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05 敵襲来!?


 リズは箒を持って早速、居間に行く。居間といっても使用人達が使うこじんまりとした場所だ。年季の入った大きなオーク材のテーブルが置いてある。


 日の差すテラスはその役目をなさず、開けっ放しで荒れている。ここも壊れているようだ。建て付けが悪いのかきちんと閉じない。不用心すぎる。とはいってもこの広大な屋敷の周りに人家は見当たらず、荒れ野だ。


 そして、この屋敷は不衛生過ぎる。これでは病気になってしまいそう。まずはぼろ布のようになっている絨毯をどうにかしたい。元は多分赤かったのだろう。


「ネリー、ここにある絨毯を処分してもよろしいかしら?」


 ぱたぱたとネリーのいる台所をのぞく。


「はあ、そりゃあ、ご主人様に確認しないと」


 そこで、はたとここへ来た目的を思い出す。


「ご主人様はどこにいらっしゃるのですか?」

「この時間だと、お仕事中で農場のほうにいるよ」


 とりあえず、主人が戻れば、話も通じるだろう。それならば仕方がないと頭を切り替え掃除に専念する。


 リズは絨毯の処分を諦め、まずは汚れたテーブルクロスを取り換えることにした。家庭教師できたつもりが、ここでも下級使用人として使われそうだ。というより、どんな形でも使って欲しい。ここを追い出されたら、文無しなので困るのだ。


 リズは切り替えが早く、現実的な娘だった。エリックに捨てられたと悟ったときから、夢見ることはやめたのだ。


 なんにでも夢中になるたちなので、気付くと陽が傾きかけていた。それでも館の主人は帰ってこない。無心に掃除をしていると、正面玄関の方がなにやら、騒がしくなった。やがて男の野太い声が響いてくる。


「おい、ネリー、いないのか?」


 ここの主人が帰って来たようだ。 リズはいそいそとエプロンを外し、軽く身支度を整え、正面玄関へ向かうネリーの後について行った。やっと屋敷の主人にお目通りが叶う。


 立派な身なりの中年男女が入ってくるところだった。彼らは派手で高価なものを身に着けている。とりあえず、人を雇う余裕はあるのだろうとほっとした。


 先に男の方が、リズを見咎める。


「なんだ、お前は?」


 突然の居丈高で無礼な物言いに驚いたが、相手は高位貴族だ。動揺する心を隠し、平静を装って挨拶することにした。


「お初にお目にかかります。旦那様、私はアーデン男爵が娘、エリザベスと申します」


 リズがきちんと礼をとる。


「はあ? 貴様、誰の許可をうけてこの屋敷に入り込んだ! おい、ネリーこれはいったいどういうことだ」


 男が真っ赤になって怒りだし、ステッキを振り回す。リズはいろいろなとこで家庭教師の仕事をしてきていたが、こんな扱いは初めてだ。突然の癇癪に驚いて後退りする。何がどうなっているのかわからない。



「まあ、あなた、ちょっとお待ちなさいな。この娘の話も聞きましょう」


 夫人の方がとりなしてくれてほっとする。


「お前、いったいここで何している? 何が目的だ」


 しかし、ほっとしたのも束の間、男は蛇のような目で、リズを睨みつけ、尋問する。


「私は、ウォーレン伯爵家のご紹介でこのお屋敷に家庭教師として参りました」


 やましいところは何もないので堂々と答えた。


「家庭教師だと? その話は断ったはずだ」


 さすがにこれにはリズも打ちのめされた。どうも話が行き違っていたようだ。道理で子供がいないはずだ。しかし、ここでこの家から叩き出されたら、荒野で野宿することになる。


「あの。紹介状を持って来ております」


 恐ろしい気持ちを抑え必死に言い募る。


「まあ、図々しい。あんた、ここの財産目当てで押しかけてきたんだね」

「はい?」


 いままで夫を止めていた夫人にいきなり怒鳴られてびっくりした。財産目当てとは、いったい何をいっているのだろう。話が全くみえない。

 だいたい執事もいない荒れた領主の屋敷に財産も何もないのではないか、と頭の片隅で冷静に考える。


 すると男が持っていたステッキを振り上げた。


「この女狐が出ていけ!」


 日頃はしっかりしているリズだが、ここまで粗野な人たちにも激しい暴力にも慣れていない。女狐って何? 話が通じないうえに理不尽過ぎる。さすがに恐怖で体が固まった。


 ひゅんとステッキがうなり振り下ろされる音がする。しかし、いつまでたっても打たれる衝撃はこない。うっすらと目を開けた。


「なにやってんだよ!」


 ここに来た時に出会った感じの悪いぼさぼさ頭の粗野な男が、中年男の腕を軽くひねり上げ、ステッキを取り上げた。


「おい、ネリー。そこの女を頼む」


 え……? そこの女ですか?

 


 


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