13話 空の策略
**空視点**
あの変態くんが私の脅迫に屈しないなんて、予想外の事だった。さらに、自分で正体を明かし、綾ちゃんに告白するというのだ。それは絶対に阻止しなければならない。
綾ちゃんは女装した変態くんのことを本気で好きだったし、正体を明かして、もしも付き合うことになれば綾ちゃんが変態くんのものになっちゃう。綾ちゃんは私のものだ! 誰にも渡さない!
色々と考えていると、家のインターホンが鳴った。玄関まで行き、扉を開けと、手にバックを持った私服姿の綾ちゃんがいた。
「いらっしゃい、綾ちゃん」
「ええ、お邪魔するわ。空」
今日は綾ちゃんが私の家に泊まりに来る日。私の両親は仕事で忙しくて、たまにしか家に帰ってこないのだ。それを良いことに「寂しいから泊まりに来て」という理由で綾ちゃんとお泊り会をしている。本当は綾ちゃんと少しでも一緒に居たいのだ。
「今日の晩御飯はシーフードカレーだよ」
「空の料理はいつも美味しそうね」
「そうでしょう」
普段なら簡単な物、カップラーメンや冷凍食品で済ませているが、綾ちゃんが来る日は、手料理を振る舞う。シーフードカレーの他にトマトやゆで卵、キャベツなどが入ったサラダをつける。
「どう? 美味しい?」
「ええ、美味しいわ。今度は私が料理を作るわ」
「うーん……綾ちゃんの手料理か……」
私は悩んだ。綾ちゃんの手料理を食べた事はある。美味しかったし、また食べてみたいとも思った。けど、こうして綾ちゃんのために料理を作って、「美味しい」て言って貰えることが、嬉しくて手料理を振る舞いたいのだ。贅沢な悩みだ。
「……私の料理が食べたくないの? そんなに下手?」
シュンと落ち込む綾ちゃん。咄嗟に弁明する。
「違うよ! 綾ちゃんの料理は美味しいよ! けど、私の料理を振る舞う機会が減っちゃうな、て思って」
「……そう、よかった。なら、折衷案として一緒に作るのはどう?」
「一緒に作る……良い! そうしよう!」
綾ちゃんと台所に並ぶ光景を想像する。お揃いのエプロンを着て、一緒に料理をする。新婚の夫婦のようだ。
晩御飯を食べ終え、食器を洗う。綾ちゃんが手伝おうとしてくれたが、大した量ではないので断った。
ソファーに座ってテレビを観ている綾ちゃんに声をかけた。
「ねえ、綾ちゃん?」
「ん?」
「綾ちゃんはレンちゃんの事が本気で好きなの?」
「ええ、本気よ」
綾ちゃんは迷いなく答える。やっぱり、本気なんだね……。綾ちゃんが悲しむかもしれないけど、やるしかない……。黒い感情が浮かび上がるが、表には出さず平常心を保つ。
「頑張って、口説けると良いね」
「ええ」
幸せそうな笑みを浮かべる綾ちゃん。
私は食器を洗い終え、麦茶を二人分用意する。綾ちゃんがテレビに夢中になっていることを盗み見て、綾ちゃんの麦茶にあるものを混入させる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
ソファー前のテーブルに麦茶を置き、綾ちゃんの隣にくっつくように座った。
綾ちゃんは麦茶を手に取り、飲んだ。味や臭いはないからバレないと思っていたが、綾ちゃんが気付いていない様子で私は内心安堵する。
「チャンネル回しても良い?」
「良いけど……何見るの?」
「バラエティー番組」
「良いわよ」
ニュース番組からチャンネルを回して、綾ちゃんと二人、テレビを眺める。
それから、二十分後。
綾ちゃんの顔がほんのりと赤くなり、瞳も虚ろになってきた。麦茶に入れた薬が効いてきたのだ。
私はテレビを消すと、綾ちゃんに抱き付いた。
「空……? 何してるの……?」
ボーとした様子の綾ちゃん。
「私じゃダメかな……?」
