非常識の権化に5票
毎日投稿します。がんばる
僕らは今、大通りを歩いている。
皇城の周りを見て回ることになったのだ。
時間的に、紹介状を貰いに行くなら早めに行ったほうが良いと言ったのだが、サイラスさんは後で良いと言って聞いてはくれなかった。
『紹介状を書かせる』事自体、非常識なので早めに行っておいて損はないと思ったんだけどな。
アータイルオークションの紹介状は少し特殊であり、同等の立場の人からの紹介状では参加できないのだ。
一部の招待状をもつ者―――皇族など頂点に立つ者達―――以外は上の立場の人の紹介状でないと入れない。ちなみに英雄の2人は手ぶらで参加OKだ。
なぜこういう制度になったかは知らないが、これで『書かせる』というのが如何に非常識か理解いただけただろう。
目上の人に『書かせる』って...
しかも直前に押しかけるとは...
でも、サイラスさんは会ったときからどこか掴みどころのない人だったので、もうなんでもありなのかもしれない。
しらんけど。
「あ、サムさんのお店、もうないんだ...え、ぱっつぁんのも?まだ15年くらいしか経ってないんだけどなぁ。帝都だからしょうがないかぁ」
先程から、サイラスさんは通りの店を見回しては独り言をこぼしている。
僕には『サムさん』や『ぱっつぁん』もわからないが、サイラスさんが15年前には帝都を訪れていることは察した。
しばらく歩いていると、急にサイラスさんの足が止まった。
「どうしたんですか?」
「........」
訪ねても返事がないので、顔を覗いてみると、懐かしいような、少し寂しいような、悲哀の感じ取れる表情を浮かべていた。
相変わらず口元は仮面で隠れているので、目でしか判断はできないけれど。
その、サイラスさんらしくない表情の原因が気になり、その視線の先をたどってみると、それは一人の男に向けられていた。
その男は異様な存在感を醸し出しており、周りには若いお姉さん達が集まってチヤホヤされている。
少し羨ましいと思ったのは内緒だ。
15、6歳ほどの外見で、目がぱっちりと大きく、顔が整っている。
髪は薄い金髪で少しパーマがかっており、前髪をピンで止めている。目はオレンジ色で、元気溌剌とした雰囲気。
その外見の影響か、背は少し小柄に見えるが、少なくとも170はいっているだろう。
「サイラスさん、お知り合いですか?」
「え?あ、ううん。なんでもないよ。行こうか」
先程は何だったのだろうかと、気になりながらもサイラスさんの後をついて行く。
「ここだよ、紹介状製造マシーンがいるのは」
「しょ、紹介状製造マシーン!?」
「そーそー」
そう言いながら彼は帝都の中でも一際立派で目立つ建物の中に入っていった。
僕は数歩下がり、その大きな看板を読む―――『アータイル商会本部』
「え!?ちょ、サイラスさん!??」
慌ててサイラスさんを引き留めようとするにも、彼はすでに受付にいた。
まさか、あの人はアータイル商会に紹介状を書かせるつもりなのか...!?
アータイル商会会長、グレゴリー・アータイルといえば侯爵以上の権力の持ち主。下手をすれば公爵にも匹敵すると言われている。
そんな人のもとに急に押しかけ、紹介状を『書かせる』なんて....頭が痛い。
なんとかサイラスさんがトラブルを起こさないように連れ出そうと受付に近寄ると、二人の会話が入ってきた。
「え、じゃああの2人にも言ってないの?」
「敵を騙すにはまず味方からだよ。」
「ふふっ、敵なんてもういないじゃない」
「それもそうだけど...面倒じゃないか」
「ふふふっ、相変わらずね!安心しましたよ。本当に、もう会えないんじゃないかと...」
...驚いた。すごく、親しげだ。
その場には既に秘書と思われるエルフの女性がサイラスさんと話していた。
エルフは、希少種族であり多くの国家で保護されている...事にはなっているが、彼らはその高すぎるプライド故に、その『保護』を一切受け付けず、人間と馴れ合うことを良しとしない。
なので、エルフが一人の人間と親しげに話すというのは、普通なら考えられないのだ。
「あら、そこの方は?」
エルフの女性が僕に気がついたようで、サイラスさんに尋ねる。
「カイル・レヴィリア君」
「あっ!この子があのカイ坊??」
「かっ、カイ坊!?」
カイ坊ってなんだ。僕はこの女性に会ったことがあるのだろうか?
