した。

 怒りに燃えるプレデターの背中から放たれたビームがロッドの作り出した分体へとまっしぐらに向かう。放たれた光線を浴びた分体が消え、高熱を纏ったビームがその背後の木々を次々と焼却した。


 分体には向かわず、狙いを見誤った光線のとは違い、標準を変えずに残った数本のビームがロッドを襲う。ロッドは背後に飛び去ると木々を盾に自身に迫るビームに対処した。

 木々に移したその身を乗り出し、先程の動作で疲れているのか、地面に倒れるプレデターに向かって木々の後ろで既に唱えておいた詠唱で矢に風を纏うと、ロッドは目の前の疲労した獲物に狙いを絞り仕留めにかかった。


「イミイル・バーストウィンドウ!」


 矢は木々の隙間を通り抜けるのに対して最後の気力で足の痛みを堪え、仁王立ちに立ち上がるプレデターは、前足を広げ咆哮をした。プレデターの、その場限りの最恐最後で最大限の威嚇に、矢はその咆哮を無慈悲にも無視をし、標準とされた獲物の胴体に大きな風穴を空けその任を全うした。


 大きな空洞を作られたプレデターは、自身を支える力を失い前倒れると今度こそ絶命した。



 ▲▽▲▽▲▽▲▽



(やった……)


 あの化け物を倒した。そう思いひとまず窮地を脱したプレデックは感慨に浸るがそんな彼とは別に、対照的な態度を取るのはロッドだった。ロッドはプレデターを倒した事に感嘆の余韻に耽るわけでもなく、間髪いれずにかすみ網を北西の方角に立ち並ぶ木々の間に張り付け始めた。


(そうだった……あの熊は三匹いたんだった……。一匹倒したくらいで安心してちゃだめだな)


 プレデックは気を引き締めてこれから起こる事象に身構えた。


 ロッドは詠唱を唱えると淡い光がかすみ網に振りかけられ、今度はかすみ網から数十歩離れたところで地面に向かって詠唱を唱えた。


「オイウル・ピットトラップ!」


 少し時間が掛かったが、詠唱と共に目の前の地面から落とし穴ができ上がった。ロッドは落とし穴に向かって更に詠唱した。


「エーミル・ドーンソイル!」


 すると落とし穴にたくさんの棘が生えた。


(魔法って便利だな……)


 プレデックが一連の動作を見るとそんな平和ボケたことを考えていた。ロッドは険しい顔つきをすると顔を上げた。


 ロッドの分体が消えてからおおよそ五~六分が経った頃に北西の方角から咆哮が聞こえてきた。


 ドスンドスン。


 地面に足を着ける際に出る音なのだが常識的に出る音ではない轟音が、森中に響き渡るのを聞きながらロッドは茂みにその身を隠し、いつでも詠唱が唱えられる状態で矢尻を摘まみ、プレデターが姿を現すのを今か今かと泰然自若(たいぜんじじゃく)な様子で待ち構えている。


 互いが慎重に、でも確実に距離が縮まる中、プレデックは先程のロッドの一連の動作から立てられた作戦を頭の中で反芻した。


 作戦はこうだ、プレデターが先程仕掛けたかすみ網に掛かり、視界を遮られ困惑している間にできた隙を使って一撃、高火力ならぬ高風力の矢を放つ。先程絶命したプレデターと同じように大きな風穴を胴に作り即死を狙ったいたってシンプルな作戦だ。

 仮に仕留め切れなかったときは落とし穴に落として二度目の隙を作り前文と同じようにする。ただそれだけだ。


「いつでも来い……」


 プレデックが一通り作戦の概要を振り返るとロッドが獲物を捉える時とはまた別の殺気立った鋭い瞳をし、小声で呟いた。ロッドから少し距離を置いたところでプレデターの足音がかなり近くなるのを確認した。


 準備は万端覚悟も決まった。ロッドは毅然とした態度で有利なこの状況に向き合う。


「グルルル……」


 ドスン ドスン。


 ──獣の発する唸り声と足音をゆっくり立てプレデターがやってきた。──


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