見てるだけ【side椎名雪慈】①
参拝されてる頃の雪慈です。
主人公とのテンション差ぁ!!
俺、椎名雪慈は、まぁ普通だ。普通って何だとか言うなよ。勉強も運動も得意では無いけれど不得意という訳でもない。友人もいるし、不細工と罵られるような顔でもないと思ってる。……身長?まだ1年なんだから成長期待ちだ!
とにかく、普通の俺は毎日それなりに過ごしている。
ただ最近、何となく気になる女子がいる。惚れたとか、そんな甘酸っぱい感情ではない。このところ良く見かけるから何となく、そう、何となくな。
*****
「そういえば、最近昼に本持って通り過ぎる女子のこと知ってるか?」
10月も末の頃、昼休みのだらけた空気の中で聞いてみた。彼女は、俺が覚えている限り2週間前位から良く見かけるようになったと思う。
「おーいおいおいー!青春ですかー?青春しちゃってるんですかー?椎名もお年頃かなー?」
煩い。東條なら交流関係が広いし丁度いいと思ったが、聞く奴を間違えたか。
「そうか、知らないか。ならいい」
「冷たーい!てか、多分それ鹿野木だろ?鹿野木すずちゃん♪」
知ってんのかよ。何か言い方がイラっとするけど。
「眼鏡かけて、無表情でスタスタ歩いてんの。俺、笑ってるとこ見たこと無いわ。でも結構胸がデカい!」
「セクハラやめろ馬鹿」
胸がデカいのは認めるが、わざわざ言うんじゃ無ぇ。周りにクラスの女子も居るのに大声で言いやがって馬鹿。こんな奴がモテるとか、やっぱり顔なんだろうな。
「まー、確かに最近見かけんね。向こうの階段使いたく無いのかね?まさか霊的な!?」
「さあ?ま、あんがと」
煩い奴だが、教えて貰ったので礼を言う。「椎名がデレたー!!」煩い……。
彼女、鹿野木さんは、これまで見たことが無かったから、多分1階のクラスだと思う。俺らのクラスは2階で、図書室も2階だからそれで通るのだろう。ただ、俺らのE組側の階段よりH組側の階段の方が図書室に近い。だから、図書室に早く行きたいなら、こっちを通る理由にならない。
ここを通る鹿野木さんを東條は無表情だと言うけれど、俺には何か楽しそうに見えた。口元を引き締め、でも瞳は宝探しをする子どもみたいにキラキラしているのだ。
その楽しげな様子の理由が、本でも図書室でもなくこの廊下を通ることにあるのなら。何を楽しみに通り過ぎて行くのだろう。
それを考えると、少し面白くなかった。
*****
冬場の移動教室はツラい。名前に雪が入っていようが、特に寒さに強くなる訳ではない。冬の寒さに悪態を吐きながら廊下を進むと、校庭に体操服姿の彼女を見つけた。
こちらに背を向け、微かに横顔が見える。友人が声をかけたのか、こちらへ振り返る。
そして、笑った。
頭を殴られたような衝撃だった。無表情とは何だったのか。ほにゃりと崩れた笑みは本当に子どもみたいだ。陽だまりのように暖かく、どこか気が抜けてしまう。
それとは逆に俺の表情は自然と強張った。
いつも1人で本を抱えて行く彼女。無表情に見られる彼女。彼女の楽しげな様子に気づいているのは、自分だけの気になっていた。だから、ただ見かけるだけの関係の癖に彼女を取られた気分になっている。彼女の笑顔すら見たことなかったのに。
あまりに傲慢な考えに自分でも驚いてしまう。いつの間にか生まれていた独占欲。恋と呼ぶには余りにもドロドロとしている醜い感情。こんな気持ちで近づいたら、彼女のキラキラした瞳が濁ってしまう気がして恐ろしい。
見えるけれど届かない。今の距離がきっと丁度いい。そう言い訳して、早足にその場を去る。
それでも、「誰かのモノにはならないで欲しい」などと考えていて、己の自分勝手さには呆れてしまう。
読んでくださり、ありがとうございます!
ドロ甘ヒーローside好きなせいで、長くなりそう……。