彼
恋愛初書きです
雪乃side
笑顔が苦手だ。自分の笑顔はもちろん苦手だし、他の人の笑い声も苦手。私が笑われているみたいだから。
生徒会長のため学校でそこそこ有名な私だけれど(自分で言ってて変な感じ)多分、きっと誰も私の笑顔を見た事はないだろう。そんな、普段なら全くしないような思考が風となってニーハイソックスを履いた足の間を通り抜けて行った。
時刻は6時45分。生徒会の仕事がある上に日直のため、片道1時間半かかる学校に早朝から向かっているわけで。その上、この駅にはあまり電車が止まらない。今現在の私の状況は最近の出来事の中でもトップクラスの『最悪』である。
(寒い、なぁ……)
皆、私が笑わないから『クール』だとか『かっこいい』だとかなんとか好きなように話しているが、別に私はクールでも無感情でもかっこいい訳でもない。ただ笑顔が苦手で、感情を表に出すのが苦手な人間なのだ。それも、昔はどちらも得意だったのだから尚更そんなわけはない。
時々、廊下を歩いていると聞こえてくる恋バナが羨ましくなる。私だって恋をしてみたい。でも、こんな笑顔が苦手な無表情の冷血人間に絡んでくる男性なんて……
「おーい!雪乃ちゃーん!」
……いた。手をぶんぶん振りながらこちらへと来るのは、同学年で副会長の荒川貴弘君。クラス内から副会長に推薦されるほど成績がよく人望があるけれど、やんちゃで人の心のパーソナルスペースを無視して突っ込んでくる性格から実は私は少し苦手である。仕事に支障が出るから表には出さないけど。
「荒川さん、おはようございます。駅のホームで走ると危ないのと評価が下がるのと目立つのでやめてください」
立て続けに小言をぶつけると、彼は目に見えてしゅんとした。…何故か垂れ下がる犬のしっぽが見える気がする。絶対これからしょげながら謝ってくるのだろう。
「はい、会長……」
案の定しょんぼりしながら会長呼びで謝ってきたため内心ため息をつきながらも許しの言葉を発する。彼と話すのは口に出す言葉と心の中で思うことが違いすぎてかなり疲れる。
このまま無言を貫いて起きたかったのだが、コミュ力お化けの荒川さんはそんなことはなく。私がうんざりしていることにも気づかずに(もしかしたら気づいているのかもしれない)めちゃめちゃ話しかけてくる。めんどくさい。
「あぁ、それより荒川さん。どうして来たんですか?朝の仕事は私だけでもすぐに終わるから良かったんですけど…」
関係ないことを話せるだけのコミュニケーション能力は私には無いため即座に仕事の話に移行。
「え?んー…雪乃ちゃんと会いたかったから〜」
………はぁ。もういいか。スタスタと無言で離れていくと荒川さんは慌てて付いてきて本当の理由を言った。
「あ、え、それだと会長だけ仕事の量が半端なくなるんですよ……!」
こういうところである。いつもふざけたことを言ってはいるが、根は真面目なため本気で怒ったりできない。
「全く……」
ぼそりと言うと彼は目を輝かせながら「なんて?なんて?」という雰囲気を出してくるがバッサリ無視。会話は苦手なのだから。
荒川さんの話を適当に聞き流しながら電車にのり、青色のイヤホンを耳に突っ込む。このイヤホンは私のお気に入り。名前に雪がついているからか、幼い頃から白や青などの寒色系の色が好きだった。
本当は人といる時に音楽を聴いたら失礼なのだろうけれど、荒川さんだからいいだろう。多分ね。携帯端末を操作して音量を上げ、車内アナウンスが聞き取れるくらいに設定。そして車内の壁に寄りかかり目を瞑っていつもの曲に集中。音楽を聴いている時が1番癒される。
横で荒川さんが本を読んでいる。意外だ。彼は本を読まないと思っていた。ちらりと見ると、その本は私の大好きな本。一番のお気に入りと言っていいほどのものだ。思わず目を見開きそうになるが我慢。
このときが、関わりだして初めて彼に興味を持った瞬間だった。