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第一話:孤独の雨

登場人物1


二階堂明日香……高校一年生。臆病な性格で背が低くて童顔なため、よく女の子と間違われる。

四年前に兄が死んだ事を自分のせいだと思っている。


二階堂幸雄……明日香の兄、享年16歳。

秀才で人望もあり、皆から慕われていた。

四年前に起きた出来事で明日香を助けるために命を落とした。


宮崎葉月……明日香と同じ年の幼馴染み、幸雄を自分の本当の兄の様に慕っていた。

明日香に対して、優しく接するが……。

いつも白い財布を肌身離さず持っている。

ちなみに明日香よりも背が高い。

――ねぇ、兄さん。

――僕ね、大きくなったら兄さんみたいな人になりたいんだ

――兄さんの様に……皆を幸せに出来る人間になりたいの

――僕…兄さんみたいになれるかな?


「………夢か」

ベッドの上で僕は小さく呟く。また…昔の頃の夢を見てしまったんだな。

あの日からずっと毎日の様に見る、兄さんが生きていた頃の楽しかった夢を…。

僕はベッドから起き上がると近く置いてあったタオルで自分の顔を拭く。

本当は洗面所で顔を洗いたいけど、それは出来ない。

だって母さんや父さん、姉さん達と顔を合わせた時に何を言ったら良いのか分からないから。

自分の家なのになんでそんな事を言うんだって?

