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8話 お姉ちゃんに相談

「で、今度はどうしたの?」


 晩飯を終え、ソファーに座りながらテレビを見ていると、お姉ちゃんが言ってきた。流石、鋭いお姉ちゃんだ。誰かに相談したかったので、俺は話した。


「実は……今日、司に会ったんだ」

「へー、司ちゃんにね……それで?」

「バレはしなかったんだけど、俺とレンが似てるて話になって、その流れで……司が俺のことを好きなことを知った」


 衝撃の真実を話すが、お姉ちゃんはキョトンとした表情で言った。


「……今更?」

「なっ⁉︎ 今更てなんだよ! もしかして、お姉ちゃん知ってたのか⁉︎」

「知ってるも何も、司ちゃん、すごーく分かりやすいと思うけど、気が付かない方がおかしいわ」

「……いつから?」

「いつからね……子供の時からずっとよ」

「……」


 マジですか……。全然、気が付かなかった。

 司は俺の幼馴染で親友で、大切ではあるが女としては意識したことがない。


「で、レンはどうしたいの?」

「どう、て……」

「司ちゃんと付き合いたい?」


 そう言われ、司と付き合っているイメージを思い浮かべようとする。だが、思い浮かんだのは司の顔ではなく綾だった。


「それは……ない。俺は綾のことが好きだから」

「司ちゃんには悪いけど、そうよね」

「だけど、司は幼馴染で俺の親友だから……それは壊したくない」

「なるほど、付き合えないけど、親友としては側にいて欲しいわけね」


 うんうん、とお姉ちゃんは頷く。


「だったら、聞かなかったことにしましょう」

「え?」

「だって、聞いたのはあくまで女装したレンであり、幼馴染のレンじゃないわけでしょ?」

「まあ、そうだけど」

「なら、それで決定! レンはいつも通り司ちゃんと接すること、わかった?」

「わかった」


 少し納得がいかないが、それしか方法が思い浮かばなかった。


「あ、もう一つ相談したいことがあって……」

「ん?」

「司から連絡先のメモを貰ったんだけど、自分の携帯使えないから……どうしようて思って」

「うーん、女装時に会わないという選択はないの?」

「……うん、司が残念がるから……」

「はぁ」


 お姉ちゃんはため息を吐くと、俺の頭を撫でた。


「優しいやつめ。お姉ちゃんが女装時のレン用に携帯を買ってあげよう」

「え!? 良いの!?」

「おう、ただし、条件がある」


 お姉ちゃんはニヤリと笑った。


「三日に一回。コスプレして写真を撮らせて」

「え……」

「漫画の資料用に欲しいの。ネットにアップしたり、売りさばいたりはしないから安心して」

「……」

「嫌ならこの話はなかったことにしても良いわよ。でも、良いの? 大切な幼馴染が悲しむんじゃない。せっかくできた友達から連絡が来なくて……ああ、涙が出てくるわね。それって男として最低よ」

「ぐ……わかった。三日に一回のコスプレ。やらせてください!」

「うん、良い返事よ! じゃあ、早速」


 お姉ちゃんは自分の部屋に戻る。ガタゴトガシャンと音が聞こえ、数分後、お姉ちゃんが戻ってきた。


「これに着替えて!」

「っ!?」


 お姉ちゃんが持ってきたのは赤色のミニのチャイナドレスと白タイツだった。


「さあ! さあ!」

「せ、せめて自分の部屋で着替えさせてくれ」


 迫ってくるお姉ちゃんに懇願する。お姉ちゃんは最高の笑みを浮かべると、たった一言。


「嫌よ」

「あー!」


 その日、俺は男の尊厳を失ったのであった。


***


 翌日、教室で席に座っていると、司が教室に入ってきた。


「おはよう」

「お、おはよう」


 いつも通り接するつもりが、少し噛んでしまう。

 司は首を傾げて俺を見てきたので、視線を逸らした。


「ん? 体調でも悪いのか?」

「ああ、少しな……」

「大丈夫か?」


 司が顔を近づけてくる。ち、近い……!


「大丈夫! 大丈夫だから!」

「ふーん……まあ、いいや。辛かったらちゃんと言えよ」

「ああ」


 はぁ、いつも通り接するのは難しい。自分に言い聞かせても意識してしまう。

 司は離れると、自分の携帯を弄り始めた。

 そして、笑みを浮かべる。おそらく、昨日俺が送ったメールを見てるんだろう。


「何か良いことあったのか?」

「……まあな。友達が出来たんだ」

「へー。どんな奴なんだ?」


 知ってるけど、気になるので聞いてみる。


「とてもいい子だよ。見た目はレンに似てて、名前もレンって言うんだ。もしかして、双子の妹とかいないよな?」

「いないよ」


 双子どころか、俺自身だから。


「そっか。良かったら今度紹介してやるよ。レンとも気が合うと思うぜ」

「……機会があったらな」

「おう」


 司には悪いが、そんな機会は訪れない。

 と、マーナーモードの携帯が震えた。確認しようと制服に手を伸ばすが、やめた。

 手を伸ばした携帯が女装用の物だからだ。

 となると、思い当たるのは司からのメールである。

 司は弄っていた携帯をしまうと、自分の席に戻っていった。

 次の休み時間、俺はトイレの個室にいた。

 女装用の携帯を開き、司からのメールを確認する


『今週の土曜日、空いてるか? 隣町のデパートで期間限定の猫触れ合いコーナーがやってるんだ。よかったら、一緒に行かないか?』


 今週の土曜日か……予定はないが、司と会って普通に接する自信はない。今朝だって怪しまれたし。

 だけど、断って司を悲しませるようなことはしたくない。

 それにしても猫の触れ合いコーナーか、司の奴、動物を避けてたような気がしたが……。もしかして、猫が好きだったのだろうか。ありえるな。

 俺は『行きます』とメールを返信する。

 女装用の携帯をしまい、今度は普段の携帯が鳴った。確認すると綾からだった。


『今日、ケーキバイキングに行かない? 友達から割引クーポン、貰ったの』


 デートの誘いだ。よっしゃー!

 俺はニヤニヤするのを抑えながら、即返事をする。


『行く! ただ、用事を済ませてからでも良い? すぐ終わるから!』


 用事なんてない。ただ、一旦家に帰って女装する時間が必要なのだ。


『無理はしなくて大丈夫よ。別の日でも良いから』

『大丈夫! ケーキ大好き! むしろ、無理してでも行きたい!』

『そう。そこまで言うなら行きましょう。何時に待ち合わせにする?』


 よし!

 ガッツポーズを取りながら、計算する。

 今日の授業は五限までで、三時前には帰れるだろう。


『四時なら大丈夫』

『四時ね、前に行った喫茶店覚えてる?』

『覚えてる』

『じゃあ、そこで、待ち合わせしましょう』

『了解。楽しみにしてる』

『私もよ』


 綾もか。

 俺は教室に戻った。

 司から「何か良いことあったのか?」と詮索され、焦ったが、チャイムに救われたのであった。

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