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5話 デート

 デート当日。

 雲一つない青空、絶好のお出かけ日和。

 待ち合わせ場所の駅で、俺は綾を待っていた。

 今日の服装は、白のパーカーと、デニムのショートパンツ。黒タイツにスニーカー。

 動きやすさ重視の服装。もちろん、お姉ちゃんが選んだものだ。


「ごめん、待たせた?」

「いや、俺も今来たとこ」


 綾の服装は、白のシャツに銀色のネックレス。黒いパンツにスニーカー。

 いつも降ろしている髪をポニーテールにしている。

 綾のポニーテール姿……良い。


「どこに、行きましょう?」

「……実はお姉ちゃんから遊園地のチケット貰って、隣町なんだけど、行かないか?」

「遊園地……良いわね。行きましょう」


 よかった。

 俺はホッと安堵して、ニヤリと内心笑った。

 遊園地のチケットを貰ったなんて嘘。俺が買っておいたものである。

 昨日、一人で遊園地に行き、下見も完璧。綾をエスコートする!

 電車に乗って遊園地に到着。日曜日なので人が多い。チケットを買う列も長く、長時間待ちそうだが、俺は事前に買っておいたのでスムーズに入れた。

 入口のゲートを通ってすぐ、俺達は足を止めた。

 まず目に入ったのが大きな観覧車。絶叫系のジェットコースターに、お化け屋敷、コーヒーカップ、飲食店。

 犬や猫と言った動物をモチーフにした着ぐるみが、写真撮影や風船を配っていた。

 たくさんの人たちが笑っていて、楽しそうだった。

 隣を見ると、綾も同じことを思ってたのか、笑みを浮かべていた。


「よろしければ、どうぞ!」


 係員が俺たちに二枚のカードを差し出してきた。


「これ……スタンプラリーですか?」

「はい! そこに載っているアトラクションをご利用いただけると、スタンプが貰えます! すべて揃えれば、限定景品をプレゼント!」


 昨日来た時は気が付かなかったな。俺はカードを眺めながら、


「へー、おもしろそう」

「そうね……せっかくだし、やってみましょう」

「景品の交換はあちらの出入り口カウンターでやってますので、全て揃えたらあちらにお越しください。では」


 係員はそう言って、別のお客さんに声を掛けに行った。


「どれから乗る?」

「ん……ジェットコースターに乗りたいわ。レンは絶叫系は大丈夫?」

「……大丈夫」


 怖くなんてない。足が震えているが、武者震いだ。

 ジェットコースターには列が出来ていた。係員が「十五分待ちです」と最後尾で声を掛けていた。

 列に並んでいると、上から黒っぽいものが……?


「髪の毛……? ん? カツラ?」

「ほら、ジェットコースターて風圧強いから」

「っ!?」


 思わず頭を抑える。今、俺はウィッグを着けている。

 飛ばされない様にしないと……!

 順番がやって来て、隣同士で座る。

 怖くない! 怖くない! 怖くない! ウィッグ! ウィッグ! ウィッグ!

 自分に言い聞かせていると、ジェットコースターは頂上にゆっくりと向かっていく。

 ふと、隣に座っている綾が俺の手を握った。


「レン、大丈夫。私がついてるわ」

「綾」


 カッコイイ……! て、こういうのって普通は男がやるもんじゃねえか! 俺、頑張れよぉ……おおおぉぉぉぉ!!!

 ジェットコースターが急降下。超スピードで風景が変わっていき、風を切り裂いていく。途中ぐるりと一回転もして、ようやく終わった。

 ちなみに、ウィッグはどうにか守り切った。


「大丈夫?」

「うぅ……」


 情けないことに、ジェットコースターに酔い、俺と綾はベンチに座っていた。

 恐るべし、ジェットコースター……デートの計画が、台無しである。


「少し休めば……大丈夫」

「そう。じゃあ」


 綾は俺の事を抱き寄せると、俺の頭を太ももの上に乗せた。俗にいう膝枕である。


「っ……!?」


 足の柔らかさと温かな体温が伝わってきて、顔が赤くなる。


「……あ、綾!」

「遠慮しなくて良いわ」

「で、でも!」

「良いから」


 起き上がろうとすると、綾が俺の頭を抑える。抵抗を諦め、大人しく膝枕をされることにした。

 いかん、良い匂いが……。それに、変な気分になってきた……ダメだ! 収まれ! 俺……!