……答えは簡単、本来なら僕はこの家にいてはいけない人間だからさ。

本当なら兄さんがこの家にいなければならないんだ…。父さん達も…僕じゃなくて兄さんに居て欲しかったと心の底から思っている事だろう。

僕はタオルを鞄の中に入れると、すぐに制服に着替える。

父さん達が朝ご飯を食べ終わる前に、出来るだけ早く学園に行かないといけない…じゃないと皆を嫌な気分にさせてしまうから。

着替えを済ませた僕は足音を立てない様にゆっくりと玄関へと向かう。

「お小遣いアップなんて認めません。未来は節約というものを知りなさい」

「ひどーい!お母さんのケチ!」

台所から楽しそうに話す父さん達の声が聞こえる。

本当は僕もあの会話の中に入りたい、入りたいけど……それは絶対にしてはいけないんだ。

僕が父さん達のいる場所に行けば楽しい雰囲気が消える。

僕の存在によって皆が暗い気持ちになってしまう。

僕はグッと鞄を握り締めると玄関へと移動する。

「……行って来ます」

僕はとても小さな声で呟くと皆に悟られない様に玄関の扉を開け、学園へと向かった。

四年前から僕はこんな風に学園に行っている。

四年前、兄さんが僕のせいで死んでからずっと……。


あれは僕がまだ小学生の頃…その日は兄さんの誕生日だった。

僕は兄さんに渡すプレゼントを買うために、兄さんに内緒でデパートに行っていた。

姉さんは一緒に探してあげるって言っていたけど、僕は自分だけでプレゼントを選びたいからって一人で行ったんだ。

それが取り返しのつかない間違いだって事も知らないで…。

僕は兄さんのプレゼントを選ぶのに夢中だった。

何をあげたら兄さんは喜ぶのかずっと考えていた。

だからこそ気が付かなかった…デパートで火災が起こっていた事に。

気が付いた時にはもう遅かった、僕は火の中に閉じ込められてしまったんだ……本当、僕は大馬鹿だ。

視界を遮られた煙の中で僕は必死で逃げ道を探した。

だけど燃え盛る火と息をする度に入って来る煙のせいで体力を奪われ、僕は動けなくなってしまったんだ。

死ぬ……そう思った時、誰かが僕の身体を持ち上げた。

誰…?朦朧とした意識の中で僕はその人の顔を見た。

助けてくれたのは――兄さんだった。

後で聞いた話だと、近所の人からデパートでの火事を知った姉さんは、僕がその場所にいる事を兄さんに教えたんだって。

兄さんは姉さん達が止める聞かずに、僕を助けるためにデパートへと向かったらしい。

『大丈夫か…?』

兄さんは優しく僕に微笑んでくれた。

僕は無言でうなづいた…凄く嬉しかった…兄さんが助けに来てくれた事が。

僕を支えながら兄さんは出口を探し、階段へと差し掛かった時…兄さんは急に僕を突き飛ばした。

僕は訳の分からないまま地面へと倒れ込んだ。

そして僕が顔を上げたその時、ビルの残骸が僕の目の前で落ちた。

残骸が落ちる事を察知した兄さんは僕を助けるために僕を突き飛ばしたんだ。

そしてその残骸の後ろに……兄さんはいた。燃え盛る炎が次第に兄さんを包んでいく。

僕は頭から流れる血を気にも留めずに、兄さんの下へと行こうとした。

その時、救助隊の人達が駆け付けてくれた。

僕は力の限り兄さんを助けて、兄さんを助けてと救助隊の人に叫んだんだ…。

だけど…救助の人は静かに首を横に振ると僕を抱え込むと階段を降り始めた。

『嫌だ!いやだぁ!兄さん!にいさぁん!』

兄さんの姿が遠ざかる中、僕は泣きながらそう叫び続けた…。

『――――!』

兄さんは僕に何かを叫んだ…けれども周りの大きな音で聞き取る事が出来なかった。

そして、兄さんは微笑みながら炎に包まれて……消えてしまった。

『にいさあぁぁぁん!』

僕の叫び声は空しく響き渡るだけだった。

兄さんの姿を見たのがそれが最後だった。

それから僕は病院へと連れて行かれ、治療を受けた。

僕の怪我は軽い火傷と頭の傷だけで済んだ…。

けれども兄さんは……死んでしまった。

それから数日後、兄さんのお葬式の時に沢山の人達が泣いていた……僕はただ、顔をうつむかせながらその声を聞く事しか出来なかった。

葬式が終わった後、僕は人のいない所で泣き続けた…心の中でずっと自分を責め続けた。

兄さんじゃなくて僕が死ねば良かったんだ……僕が死んでいれば兄さんが死ぬ事がなかったんだ。

僕のせいで兄さんが死んだんだ…僕が兄さんを殺したんだ…。

僕が奪ったんだ…兄さんの命、幸せ、未来を…!

僕はしばらく泣いた後、父さん達のいる部屋へと向かった。

部屋の障子が少し開いていた。僕が障子に手をかけようとした時、話し声が聞こえた。

『どうして……どうしてお前が死ななければならないんだ幸雄…!』

父さんの声だ、僕は障子の隙間から部屋の様子を観察する。

部屋の中では父さんや母さん、姉さんが悲しそうに涙を流しながら座っていた。

『私…お兄ちゃんに教えて欲しい事がたくさんたくさんあったのに……!どうして死んじゃったのよ…』

『幸雄…私は今でもお前が死んだ事を信じられないよ……幸雄…!』

姉さんも母さんも兄さんの名前を呼び続けている。

その姿を見て、僕の心臓に何かが刺さる様な痛みを覚えた。

僕は手を下ろすと、何も言わずにその場から立ち去る。

父さん達も…僕じゃなくて兄さんに生きて欲しかったんだ。

だって……僕は兄さんと違ってクズな人間だから。

兄さんは明るくて、優しくて、何でも出来て、兄さんの周りには人が沢山いた。

皆、兄さんが好きだった…父さんや、母さんや、姉さんも…兄さんの事が大好きだった。

それに比べて僕は…頭も良い訳でも無く運動能力も最悪、性格も内気で臆病と取り柄なんて何一つないクズだ。

父さん達はいつも兄さんの様に頑張れと言っていた……でも僕には出来なかった。

優秀な兄さんが死んでクズの僕が生きている…こんな理不尽な事があるだろうか?

父さん達は僕を憎んでいる…兄さんを殺したこの僕を。

父さん達だけじゃない…兄さんが大好きだった人達も皆、僕の事を心の底から憎んでいるだろう…そう思うと胸が苦しくなった。


僕が生きて帰って来る事は……誰も望んでいなかった。

兄さんが死んでから長い時間が過ぎた頃、ようやく父さんや母さんや姉さんに笑顔が戻って来た。

でも…父さん達は僕を許してはくれなかった…。

だって…三人共、僕の顔を見る度にまるでばい菌を見る様な目をするから…。

僕にはそれが死にたくなるほど辛かった…自決したくなった時もある。

でも僕は死ねなかった…僕が死んだら兄さんの死が無駄になってしまう。

皆、ずっと僕の事を憎み続けると思う。

兄さんを殺し、今でも生き続ける僕を。

こんな辛いのなら…あの時に死んだ方が良かった。

そうすれば今でも兄さんは皆と一緒に笑う事が出来ただろう。

皆、悲しむ事なく幸せに過ごしていた事だろう。


僕の頬に一筋の涙が流れる。

あの日から四年経った今でも僕の顔には笑顔が戻らない。

これからも戻らないだろう……僕の心の雨は永遠に降り続ける。

それが…兄さんを殺した僕が背負っていかなければならない十字架なのだから。

科学黙示録カイジと違ってギャグは全くありませんので、注意してください…。

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