「ん?」
「レンちゃんじゃないとダメ? 私は綾ちゃんの恋人にはなれない?」
「っ……!? ご、ごめんなさい……。レンじゃなきゃダメなの……」
頭が回ってないだろうに、しっかりと拒絶する綾ちゃん。でも、良いんだ。断られるだろうとは薄々気が付いていたから。それに、このやり取りは覚えてないだろうし。
「……少し、体調がおかしいの……休んでも良い?」
「ダメだよ」
私は綾ちゃんの唇を奪う。そのまま、ソファーに押し倒した。
「綾ちゃんは渡さない。綾ちゃんは私だけのものだ」
「そ、空ぁ……」
呂律も回らなくなってきたのだろう、目の焦点も合っていない。
私は下に居る綾ちゃんの耳元で囁く。
「大丈夫だよ。心配しないで、起きたら全て終わってるから」
私は綾ちゃんの身体に手を伸ばした。
「だから、私に全部任せてね」
その日、私は綾ちゃんと一線を越えた。
**綾視点**
太陽の日差しがカーテンの隙間から差し込み、私はそれで目が覚めた。
「ん、んん……」
目を開けると、空の可愛い寝顔があった。
驚きはしない。お泊り会の日はいつも空と一緒のベッドで寝ていたからだ。
それにしても、テレビでニュース番組を観てからの記憶がない。もしかして、そのまま眠った? となると、空がベッドまで運んでくれたのだろう。
布団を捲り、身体を伸ばす。
「ん?」
違和感を覚えた。いつもより寒く感じ、服を着ている感触がない。
恐る恐る自分の身体に視線を下す。
「っ!?」
裸だった。下着すら身に着けていない。
私は布団を手繰り寄せ、身体を隠す。
どうして……!?
内心パニックを起こしていると、空が目を覚ました。
「おはよう、綾ちゃん」
「そ、空……!?」
空も裸だった。
だが、空は身体を隠そうとせず、私に抱き付いてきた。服越しではない温かな体温が直に伝わってくる。
「昨日は嬉しかった」
「昨日?」
「覚えてないの……?」
空が悲しそうに視線を逸らす。
「ご、ごめんなさい……記憶が曖昧で」
「そっか……激しかったもん。仕方がないね」
「激しかった……?」
ますます、意味が分からなかった。
「うん、昨日ね、私と綾ちゃん。エッチしたんだよ」
「っ!?」
う、嘘……っ!?
衝撃の真実に硬直する私。空は私から布団をはぎ取る。咄嗟に隠そうとしたが、その前に空が私の身体に指を指した。
「ほら、ここ。赤くなってるでしょ、キスマークだよ。こっちは私の歯形だね、綾ちゃん噛むと可愛い声出すから一杯噛んじゃった」
「……」
私の身体には空との情事の痕跡があった。身体も怠く、寝不足だ。ベッドのショーツにも情事の痕跡が残っている。ベッド周りを見れば、服と下着が脱ぎ捨てられている。
記憶はないが、状況証拠は揃っていて、私と空が情事をしたことは間違いない。
自分のやらかしたことを理解し、どんどんと顔が青くなる。
レンという恋人(予定)が、いながら空と関係を持ってしまった。取りあえず、空に謝らないと。
口を開こうとした時だった。
「綾ちゃんが私の恋人か……」
「……!?」
ポツリと言われた言葉に、私は戸惑った。そんな様子を察したのか、空は目に涙を浮かべた。
「これも覚えてないんだ……。私が告白したら綾ちゃんがオーケーしてくれたんだよ? それから、ベッドで二人で……すごく幸せ。これからも、一緒にこういうことできるんだもん」
幸せそうな笑みを浮かべ、私に抱き付く空。
覚えてないので、恋人関係はなし、なんて言えない。
記憶はないが、こうして情事を行ってしまったのだから。それに、そんなことを言ったら、空が悲しむだろう。
ごめんなさい、レン。
私はレンに内心謝りながら、空と付き合うことにした。




