表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

百合短編シリーズ

【姉妹百合】過保護姉と反抗期妹

<序>


「こまねーちゃんだいすき!」


 幼稚園のときのはるちゃん。ちっちゃくてかわいいなあ。


「こまねーちゃん大好き! アタシ、しょーらいこまねーちゃんのおよめさんになる!」


 小学校低学年のときのはるちゃん。ああもう、嬉しいこと言ってくれちゃって。


「こまねーちゃん、一緒に学校行こ! んで、帰ったら遊ぼ!」


 中学生のときのはるちゃん。うふふ、ほんとにお姉ちゃん子なんだから。


「こま姉、くっついてこないでよ!!」


 高校生になったはるちゃん……。


 なんということでしょう! 目どころか脳でも心臓でも、どこに入れても痛くないほど可愛いはるちゃんが突然反抗期を迎えてしまいました!!




<起>


「どうしよう……。挨拶しても、はるちゃん目を合わそうともしてくれないの」


 入学式が終わって一週間ほど経った頃、わたし○×高校三年生・暮内(くれない)こまちは昼休みに机に突っ伏していました。


 その理由は、はるちゃんこと妹の暮内(くれない)はるか。ついこの間まですごーく懐いていたのに、同じ○×高校に入学してからまるで別人になってしまったかのようにわたしを避けるようになったのです。


 わたしの家は早くにお母さんを亡くし、お父さんも弁護士で忙しいものだから、母親代わりとなってはるちゃんをとても大事に大事に育ててきました。はるちゃんもそれに応えるようにわたしにべったりで、それはもう仲睦まじい姉妹だったのに!


「なんで! どうして!?」


 机に突っ伏したまま、頭を抱えます。


「いやいや、こまちが過保護すぎるんだって。はるちゃんだってちょっと距離を空けたいお年頃なんでしょうよ」


 と言うのは、対面でお弁当を食べている親友の比米(ひめ)あやかちゃん。ショートレイヤーの似合うバレー部のエース。


「そのお弁当だって、はるちゃんのために朝早く起きて頑張って作ったのよ? なのに、はるちゃんたら『いらない。購買でパン買う』~だなんて」


「あたしは、お昼代が浮いてありがたいけどね~」


 あやかちゃんが今食べてるのは、はるちゃんのために頑張って作った愛情弁当。捨てるわけにもいかず、おすそわけしました。


「髪型もね。お揃いのきれいなロングヘアだったのに、それ褒めたらその日のうちに切っちゃうのよ? あんなきれいな髪をショートにするとか酷くない!?」


「いや、あたしもショートだからな? ショートディスんなし」


 わたしの後頭部を軽くチョップしてくるあやかちゃん。


「ああああああ、わたしどうしたらいいの!? はるちゃんなしじゃ生きていけない!!」


「大げさだなー。少し自由にしてあげなって。ほら、早く食べないと時間なくなるぞ」


「そうね、とりあえず食べながら悩みましょう。より一層愛を注げば、はるちゃんもきっとまた心を開いてくれるはず!」


 顔を上げると、なんだかあやかちゃんが呆れたように首を横に振ってるけど、どういうこと?


 ともかくも、愛の奪還大作戦発動あるのみ!! うーん、我ながら美味しいお弁当。はるちゃんに食べてほしかったなあ……。




<承>


「はーるちゃん! 一緒にかーえりーましょー!」


 放課後、はるちゃんがいるはずの教室の扉を勢いよく開けると、果たしてはるちゃんがいました!


 しかしはるちゃん、一瞬びくりと固まった後、反対側のドアからダッシュで逃げるじゃないですか!!


「待って、はるちゃん! なんで逃げるのーっ!?」


 きれいなフォームで逃げるはるちゃん。必死に追いかけるけど、どんどん遠ざかっていきます。はるちゃん運動神経いいものね。運動会でいつも活躍してたっけ。デッドヒートを目撃した生活委員長がホイッスルを吹いて注意してくるけど、お小言聞いてる余裕なんかありません!


