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短編集

思いは届かぬまま

作者: 聖なる写真


「イエーイ! 彼氏クン見てるー?」

「ごめんね……もう一緒になれないの……」

「なっ……!」


 送られてきたDVD。 そこに映し出されたのは遊んでいそうな青年と卑猥な格好をした女性。

 そして、 女性は彼がよく知る人物だった。

 

「だから、 お詫びに私のエッチな姿でいっぱいヌいてね……」

 

 何かを言おうとしても彼の口からは無意味な音が漏れるだけで、 言葉にならない。

 ()()が呆然と見ている中で、 画面に映っている男女は激しい性行為を始めだす。

 青年の方は手慣れたような動きで、 女性の方もその動きに慣れているかのように合わせ、 快楽を貪る。

 その光景を彼らは見ていることしかできなかった。

 

「あのさ……」

 

 やがて、動画を再生してから三十分ほど経過したころ。 ()()が意を決したように話し出す。

 

「アンタ、 あいつと付き合ってたの?」

「最後にまともに会話したの大分前なんですが……」

 

 恋人からの責めるような視線と質問に、 彼はそう答えることしかできなかった。

 

 

 

 †

 

 

 

 彼は訳が分からなかった。

 恋人と行こうとした野球観戦が雨天中止になり、 予定をお家デートに切り替えたのが数時間前のこと。

 家のポストを何気なく覗いてみれば、 彼宛の薄い小包があった。 差出人は二人共通の友人である女性だった。 最近付き合いが悪い友人からの郵便物に、 新手のサプライズかと思った二人は、 せっかくだからと、 再生してみたのだ。

 その結果がこれである。恋仲でもない友人からの寝取られDVDという謎の現象にどう反応していいか分からない二人。

 あまりの衝撃に動画を止めようという発想もなく、 友人の性行為を映したまま、 若い恋人達は話し続ける。

 

「あいつってこういう趣味でもあったのか……?」

「もしそうなら、 これからの付き合いを考えないと……」

「いや、 待ってほしい。 今は多様化の時代。 寝取られ風DVDを送ってくるような変態でも、 俺達の友人であることに変わりはないのではなかろうか」

「それもそうだけど、 私達同じ学校に通っているって忘れてない? 明日から彼女にどんな顔で会えばいいと思うの?」

「アッハイ」

 

 必死のフォローも彼女には通じなかった。

 

「もう一度聞くけど、 アンタとあいつの関係は?」

「ただの友人。 もう少し言うなら、 幼馴染。 知っているだろ?」

 

 未だに再生されている寝取られ? DVDに映っている女性を指差しながら、 質問してくる彼女に、 彼はなんて事のないように答える。

 

 そう、 DVDに映っている女性と彼は小学校からの仲だ。 ついでに言うならば、 今隣にいる彼女もそうだ。

 と言っても、 女性とはそれほど親密な仲ではない。 確かに小中高と同じ学校に通ってはいるものの、 現在になってはその縁は大分薄くなっていると言っていい。

 そう彼女に説明しながら、 彼は一体いつから話さなくなったのか、 ふと考えてみた。

 

 高校生になって、 隣にいる彼女と付き合うようになってからだろうか。

 高校受験の際に、 女性とは別の塾に通うようになってからだろうか。

 中学生の時に、 野球部に入って毎日白球を追いかけ始めてからだろうか。

 小学生の時に、 些細なことで大喧嘩になった時からだろうか。

 

 うーむ。 と頭を捻ってみてもどうも心当たりがない。 というよりも、 そこまで親密だった記憶がない。 彼女の方が親密だったまである。

 あれ? と妙な事実に気付きつつある彼に彼女の冷たい視線が突き刺さる。

 

「アンタと付き合い始めたときに、 あいつに詰め寄られたことがあるんだけど。 『この泥棒猫』って怒鳴られたんだけど」

「なにそれすっごい初耳」

 

 まさに初耳である。 少なくとも彼と女性はそういった関係ではなかったはずである。 それなのに、 どうして彼女に詰め寄ったのか。 『泥棒猫』とはいったい何のことだったのだろうか。

 どれだけ考えてみても、 原因に思い至らない。 そんな彼の様子を見た彼女は呆れたようにため息をついた。

 

「一つ聞きたいんだけど。 あいつと一緒に遊びに行ったことある?」

「いや、 どうだろう。 小学校の時はあったかもしれないけど、 中学校に入ってからはそういうのなかったはずだ。 お前とは近所のゲーセンに立ち寄ったりはしたことはあるけど」

「バレンタインデーのチョコを貰ったことは?」

「ないな。 お前からは毎年貰ってたけど」

「放課後呼び出されたことは」

「ない。 そもそも、 中学校の時は授業終わってからは毎日遅くまで部活動をしていたから……」

「OK.もう分かったわ。 アンタが悪くないってことが」

 

 彼女からの問いに一つずつ答えていっても、 このようなDVDを送られる原因や、 彼女が怒鳴られる理由が思いつかない。

 一方、 何か心当たりでも思いついたのか、 再びため息をつく彼女。

 いったい何を考え付いたのか気になったが、 聞いて気分を損なわれても困るので、 彼は黙っておくことにした。

 そんなことよりも、 この十八禁DVDをどうするべきか考えなければいけない。

 すでにそういった行為は終わっており、 映像は停止していた。

 

「……別になにもしなくていいんじゃない?」

 

 彼女がそう呟く。

 

「よくよく考えなくても、 アンタとあいつの間に何もないんだったら、 何も気にすることないじゃない。 変な性癖を持っているってだけで、 関わりを断つってのも一つの考えね。 次から同じような物が送られてきても無視すればいいんだし」

 

 自身に言い聞かせるような彼女の言葉に、 それもそうか。 と彼は納得した。

 よくよく考えれば、 彼と女性の間にある関係など小中高と同じというだけで、 それ以上でも以下でもない。

 それに今は多様化の時代だ。 寝取られ風DVDを知人に送る性癖を持っていたとしてもいいではないか。 送られる側からすれば堪ったものではないが。

 

「とりあえず、 このDVDは処分しよう。 感想を聞かれたら、 その時はその時で」

「それでいいんじゃない?」

 

 そういうことになった。

 

 

 

 †

 

 

 

 あれから、 女性が何か言ってくることはなかった。 件のDVDが送られてくることもなかった。

 結局あれは何だったのだろうか。 そう考えながらも、 深くかかわることはなく時は過ぎ……

 

 数か月後、 女性は退学処分になった。 理由は不純異性交遊が原因の妊娠。

 孕ませた相手の名を言わぬまま、 学校を去った女性のことを想うと、 ()()として、 DVDを受け取った相手として、 何かできることはあったのではないかと彼は思うのであった。

 

※ どうでもいいキャラ紹介。

 彼:男子高校生。 野球少年。 女子二人とは小学校からの仲。 中高と野球部(ただし、 あまり強くない)に所属している。 異性からの感情に鈍いところがある。

 彼女:彼の恋人。 高校生。 中学卒業を機に彼に告白をして付き合うことになった。 彼とは清く正しいお付き合い中。 今のところは。

 女性:彼のことが好きだったが、 碌なアプローチをしなかったため、 好意に気付かれることはなかった。 当てつけのつもりで青年に抱かれ、 ハマってしまう。 最終的に妊娠してしまい退学となる。

 青年:チャラ男。 責任を取らずに逃げ出した。

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