3話 喫茶店にて
俺と月ノ森さんは近場にある喫茶店にやって来た。
「すいません、コーヒー、ブラックでお願いします」
月ノ森さんはブラックで飲むんだ。カッコいいなぁ。俺なんて砂糖とミルク淹れないと飲めないのに。
「そちらのお嬢さんは?」
「……俺は……キャラメルマキアートで」
「っ……! かしこまりました」
店員が驚いた表情をしていた。やっぱり、この格好で男口調は違和感があるか。
それにしても……勢いでお茶することになったけど、何話せばいいんだ……! 女子トーク何て出来ねえぞ……! しかも、相手は俺の好きな子で……うゎ、すごく緊張してきた。
「相川さん、とお呼びすれば良いかしら?」
「……え、えーと」
できれば、名前で呼んで欲しいが……それって、いきなりすぎるよな。うん、少しづついこう。
「……それでお願いします。俺も……月ノ森さんで良いですか?」
「ええ、後、同い年くらいだし敬語は良いわ」
「じゃあ、月ノ森さんも」
「わかった」
よし、これで距離が一歩縮まった!
「月ノ森さんは普段から催涙スプレー、持ち歩いているの?」
「ええ、親友が絶対に持っていろて言うから。後、催涙スプレーの他にもスタンガンや防犯ブザー、後は」
「……」
月ノ森さんの親友は余程の心配性らしい。まあ、そのおかげで今回は助かったんだけど。ありがとう、月ノ森さんの親友!
「相川さんも持っていた方が良いわよ」
「えっ!? 俺が……!」
「だって、可愛いもの。先ほどの男達みたく声を掛けられることがあるでしょ?」
いや、ないです。女装して外出したの初めてですから。
「あはは……そうだな、うん」
防犯グッズか、買ってみようかな。もしかしたら、あんなクズ共に出くわすかもしれないし。
それから、色々と月ノ森さんと話して、あっという間に時間は過ぎていった。
緊張と幸福感でいっぱいだった。
「コーヒーありがとう。おいしかったわ」
「俺も月ノ森さんと話せて……楽しかった」
別れ際、俺は勇気を振り絞った。
「また、会ってくれますかっ?」
「それって……私と友達になりたいて事?」
「っ……うん。迷惑じゃなかったらだけど……」
俺は顔を俯かせた。断られたらしばらくは立ち直れない。号泣ものだ。
「迷惑なんかじゃないわ」
「っ!?」
月ノ森さんが俺の頭を撫でた。
撫でられて……!?
やばい、顔絶対に真っ赤だ。
「あ、ごめんなさい。つい、可愛いて思って。妹がいたらきっとこんな感じなんでしょうね」
「……大丈夫」
可愛いって……!
「友達って事で良いのよね?」
「うん」
「じゃあ………………よろしく、レン」
「よろしく………あ、綾!」
握手を交わす俺と月ノ森さん、いや、綾。
その後、電話番号とメアドを交換して俺達は別れた。
***
「ただいま」
「おかえり、レン。遅かったけど何かあったの?」
「……実はナンパされて」
「ナンパですって……! 大丈夫!? ケガとかしてない! お尻は無事!?」
お姉ちゃんは俺のスカートを捲り、パンツを脱がそうとしてくる。俺は咄嗟にスカートを押えて後ろに下がった。
「大丈夫だから……!」
「そう……よかった……後でそのクソ共をミンチにしましょう」
うふふ、と笑うお姉ちゃんの目はマジだった。
「まあ、レンが無事でよかったわ」
「ああ……助けてくれた人がいたから……」
綾を思い出して、顔を赤くすると、目聡いお姉ちゃんがニヤリと笑う。
「あら、もしかしてその人に惚れちゃったの? もしかして、男! 男なのね!」
「ち、違う……! 女の子! 好きな人で……あ!」
しまった……!
お姉ちゃんはランランと瞳を輝かせると、俺の両肩をがっしりと掴んだ。
「お姉ちゃん、その話詳しく聞きたいなぁ」
「で、でも、夕飯作らないと……」
「今日はピザでも取りましょうか。レンも好きな物頼んでいいから、ね?」
瞳を輝かせて俺に迫るお姉ちゃん。
もう、逃げられないな……。
「……うん」
その後、俺はあったことを全てお姉ちゃんに話したのであった。
「ふむふむ、綾ちゃんと友達なったと……それで、いつデートするの?」
「え?」
「デートよ! デート! まさか、連絡先交換しただけで満足してるんじゃないわよね? ここからが大切なのに」
「デートなんてまだ早いよ! まずはメールと電話でやり取りしてそれから……」
「バカ!」
「っ!?」
お姉ちゃんのチョップが俺の頭に直撃した。
「何を呑気なことを言っているの! 綾ちゃんはモテるんでしょ! ちまちまメールのやり取りをしてる間に誰かに取られるわよ!」
「っ!?」
確かにお姉ちゃんの言う通りだ。
「わかったら、ぐいぐい攻めなさい! 早速、今週の土日にでもデートに誘いなさい!」
「わかった」
俺は携帯を取り出すと、メールを打つ。
『今週の土曜か日曜にどこか遊びに行こう』
深呼吸置いて、送信。後は返事を待つだけ……て、もう返ってきた。
「お、お姉ちゃん!」
「ん? どうだったの?」
「に、日曜日なら大丈夫って……」
「ふふ、よかったじゃない」
「でも、デートなんてしたことない……!」
映画や水族館行って、ご飯食べて、夕日を眺めながらキッスをすればいいのか……!
いや、でも俺と綾の関係て友達だしな……。
となると、普通に友達と遊びに行く感じで……。
「まあまあ、落ち着きなさい、レン」
「お姉ちゃん……!」
「デートプランならお姉ちゃんに任せなさい!」
頼りになるお姉ちゃん!
「いくつものデートプランを考えてきたこの花園百合に!」
「流石、大先生!」
花園百合。百合漫画専門コミックで連載している先生。そして、お姉ちゃんのペンネームでもある。
「まあ、現実のデートは一度もないんだけどね!」
「……」
てへっと舌を出し、頭をこつんと叩くお姉ちゃん。
あざとい姿を前に不安になってきた。