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【電子書籍化】伯爵様、どうか私を雇ってください!~婚約者を奪った姉を祝福するなんて無理です~  作者: 別所 燈


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21 どろぼう?

 人が増えて、いいこともあれば悪いこともある。

 一日の仕事を終え、自室のある本館四階に戻ると、戸が開いていた。誰かいるのだろうか? 不審に思い中に入ると、部屋が荒らされていた。


 屋敷の使用人棟でときおり、物が盗まれるということは聞いていたが、とうとう本館のここにも来たようだ。


 リズは早速部屋を片付け、無いものをチェックした。もともと持ち物の少ないタイプだったので、それほど時間はかからない。

 

 実家にいたころ、マゴットがよくリズのものを勝手に持ち出したことがあったので、ここでは人が増えてから、警戒していた。


 金がたまると街で粒ダイヤと交換しベルトや服の裾などに縫い込んでいたのだ。確認したら気付かれずに無事だった。


 結局盗まれたのはいくらかの小銭とお気に入りの羽ペンにペーパーウェイト。そして、何よりも、ショックだったのは主人から貰った髪飾りが消えていたこと。よりによって買いなおすことが出来ない大切な物を持っていかれてしまった。


 服に縫い付けることができなかったので、箱に入れて大切に保管していたのだ。きらきら光るエメラルドを飽かずに眺める日もあった。空の箱を見て悲しくなる。



 夜更けに主人に告げ口するほどの事でもないとは思ったが、部屋の鍵を壊されたのは痛手だ。さすがに鍵が閉まらないのは怖い。

 リズはまだ起きて仕事をしていたアーノルドを廊下で捕まえて、鍵を直してくれるように頼んだ。


「こりゃひどいね。ドアノブまで壊されているじゃないか。随分と悪質だな。犯人を捕まえなければな」


 アーノルドが厳しい表情で言う。


「無理だと思いますよ」


 リズは諦めていた。盗みをする人間は平気でうそを吐くと知っている。姉のマゴットがいい例だ。そうやすやすと見つかるわけがない。


「明日皆に聞いてみる」

「大事にしたくはないので、鍵さえなおればいいです」


 アーノルドは工具を取りに行くと下へ降りて行った。


 本当は髪飾りだけでも返して欲しい。休みの日に、街へ出かけるときは、いつもつけていた一番のお気に入りなのだ。

 男性から、飾りを貰ったのは初めてだった。婚約していた頃、エリックからも貰ったことがない。


 メイド達の多くはリズに反感を持っている。なぜか彼女たちは、リズがここの主人に取り入っていると信じて疑わない。だから、知っていたところで、何も教えてくれないだろう。


 この広い本館で寝泊まりしているのは主人とリズだけで、後は皆通いか使用人棟に居住している。そろそろ主人にリズの部屋を移してもらおう。


 主人は二階だが、やはり同じ本館にいるのでは反感を買ってしまうというものだ。

 ドアの前にチェストを置きちょっとしたバリケードを築くことにした。がたがたと家具を移動していると、こんこんとドアをノックする音がした。

 

 アーノルドが戻ってきたのだろうか? 夜も遅いので少し不安になりながら、返事をするとダニエルが立っていた。


「ご主人様、どうなさったのですか? こんな夜更けに」


 リズが驚いていると、彼は工具を手にしていた。


「こんなに使用人が多い家でしかも盗人もいるというのに、部屋の鍵が閉まらないのでは不用心だろ」


 アーノルドから話を聞いたようだ。ダニエルはガンガンとドアにくぎを打ち始めた。


「ご主人様、いったい何を?」

「いま、簡単なカギを取り付けてやる」


 見る間に金具が打ち付けられ、大きい南京錠が付けられる。屋敷の主人に大工仕事などやらせて良いのだろうか。しかし、彼はそれが誰よりも得意だ。


「ご主人様そこまでしていただかなくても」

「明日、あんたの新しい部屋を用意させる。引っ越しの準備をしておけ」


 変わらず部屋の中央にはネズミに荒らされた大きな天蓋付きベッドがある。この部屋はリズがここへ来た当時のままだった。ベッドも最初にダニエルが用意してくれた。簡易ベッドを使っている。さすがにもう干し草は使っていないが。


「そうですね。いつまでも本館にいるのもどうかと思っていたので」

「なぜ? 本館にいればいい。そんなことより四階は不便だろう。二階に来ればいい」

「まさか! 二階はご主人様がおつかいでしょう?」


 するとダニエルは真っ赤になった。


「そういう意味ではない。二階にも部屋はたくさんある。その一室を片付ければいい」


「それは分かっておりますが、結構です。私は使用人棟に行きます」

「行かなくていい。危ないだろ。ドアを壊されるような真似をされたんだから、本館からは出るな。犯人を捕まえなければな」


「ご主人様、そんなことをすれば、大事になってしまいます。皆が疑い合って屋敷の雰囲気が悪くなってしまうのではないでしょうか?」

「もう充分悪いだろ。犯人を捕まえれば、それで疑心暗鬼は終わりだ。ここのところ盗難が頻発している。使用人の悪事は俺の責任だ。絶対に犯人は捕まえる。あんたはしっかりしているようで、すこしボケっとしたところがあるから、十分用心しろ」


「え? ボケっとですか?」


 リズにその自覚はない。ボケっとしているから、姉に婚約者を奪われたのに。


「外にも鍵を止めるための金具を取り付けておくから、あんたはもう寝てろ」


 そう言うとドアを閉められてしまった。リズのことを心配してくれているのは分かるが、ほかの使用人には、それが特別扱いに見えてしまう。


 もちろん、リズは四階から移動する気はない。





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