 理性と戦い、数分が過ぎて酔いがさめた。


「もう、大丈夫」

「本当に? 顔赤いけど」

「本当! 本当だから!」


 怪訝な表情して、顔を近づける綾。俺はベンチから立ち上がって距離を取った。


「さあ、次行こう! 次!」

「そうね。また、具合悪くなったら言ってね」


 そうして、次にやって来たのはお化け屋敷だった。


「うっ……!」


 思わず後ずさった。

 目の前には金持ちの豪邸と思われる廃墟があり、幽霊が出そうな雰囲気であった。


「大丈夫?」

「だ、大丈夫……はは」


 虚勢を張っているが、足は震えていた。豪邸の玄関前にはメイド姿の係員が説明を始めた。


「かつてこの館には貴族が住んでいました。その貴族は収集家であり、世界中の珍しいものを集めるのが趣味でした。特に宝石類が多く、中には城が建つほどの価値がある宝石もありました。しかし、強盗に襲われ、貴族は殺され、金目の物は大半盗られてしまいました。ですが、最も価値のある宝石は強盗に見つかることなく、まだこの豪邸のどこかに隠されています。何人もの泥棒が盗みに入りましたが、殺された貴族の霊が呪い殺し、命を落としました。あなた達は泥棒となり、隠された宝石を手に入れてきてください」


 と、係員が一枚の紙を差し出す。


「そのカードには、次のカードの在処が書いてあります。カードを次々集めていくと最後には宝石に辿り着きます。そしたら、入り口に戻ってきてください。では」


 大きな扉が、ギギギと音を立てて開いた。中は薄暗く、不気味だ。


「大丈夫よ、レン。私が手を繋いであげるから」

「あ、ありが……っ!?」


 違う! ここは俺から言うべきだっただろう!


「綾こそ、大丈夫? 俺が手、手を……っ!」


 こんなキザな台詞言えるか……!

 綾は俺の手を握った。柔らかい…っ!?


「さあ、行きましょうか」

「はい」


 さりげなく手を握るとか。綾、イケメンだ……!


「さて、このカードだけど……大きな壺」

「大きな壺?」


 俺は辺りを見回す。扉を開けてすぐの場所で、二階が吹き抜けになっており、左右に廊下、正面には大きな階段と、上りきったところに大きな壺があった。


「あれじゃないか?」

「そうみたいね」


 階段を上り、壺を調べてみると、後ろにカードが隠されていた。カードを手に取った瞬間、目が合った。壺と。


「ぎゃああああ!」


 叫び声を上げ、尻もちをつく。


「っ!? 大丈夫?」

「つ、壺に……目が……!?」

「壺に目……?」


 綾が壺の後ろを覗き込む。


「あっ……! 本当ね。壺に目があるなんて、それに動いているわ。どういう仕組みなのかしら……」


 え? それだけ? びっくりしないの?


「レン、立てそう?」

「あ……うん」

「さあ、次行きましょう」


 もしかして、綾はお化け屋敷とか平気なのだろうか。

 歩く鎧が現れ、俺達を見つけると走って追っかけてくる。


「ぎゃあああ!」

「あ、カード下さい」


 部屋中につるされた骸骨。カタカタと音が響く。

 俺は足が震えて動けなかったが、綾は、


「邪魔ね」


 骸骨を手でどかして中に入って、カードを回収してきた。

 もう、ビビりまくって綾の腕に抱き付いていた。男のプライド? ない。だって今は女の子だし……。


「レン、そんなにくっ付くと歩き難いわ」

「だって……怖いだもん」

「っ……!? そうね、それなら仕方がないわね」


 綾は俺から顔を逸らした。

 俺は不思議に思ったが、目の前に青色の人魂が現れて、悲鳴を上げるのであった。

 お化け屋敷を終えた後、残りのスタンプラリーを周って、気が付けば夕方になっていた。


「これで、全部ね」


 俺と綾はスタンプラリーを受付の係員に渡す。


「こちらが景品になります」


 そう言って、係員から渡されたのは金色の二枚のチケットだった。


「舞踏会の招待券……?」

「……」


 チケットを見ると、端の方に地図があった。


「舞踏会の開催時間は十八時からになっております。衣装等はそちらに記載されている会場で無料レンタルを行っておりますので、ぜひ、お越しください」

「せっかくだから、行ってみる?」

「うん、俺も行ってみたいな」

「じゃあ、決まりね。少し時間があるからご飯でも食べましょう」

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