こんなに綺麗なエルフ、一度会ったら忘れないと思うんだけどな。
「大きくなったわね〜!あのときはまだ剥げてたのに!」
「リリィ、赤ちゃんは剥げてるとは言わないよ。」
「そう?でも頭がテカっていて陸に上がったニュウドウカジカみたいだったわ!」
「ニュウドウカジカに謝れ」
「そこは僕にじゃないんですね!!」
なんだろう、サイラスさんってツッコミ属性だと思っていたけど、意外とボケなのだろうか。
エルフの女性―――リリィさんは天然だろうから、ツッコミは僕しかいないことになる。
ツッコミが追いつかん。詰んだ。
しばらく受付の横で雑談をしていると、小柄な女性が寄ってきてリリィさんに耳打ちした。
すると、リリィさんは目を輝かせて、パシン!と手を叩いた。
「我がアータイル商会会長が出張より帰ってきましたので案内いたします!」
そうして、足元に白い魔法陣が浮かんだかと思うと、気がつくと目の前に彫り細工の美しい木の扉が現れた。
「どうぞ、中へ!」
そう、満面の笑みで促してくる。
僕が扉に手をかけようか戸惑っていると、サイラスさんがなんの迷いもなく勢いよく扉を蹴りあけた。
「!??」
何してるんですか!?と、僕が叫ぶよりも早くサイラスさんは次の行動をとった。
彼は遠慮の欠片もなくズカズカと部屋の奥へ進んでゆく。
この人の辞書には遠慮という文字はないのだろうか。
「ぐれちゃん!」
「!!アラス様!私が出張しているときは急に押しかけないでと何度言ったら!!」
慌てて奥から出てきたのは、眼鏡をかけた深緑色の髪をした細身の男だった。
グレゴリー・アータイルの部下だろうか?
「ごーめんて。でも、久し振りに俺に会えて嬉しいだろ?」
「それはもちろん!」
「15年ぶりだっけ?」
「23年と1ヶ月です」
「あれぇ、そんな経ってたっけねぇ?」
「経ってますよ。本当、もう一生会えないと思い、嘆いていましたのに。まさか生きているだなんて......おかえりなさい、アラス様」
「うん、ただいま」
どういうことだろうと、あまりの情報量故に話の内容がイマイチ理解できず、助けを求めるようにリリィさんに目をやると、彼女は「よかったですねぇ」と涙ぐんでいた。
話を聞いていると、まるでサイラスさんが死んでいたような...うん、わからん。
頭が追いつかず、諦めて思考放棄している間も、2人の会話はどんどん進んでゆく。
「そういえば、ぐれちゃんってカインの子が生まれたとき出産祝いに行ってたっけ?」
「もちろんですよ!とても元気の良い赤ん坊だったのを覚えてます」
「そっかそっか、俺もその場にいたかったなぁ」
「「くればよかったのに」」
「え、なんでリリィもハモるの??」
「あ、すみません、つい」
そう言ってリリィさんはバツの悪そうに眉をひそめて笑った。
「あ、そういえば、だ。アラス様はあの時からずっと生きていたんですよね?怪我も何もなく普通に。」
「そーそー」
「あの死んだフリって、もしかしてタイミングも全て――」
「図った」
「「ですよねぇ...」」
「なぜハモる」
リリィさんは、またやっちゃった、と可愛らしく笑った。
「でも本当、受付のところに凄く懐かしい顔があったものだから心臓が飛び出るかと思ったのよ?
幻覚でも見てるんじゃないかと。きっとグレゴリー様からの日頃のストレスよ!って思って」
「ぐれちゃん、そんなリリィいじめてんの?」
「いじめてません!!リリィも洒落にならない冗談はやめてください!」
「ふははっ、相変わらずだねぇ、2人は。全然変わってないや。ぐれちゃんは老けたけど」
そう言って笑うサイラスさんは、どこか孫を見る祖父のような目をしていた。
「20年以上経って老けてない方がおかしいんですよ。リリィはエルフだからともかく、貴方全然老けてないでしょう?理由は聞きませんが。」
「あれ、ばれちゃった?一応口元隠れてるのに」
「わかりますよ。しかし、リリィ。よくこの人がアラス様ってわかりましたね。この仮面、認識妨害の付与魔法がかかっているのに」
「はい。その仮面は元は完全に顔を覆う普通の仮面だったのはご存知ですね?」
「ああ」
「その仮面が、戦闘時に口元以外が欠損してしまいました。しかし、お父上の形見だから捨てたくないとアラス様がおっしゃいましたので、私が認識妨害魔法をおかけしました。以上。」
「リリィは細かいところも説明するよねぇ。最後適当だったけど。ま、つまりその付与魔法をかけたのがリリィだったからだよ」
「それに、いくら口元が隠れているとはいえ、アラス様のような瞳を持った方は生まれてこの方1614年、見たことがありませんので!」
リリィさんはそう言って誇らしげに笑った。かわいい。
1614歳か。かわいい。
話の内容はわからないけど。かわいい。
「なるほど。その仮面、ミヤルとカイン対策でしょう?ここでは外しては?」
「いや、一応つけておくよ。まだ警戒しておかないといけない人もこの場にいるわけだしね。」
