センター試験の日は雪が降る。
未来を決める日、雪は降り積む
紲
よし。
僕はマークシートと問題用紙のメモを照合し、マークミスが無いか確認する。ここで失敗すればここまでの努力が水のアワになる。否、アワに消えるのは明日の僕か。
何とか時間以内に終われた。まあ、後、数分も無いのだけれど。
化学は時間内に終われるか、いつもギリギリだったので安心だ。
僕はこれ以上何も出来ることは無いと、HBの鉛筆を斜め前に置く。何度も見直して、無意味に解答をいじくった挙句、正解を不正解にする例が過去何度もあるのでもう動かさない。
その決意を込めて右腕を枕にして俯く。
もう、高校生活が終わる。
何が何でも、地元の国立に入らないと。
あいつが、今日と明日を生きるために僕は普通でないといけない。
普通でなくても当たり前に、通常の、人並みに過ごして、そんであいつを幸せに。
前のように流されてではなく、ただ、責任だけでもなく。
これは恋だと思う。
芹
少し前に問題が全て時終り、3回見直しが出来た。
試験時間は残り1分半。頑張ればもう一度確認くらいは出来そう。でももう今更。隣の子は決意したように鉛筆を置いて俯いている。
自己採点をしてみるまで分からないけれど、多分九割は。でももう少しあったら嬉しい。
私は何もすることが無くなり、汚く書いてある穂水芹。
直す。
私は消しゴムで名前を消してもう一度穂水芹と書き直した。
今回は失敗出来ない。
とにかく、この予選のような試験だけは突破したい。
これは私の救いなのだ。
紲
余は母親に酷い虐待を受けていた。だから余は暴力というコミュニケーションの偽物みたいなものにすがっていた。
けれどそれも母親の死で崩れた。
そこからまた自己を形成するのに1年半も、かかった。否、それもまだまだ途中だ。
僕の父と母は余と養子縁組をするつもりだ。余は今、天涯孤独だ。父と母と兄は既に死んでいる。余は僕の幼なじみで、今は恋人だ。ズット病院にいて、なかなか家に帰れない恋人だけれど、僕の大好きな恋人だ。
しかし、今度はそこに義兄弟という関係も出来るらしい。また訳の分からない関係になる。
更に余は、春には余はまた新しく通信制の高校に通い直す。
新しい生活や学校を僕が支えていく必要がある。僕の母は海外赴任中だし、父親も新年度から東京へ移動するらしい。また、あと無駄に広い部屋に余と二人での生活に戻る。
僕が彼女を支えていきたい。
それが僕の願いだ。
芹
友達が自殺した。名前は陽太。
二年の夏、部活が最も苦しい時期。彼は自殺した。一緒に死のうとしたその彼女は生き残った。その彼女は高校を辞めて、陽太の子供を育てている。そのうちまた高校に通うらしい。
問題はそこじゃない。
自殺の原因。
原因は私にある。
私が部活で上手くできなかった。
あの部活は陽太の居場所ではなかった。
エースで、部活のことをとてもよくしてくれた。陽太がいなくなって、部活はまわらなくなった。自殺のせいもあるけれど、多くの部員が辞めた。
陽太の死は私の失敗だ。
部活は居場所に出来なかった。
それが1つ目の失敗。
2つ目の失敗はインターハイで決勝に行けなかったこと。
陽太は全国を目指していた。
でも、それは志半ばだった。
それに部活に残ったみんなの願いもそうだった。
でも私はしか行けなかった。
部活は弓道部だったが、団体では県大会の決勝すら逃し、数名が個人のみで残った。
結局、全国に行けたのは私だけで、私も予選落ち。
これでも何だか中途半端。
陽太の死を乗り越えられなかった。
これを乗り越える為に成功が欲しい。
すごく自分勝手。
でも、成功が欲しい。
高校で残されたものはもう少ない。
受験で成功したい。
紲
僕はもう少しかと顔を上げる。
名前と受験番号の間違いがないか確かめる。否、何度も確認したから間違いはないのだけれど。
ここはまだ通過点だ。
ここから。
受験も、これからの人生も。
明日からも頑張ろう。
僕はそう決意し、視線を窓の外に向ける。
「雪だ。」
しまった。声が出た。
周りを見渡すと横の女子だけがこちらを見ているがそれだけだ。
何とかなった。
雪はおだやかに窓の外の木々に降り積もり、世界を白くしている。
ああ、明日は世界が綺麗になる。
芹
「雪だ。」
隣の男子生徒は試験中にも関わらず声を出した。
私も釣られて窓の外をむく。
ああ、雪。
寒くなる。
でも、いい。
雪はおだやかに降り積もる。
センター試験の日って何故か毎年雪ですよね。
神様は雪をどう考えているのでしょう。
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『彼女が僕を切りつける理由。』『パタパタ』『学校の不安は生徒会選挙と共に。』等とも繋がりがあります。