3.謝罪では!?
推しフィルターで塩とアラは濾されるらしい。
大掃除も終わり、休み明けテストのせいで、部活も無し。生徒のほとんどは帰宅し、校内はシンと静まりかえっている。しかし、場所の指定が無かったから教室で椎名さんを待っているのだけど、……来ない。
謝る内容が内容だし、やはり人目が無くなるのを待ってから来るんだろうか。待ってるだけでも緊張する。早く来て欲しいような、まだ心の準備をさせて欲しいような複雑な気持ちだ。謝罪内容を頭の中でぐるぐるとさせて落ち着かないでいると、椎名さんが教室に入って来た。
「悪い、遅くなって。今朝、」
「今朝はすみませんでしたァ!
変なこと言ってすみませんっ!
保健室まで運んでくださり、ありがとうございましたっ!!
このようなこと今後起こらないように以後気をつけますっっ!!!」
Yes,土下座。速攻土下座を決めました。いきなり握手を強要する変態が立っていたら、さぞかし恐かろう。謝罪は言葉だけでなく態度で示すもの。私は、推しの平穏な学校生活を脅かしたい訳ではないのです!
「ああ、うん。別に謝って欲しくて時間を貰った訳ではないから大丈夫。体調が治ったみたいで良かったし。だから、頭を上げてくれると嬉しいんだけど……」
すぐさま頭を上げる。もちろん視線は床固定。同じ失敗はしないぞ。
……うん、推しに謝罪の押し付けは良く無かった。求められてないのに過度の謝罪は自己満足でしかない。それにしても椎名さんの声めっちゃ好きだ。かっこいいし優しさの塊。
「それで、今朝の話しなんだけど、」
うあ、椎名さんしゃがんだ!?
待って、見れてないけど絶対近い!!
手が届く距離にいらっしゃるよ!!
足見えるもん!!!
「告白されたの初めてで、……嬉しかった。まだ鹿野木さんのことあまり知らないけど、良かったら付き合ってください。」
……。
…………っ!?!?!?!?
ここここここれは!?!?
待て、待て待て待て待て!!
推しの告白ボイス!?
告白顔が見れない己の脆弱さが憎い!!
じゃなくて、 告 白 ! !
「ぅぁ、……ぅ、うぅ、」
ヤバい、死にかけたゾンビみたいな声しか出ない。鹿野木さんって名前呼ばれてるし供給過多で息が上手くできないんだが。
どうやら私は今朝、混乱しまくった挙げ句に告白なんぞしたらしい。……覚えて無い。それより推しの幸せを願うなら早く断らねば。推しは変態と関わっちゃ駄目だよ!
「あー、……もしかして、俺以外の奴と間違えたとか?今朝かなりテンパって――」
「椎名さん以上に好きな人などいませんっっ!!!!」
は、反射で口に出てしまった。いや、だって、推しに誤認されたら推し方が足らなかったと思うじゃん?推しに認知されたく無いけど、それとこれとは別じゃん?推しは推さなきゃ推しじゃ無いじゃん?じゃんじゃん?
はい。意識を飛ばさない為に脳内で言い訳をしてるだけです。断るって決めたのに秒で反故にする奴おる?だって、間違えたのか確認する声が明らかに沈んでたんだよ!推しを幸せにしたいのに落ち込ませるとか!
あぁ、顔を含めた全身真っ赤な気がするし、呼吸は荒いし、涙まで出てきた。……っはぁ。
「ありがと……。じゃあ、その、よろしく。」
俯いたままの私に、椎名さんは少しぶっきらぼうな優しい声音で言った。
その後に椎名さんは、床に座ったままの私に手を差し伸べたり、一緒に下校したりするのだけど、私は終始ふわふわと覚束なかった。……失神しなかっただけでも褒めて欲しい。
読んでくださり、ありがとうございました!
次は雪慈視点を書きたいなぁ、という感じです。