プロローグ
「あら、アナタ笑ったわよ!」
「お、良い夢でも見てたんかのう」
瞼を開けるとそこにはシワとシミで形作られた老夫婦が見下ろすように彼を覗き込んでいた。
(何だこの老夫婦は……)
首を巡らせ自分の置かれている状況を確認しようとするも、体が動かせず、あまりに不自然な状況に彼の脳は理解が追い付かない。
(いつまで俺を見下ろしてるんだ?見てるとだんだん腹が立ってきた……)
いつまでも自分を見下ろす老夫婦に腹を立てる彼は決して短期というわけではない。
ただ、性格が少し悪く、思考が少しひねくれており、今の彼が置かれている状況をいつまで経っても説明されず、ただひたすらに微笑ましく見下される事に苛立っているのだ。
彼自身、いつまで待っても状況説明をしてくれない老婆に対し、理由を考えるより先に苛立つのが先立つ。
なので一言物申してやろう、そう思い目の前の老夫婦にむけて彼は口を開いた。
(……?)
彼は口を開くがいつもと違うちょっとした“違和感”を抱いた。
(声が……出ない?)
「あらあら、口をパクパクしてお腹でもすいたのかしら」
「おほう…かわええのう息の仕方でも忘れとったとかかのう?」
カチン──。
目の前の老夫婦が違和感にせき止められた彼のアクションに反応した。その言葉を聞いた彼の堪忍袋の緒がぷつりと切れた。
(このジジイ共……俺の三倍は生きてそうな面して完全に煽ってきてやがる、20代後半の崖っぷち人生の大人にそのトーンでの老人どものその冗談、笑えない、完全にキレた)
彼は今度は腹の底から声を出した。
「うわーん」
─泣いた─