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07 粗野な男

 疲れは残っていたが、朝早く目覚めたので、さっそく台所におりる。すると、ネリーと昨日ベッドを整えてくれた粗野な男が朝の支度をしていた。


「すみません。お手伝いできなくて」

「いいんだよ。気にしなくて。田舎の朝は早いんだ。それより、遠くからきて疲れたろう? あんた昨晩は眠れたのかい?」


 ネリーが心配そうにきく。例え下働きでも彼女のような親切な女性と働けるならば、不満はない。ひどい扱いをする貴族の家よりもずっとましだ。主人には少し問題があるようだが、贅沢は言っていられない。なんとか雇ってもらえないものだろうか。


 ネリーとともに席に着くと、昨日の粗野な男が先に食事をしていた。見るとスプーンを逆手にもちス―プをガチャガチャと音を立てながら飲んでいる。そして彼はナイフを使わない。


 王都では使用人でもこうまでマナーの無い者はいなかった。そこで、彼の名を聞いていないことを思い出す。昨夜の礼も言わなくては。


 そうこうするうちに男は食事を終えて席を立とうとする。


「あの、お名前を伺っても?」


 リズが慌てて声をかけると、男が驚いたように振り返る。


「ダニエル」


 ぶっきらぼうにそう名乗った。確か、この館の主人もダニエルと言った。


「まあ、ここのお館のご主人様と同じお名前なのですね」


 すると男は真っ赤になって、ぼさぼさの髪の奥から、リズを睨み据えた。リズは彼がなぜ腹を立てたのか分からない。

 殴りかかってくるかと思ったが、そのまま、どかどかと大きな足音を立て出て行ってしまった。

するとネリーがおずおずと声をかけてくる。


「ねえ、リズ、あの方は同じ名前なのではなく。ここの館のご主人なんだよ」

「ええ!」


 てっきりこの館の主人は昨日の紳士かと思っていたのだ。

 なんて失礼なことを言ってしまったのだろう。そして彼の行儀の悪さに不躾な視線を送ってしまった。というかなぜ、あそこまで礼儀作法がなっていないの?


 だが何より彼が伯爵と言うのが信じられない。そして、なぜ使用人と一緒に台所で食事をしているのだろう? 疑問で頭がはちきれそうになった。

 

 しかし、とりあえず今は住むところの確保だと、無理矢理頭を切り替える。


 「ネリー、私、ご主人様に謝りたいのだけれど、どこへ行かれたのかしら?」


 失礼なことを言ってしまったからというのもあったが、ダニエルが主人ならば自分をここにしばらくの間置いてくれるのではという期待もあった。昨日の中年夫婦との関係はいまひとつよくわからないが、彼にお願いする方が置いてもらえる確率は高そうだ。


「この時間は、農場だね」


 聞けばここから、馬で二時間以上かかるという。彼は毎日馬で行くとのこと、今からでは追い付けない。気持ちは焦ったが、屋敷でネリーを手伝い、当主の帰りを待つことにした。


 とはいっても屋敷のこまごまとしたことは分からないし、教えてもらったとしてもここに置いてもらえるとは限らない。

 だから、ネリーの手を煩わせるよりも自分が出来る事からはじめることにした。掃除である。とりあえず雇ってもらうための、役立つ人間アピールだ。


 しかし、その前にネリーに注意を受ける。本館に地下に通じる階段があるが、そこには絶対にたちいるなと。大きなお屋敷によくある秘め事だ。たいていお宝か犯罪がらみだとリズは睨んでいる。クローゼットの中の骸骨。触れないでおこう。好奇心は猫を殺す。


 まずこの屋敷は本館一階の食堂以外はカーテンが閉まっていて、掃除もされていない。さっとカーテンを開け、部屋の埃を払い始めた。

 

 この屋敷はまるで城のように広いので、ネリーにどの部屋を掃除したらいいのかを事前に聞いてから始めた。まずは小さい方のサロンだ。


 しかし、やってみるとやはり部屋に敷き詰めてある絨毯などは替えた方がよい状態だった。カーテンも埃にまみれているので洗わなければならない。社交など一切やっていないのだろう。


 あの粗野な男がここの当主ならば、屋敷に人を雇い入れる余裕などないのかもしれないと暗澹たる気持ちになる。




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