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26 里帰り?

注:歪な家族関係、地雷な方は退避を!!





 走る馬車の中でリズは不安だった。許可を取ったというのは本当だろうか? あまりに急すぎるし、にわかに信じがたい。しかも彼は門から見えにくい茂みに隠れていたように思う。疑念はいくらでも湧いてくる。いくら何でもこんな風に人を連れ出すのは間違っている。


 一度王都にかえれば、しばらくここには戻れないだろう。そうしたら、主人に黙っていなくなったリズは首かもしれない。いくら特別扱いされているとは言ってもこれはゆるされないだろう。


 父が危篤の時にそんなことを考えてしまう自分に嫌気がさす。


(やはり、私も母や姉と一緒で自分のことしか考えられないのだろうか……)


 エリックは馬を替え、王都まで夜通し走らせた。


 次の日の夕刻には王都に入っていた。


 来るときは乗合馬車を乗り継ぎ、最後は貸し馬車を利用して、三日かかった。金をかければ、一日半もあれば行き来できるようだ。


 屋敷に着くとリズはすぐに父の部屋に行こうとしたが、サロンに案内される。お茶など飲んでいる場合ではないのに。

 サロンの扉を開くと正面に父が座っていた。


「エリザベス、やっと帰ってきたか」


 くつろぎ茶を飲んでいる。


「お父様、具合が悪いのでは?」


 一体どういうことなのだろう? リズは訳が分からない。


「何、たいしたことはない。ただの風邪だ」

「え? でも心の臓が悪いと」

「そうでも言わないとお前は戻らないではないか」

「ひどい、嘘を吐いたのですか!」


 怒りを覚えるよりもショックだった。


「貴様、親に向かってなんて口を利くんだ」


 激昂する父を見て、リズは悔しくて涙が出そうになる。騙されたのだ。


「仕事に戻ります」


 リズが踵をかえすのを今度はエリックが止める。


「リズ、君に帰る場所などないよ。あの田舎での仕事は終わったんだ」

「え?」

「君は辞めたんだよ」


「何を勝手なことを!」


 これには、かっとなった。


「リズ聞いてくれ、私は、あの田舎伯爵から、君の退職金としていくばくか金を受け取っている」

「え?」

「あの伯爵の視察先に直接訪ねていたんだ。かわいそうにね。リズはあの田舎で頑張ってきたんだよね。でも替えは、いくらでもきくからとあっさりと君の退職を承諾してくれた」


 エリックが痛ましそうにリズを見る。ショックだった。しかし、その言葉はすとんとリズの心に落ちた。それは自分が今まで考えていたことだ。いくらでも優秀な人間はいる。ダニエルは選べる立場の人間だ。


「それで、私の退職金は、どこに」

「呆れたな。今度は金の話か」

「私が、働いて得たお金です」


 すると父が激してティーテーブルを叩く。


「一人で生きていくこともできないくせに生意気な口を利くな! 育ててもらった恩も忘れたのか。お前が稼いだ金は家族のものだろう!」


 納得できるわけがない。リズはこの家を追い出されたのだ。


「エリザベス、なんだその目は。お前が稼いだ金はアーデン家のものだろう。お前はこの家の人間なのだから。すこし自由にさせるとすぐ勘違いする。たいして仕事もできない小娘が!」


 父が吐き捨てる。


「ひどいわ、エリザベス。親を見捨てるの? そんな薄情な子に育てた覚えはないわ。あなたは自分勝手であなたの叔母さんにそっくり」


 母がメイドに支えらながら現れた。その隣には涙ぐんだマゴットがいる。


「そうよ。お母様がこんな状態なのに。すべて私一人に任せて」


 まるで悲劇のヒロインのようにハンカチを握りしめ、マゴットは自分に酔いながら登場した。





 その晩からリズは、母の面倒を見ることになった。母はなかなか寝付けないらしく。いろいろと用事を言いつけてくる。馬車旅で疲れた体に鞭打った。


 この家のメイドは通いで夜になると帰ってしまう。今までは夜も雇っていたらしいが、皆続かなかったらしい。

 

 リズが帰り丁度よかったとばかりにその役目を押し付けられた。しかし、昼も夜もメイドがついて世話をしていたならば、姉のマゴットは母の何をみていたというのだろう。


 朝メイドと交代するとリズは疲れて、寝てしまった。しかし、リズの部屋はもうなく。マゴットの物が置いてあった。どうやら彼女は二部屋使っているようだ。

 仕方なくリズは、使用人が昔使っていた屋根裏部屋で寝た。


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