「?」
「ほら、そこでアホ面かいてるカイルくん。」
「カイル...?って、カイ坊ですか!?」
だからカイ坊ってなんなんだ。誰なんだこの眼鏡は。
「そうそう」
「なら外せませんね。しかし、一緒にいるのは危険では?」
「大丈夫だろう。カイル君は自分の父の事を一切聞かされていないようなんでね。」
「なるほど、そうでしたか。あ、そういえば昔―――」
そうして、2人(たまにリリィさんも混ざるが)が話しているうちに、窓から差し込んでくる光は赤く色を変え、また暫くすると中央通りの黄色い街灯の弱々しい光しか入ってこなくなった。
退屈にしていると、リリィさんがチェスの相手をしてくれた。
リリィさんは驚くほど強く、全て惨敗だった。もう軍師にでもなってはいかがでしょうか。
42試合目を開始しようとしていると、サイラスさんたちの方で動きがあった。
「かなり話し込んでしまいましたね。して、アラス様。ご用件は?」
「あぁ、ぐれちゃん。明日のオークションの紹介状を書いてはくれないか?」
「明日の?なんだ、そんなことでしたか。貴方ならいくらでも誰かから騙し取るなりできたでしょうに」
「君、俺をなんだと思ってんの」
「歩く天災、いや、非常識の権化ですかね」
僕は非常識の権化に一票。
「グレゴリー・アータイルくん???」
「すいませんすいません冗談です」
「知ってる。で、書いてくれるかな?」
「勿論です!というか、貴方なら紹介状なしでも入れましたのに。」
さっき、サイラスさんが『ぐれちゃん』って人をグレゴリー・アータイルと呼んだ気がしたが...気のせいだろう。
まさか、いくらサイラスさんでも金融の要グレゴリー・アータイルを『ぐれちゃん』なんて変なあだ名で呼ぶわけが...
いや、ありえるような気がしてきた。それに、先程からスルーしていたが、サイラスさんのことを『アラス』と呼んでいるのも気になる。
うん、わけわかめ
「そんな事したら目立つじゃないか」
「それもそうですね。それより、なぜオークションのことを知って?先程あの『神秘の森』の奥に住んでいるとおっしゃいましたが...それに貴方の情報網も途絶えているでしょう?」
「あぁ、それは風にそんな噂が乗ってたから耳に入ってね。暇だったから風にのって流れて来る微かな魔力に込められた人の意思を読み取って遊んでたんだ。」
「なるほど、相変わらずの非常識っぷりで安心しましたよ。」
「ちょっと一旦絞められたい?(笑)」
「(笑)を口で言う人初めてみましたよ」
そんな会話をしながらも、グレゴリーさん―――認めたくはないが―――はテキパキと紹介状を書いていた。
「名前はどうしましょう?流石に本名はアウトですよね?」
「うん。とくにラストネームが、ね。名前はサイラスで。ラストネームは適当に決めておいてよ」
「そんな無責任な...」
「グレゴリー様!なら私のラストネームを使うのはいかがでしょう!!」
そう、チェックメイトをしながら、リリィさんは目を輝かせて提案した。
うぅ、これで42連敗か...
「リリィ、それは流石に―――「おー、良いんじゃね?」
「良いの!?」
あ、ついタメが出てしまった、とつぶやきながらグレゴリーさんは複雑な顔で紹介状に名前を書いた。
でもこれで、『サイラス』が偽名ということは確定した。
「サイラス・ファラエノプシス、ねぇ。なんか長いな」
「確かに本名よりは長いわね〜」
「ファラエノプシスって古代言語で『幸福がやってくる』的な意味だっけ」
「『幸福が飛んでくる』よ。それにしても....ふふっ、同じラストネームってなんだか夫婦みたいね!」
「ちっ、それが狙いかよ...」
そう言ってサイラスさん―――本名をちゃんと名乗ってくれるまではこれで行こう―――はそっぽを向いた。
だが、僕は彼の白い肌が耳の先だけほんの少し赤くなったのを見逃しはしなかった。
おっと、いけない。口角が勝手に上がってしまった。
グレゴリーさんも『こうなるだろうと思っていた』と表情だけで言っている。器用な人だなぁ
意外と純情なサイラスさんを見てみんなでほんわりしたところで、この日は幕を閉じたのだった。
......明日色々色々説明してもらおう。
というわけでなんか話が中途半端なとこで無理やり切りましたが、許してくんろー((←何がという訳なんか
【ブックマーク】【ポイント評価】【イチオシレビュー】
など、どれか一つでもしてくださると幸いです。
恐らく、ブックマークでるんるんとマカロン作り出し(←後に弟におすそ分けすることになる)
ポイント評価でバズーカぶっ放したい衝動に駆られ(←アマゾンでバズーカ検索しだす
イチオシレビューで大阪湾に自ら沈めれます。東京湾でもいいけど
ということでテンションがおかしい哀れな作者にお慈悲を(←は?)
追記:ブックマーク、星押してくださった方に盛大に感謝!ペルセウス座流星群にもう未練はないです()