 ついに、はるちゃんを見失ってしまいました。ううう、我が身の体力の無さが恨めしい……。


 翌朝。


「はーるちゃん! 一緒に学校行きましょ!」


 やはりダッシュで逃げるはるちゃん。そして見失うわたし。


 お昼。


「はーるちゃん! 一緒にお弁当食べましょ!」


 やっぱりダッシュで大逃走。またもや見失うわたし。


 こんなやり取りが数日続いて。


「どうしよう、あやかちゃん……。はるちゃん、部屋から出てこなくなっちゃった」


 お昼休み、例によってはるちゃん用のお弁当をあやかちゃんに食べてもらっているわけですが、今日も机に突っ伏しています。


「えー? 引きこもり?」


「ううん、学校にはきちんと行くしそれ以外でも外出してるみたいだけど、とにかくわたしを避けるの……。ここ数日、家ではるちゃんの姿見てない……」


「だからさー、少しそっとしといてあげなって」


 苦笑しながら、そう言うあやかちゃん。えー、そこ笑うとこ?


「それにね。人づてに聞いたんだけど、はるちゃん陸上部入ったらしいの。その理由が、わたしからの逃げ足を鍛えるためらしくて……」


「人の話聞けよ。ほんと、こまち愛が重いよね。境遇的に理解はするけどさー」


 ああ、はるちゃん! わたし、はるちゃんとどう接したらいいの!?




<転>


 はて? ある夜、家の冷蔵庫を開けると不思議なことに気付きました。食材の減りが妙に早いのです。


 お父さんは料理が下手だしほとんど寝るために家に帰っている状態なので、炊事はわたしの役目。するとはるちゃん? うーん、はるちゃんって料理できたかしら? 陸上部に入ったからお腹空いてつまみ食いしてるのかもと思ったけど、生のまま置いておいた野菜とかお肉もなくなってるし……。


 ぽくぽくちーんと思考を巡らせて気づいたのが、はるちゃんが密かに料理している=わたしの料理を二度と食べないために練習している! という理論(ロジック)。そういえばここしばらく、いつもはるちゃんのために作った料理が残されている!


 雷に打たれたようにその場にへたり込み、頭の中でバッハの『運命』が鳴り響きます。あれ、ベートーベンだっけ? まあいいや。


 力なく立ち上がり、泣きながらお父さんとわたし二人分の食事を作ったのでした。


 そして翌朝、疑念は確信に変わるのです!


 ショックのせいかいつもより早く目が醒めてしまったので、お弁当を作ろうとキッチンに向かうと、はるちゃんがキッチンに入っていくのが見えました。


 気になって扉を開けると、そこには料理中のはるちゃんが!


「こま姉!? 勝手に入ってこないでよ! 出てって!!」


 すごい剣幕で怒鳴られてしまったので、「ごめんなさい!」と言いながら慌てて扉を閉めます。


 ああ、はるちゃん。やっぱりお姉ちゃんはもう必要ないのね。お姉ちゃん悲しい!


 そして、学校のお昼休み。


「あやかちゃん、わたしはるちゃん離れする」


「はぁッ!?」


 例によって机に突っ伏していると、今日ははるちゃん用のお弁当がないので、購買のカツサンドを食べていたあやかちゃんが変な声を上げます。


「あのさ、エイプリルフールはとっくに過ぎてるよ?」


「嘘とか冗談じゃなくて。今朝ね……」


 顔を上げて、冷蔵庫のこととはるちゃんが料理していたことを話します。


「へー。そんなことがねー」


「巣立つひな鳥を見守る親鳥って、きっとこんな心境なのね」


「料理ぐらいで大げさな。ともかく、妹離れできた偉いこまちちゃんに、おいたんがあとでジュースをおごってあげよう。よしよし」


 わたしの頭を優しくなでるあやかちゃん。


「ありがとう。ああ、この手がはるちゃんのだったらなあ……」


 そう言うと、「だめだこりゃ」と深い溜め息を吐かれてしまいました。えー、なんでー!?


 その後、校内や家でばったりはるちゃんと遭遇する機会が何度かありましたが、わたしの方から脱兎のごとく逃げ去ります。


 はるちゃん、わたし頑張るからね!




<結>


 それから数日経った夜。悲しみを抑えながら自室で勉強していると、扉をノックする音が。


 この時間はお父さん帰ってこないはずだけどと思って扉を開けると、そこには手を後ろに回したはるちゃんの姿!


 わたし、夢でも見てるの? ほっぺをむにっとつねってみると、しっかり痛い。


「何やってんの? あのさ、こま姉最近様子が変じゃん? いや、いつも変だけどさ」


 なんだか、もじもじしているはるちゃん。むしろ、はるちゃんのほうが様子が変なような?


「でさ、比米先輩にこま姉がなんかすごく思いつめてるって聞かされて。それで、えと。ちょっと悪かったなって……」


 あれ? なんだか、話の展開がよくわからないんだけど?


「クラスメイトに、高一にもなってお姉ちゃんとベタベタとかおかしくない? ってからかわれて。その、恥ずかしかったっていうか……。だからさ、外ではダメだけど、家でなら前みたいな感じでいいから。あとこれ」


 え? え? そう言ってはるちゃんが差し出したのは、お皿に載ったきゅうりとたまごのサンドイッチ。


「まだこんなのしか作れないけど、こま姉に楽させてあげたいなって。こっそり料理練習してるの見られるの恥ずかしかったから、こないだは追っ払っちゃってゴメン。……よかったら、食べて」


 ああああああ! わたしはるちゃんに嫌われたわけじゃなかったのね!? 頭の中でブラームスの『喜びの歌』が鳴り響きます。あれ、これもベートーベンだっけ? もう、どっちでもいいや!


「ありがとうぅぅ! はるちゃあぁぁん! はるちゃん大好きいぃぃっ!!」


「ちょ! 抱きしめすぎ! 苦しい! サンドイッチも潰れちゃうから!」


 久々のはるちゃんの感触、とても柔らかい。


 ああ、わたしの可愛いはるちゃん。これからも、ずっとずーっと一緒だよ。


 おしまい。


 あ、サンドイッチ美味しかったです。はるちゃんの味がしました。


 ほんとにおしまい。

<制作秘話>


 いつものやつです。


 そういえば姉妹百合って書いたことなかったなーと思ったのが執筆のきっかけです。そして、愛の重いシスコン姉とツンデレ妹の組み合わせとか面白いんじゃないかと思ってこういう話にしてみました。


 今回は珍しく、視点の主が愛を自覚する構成ではなく、最初から最後まで妹ラブの剛速球を投げ続ける展開になっています。代わりに、妹を一旦諦めようとすることと、姉を邪険にしすぎたと反省するという変化をつけています。


 では、キャラ語りいってみましょう。



・暮内こまち


 ○×高校百合シリーズのみならず、拙作の中でも屈指の変人。まさに愛の暴走機関車。なんで、こんな変な子になってしまったんだろう……(困惑)。ともかくも、こういう変人を書くのは大好きなので、書いてて楽しいキャラでした。


 名前の由来は「紅こまち」というさつま芋です。なぜこんな名前にしたかの理由は、後述します。



・暮内はるか


 ヒロインその二なのに、「序」以降「結」までほぼセリフがないという稀有なキャラ(笑)。私、ツンデレ属性がないものでツンデレ書くの苦手なんですが、愛が重い姉と組み合わせたらいけるんじゃないかと思い、チャレンジしてみました。


 名前の由来は「紅はるか」というさつま芋です。「べに」を「くれない」と読ませて、「くれない・はるか」にしたら美しい響きだなあと思ってネーミング案として以前書きとどめておいたものを利用しました。


 こまちの名前も、他の紅系さつま芋を調べてそこから持ってきたものです。名前に関しては、はるかのほうが先というわけですね。



・比米あやか


 常識人のツッコミキャラとして用意したら、暴走こまちとの組み合わせでずいぶん味のあるキャラになってくれました。


 名前の由来は「ひめあやか」というさつま芋です。姉妹の名前がさつま芋なので、それに合わせました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 文章力が高くてすらすら読めましたー!特にお姉ちゃんが妹をどう好きなのかを描いた心理描写が素敵です…(´∀`*) 妹ちゃんも可愛い…料理勉強してたなんて…(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