2.夢じゃ無いなら!?
2話です。3話は明日22時に上がる予定です。
夢で意識が途絶えたら起きるはずなのに、起きたら保健室のベッドの上だった。いや、起きたのがちゃんと現実の保健室だと理解はしてはいるが、……何故?
夢の始まりが定かではなく頭に疑問符を並べていると、ふと、枕元に紙切れが置いてあるのが見えた。何とは無しに見てみれば、伝言が書いてある。
『朝、目の前で倒れたけど大丈夫ですか?体調が大丈夫そうなら、放課後に時間ください。 2-C 椎名雪慈』
ひょっっ!?えっっっ!?!?!?
椎名さんの直筆サイン!!
違うっ!!!
夢だけど夢じゃ無かった!?
夢じゃ無かったから現実ぅ!!!!
マジか……。え、マジなのか……。推しと面と向かっての初会話が握手強要とか許されないよ。しかも、その後なんか言った気がするけど覚えて無いし。土下座案件でしょ。完全に不審者。気持ち悪い。ああぁ……。
思わずベッドの上でジタバタと悶えてしまう。その音を聞いて保険医の先生が顔を出す。
「あら、起きた?体調は大丈夫そう?」
「はい、もう大丈夫です……」
羞恥と罪悪感からつい沈んだ声になってしまう。体調は平気でも、精神が瀕死です先生……。
「2-Cの椎名君が運んでくれたんだけど、体調悪いときは倒れる前に無理せず保健室に来るようにね。倒れたときに怪我したら危ないでしょう」
「気をつけます」
おぅふ。そうですよね、二次災害とか危ないですよね。普通に目の前で失神だけでもビビるのに、怪我までしたらトラウマものだよ。
てか、やっぱり椎名さんが保健室まで運んでくれたのか。握手させましたもんね、多分現実で……。初対面の不審者にも優しい対応。わざわざメモまでくれる気遣い。椎名さんが良い人過ぎて申し訳ない。
そして私は、一番迷惑かけたくない人に迷惑かけまくってる馬鹿者というね……。つい、目が遠くなってしまうのは、仕方がないことだよね、ははは……。
「大丈夫なら教室戻りなさい。まだ始業式終わったばかりだから」
「はい。ありがとうございました」
教室へ行く道すがら、椎名さんに早く謝罪したい気持ちでいっぱいだった。でも、わざわざ放課後と時間指定されているなら、勝手に皆の前で話しかけない方が良いのかもしれないよね。
そもそも、認識されてなかったから通り過ぎ様に顔を眺められたが、至近距離の御尊顔は刺激が強過ぎる。
椎名さんの身長は、155の私と比べて10センチ位しか変わらないから165ちょいだと思う。だから余計に顔が近くて破壊力が凄まじかったのだろう。うん、今朝の二の舞にならないように下を向いて過ごそう。
保険医の先生が言った通り、まだ始業式が終わったばかりで担任も教室に居ないみたいだ。ガヤガヤしている教室に入ると、実里ちゃんが手を振ってくれる。席は名簿順で、今年も実里ちゃんとは前後になれて嬉しい。
「せっかく今年も同じクラスになれたと思ったのに、朝から保健室とか何してんの…。大丈夫なの?」
「あはは……、おはよ。体調は、まぁ大丈夫だよ。ちょーっとテンション上がり過ぎちゃたかなーなんて?」
「あ、おはよ。興奮したから保健室って逆に心配だわ。……だってアレでしょ?そんなんで今年1年ヤバくない?」
「……。」
今朝の話をざっくり説明すると、実里ちゃんは額を押さえてわざとらしく溜め息を吐いていた。わかるよ、酷い有り様だよね私。
実里ちゃんは椎名さんが私の推しだと知っている。中学時代の情報も貰ったし、我慢しきれない萌え語りにも付き合わせてしまっている。告白しないのかと聞かれたこともあったけど、推しに好かれたい訳ではなく、ただ幸せになって欲しいのだと滔々と語ると、呆れ顔で好きにしろと言われた。実里ちゃんの優しさと雑さの塩梅は最高だと思う。
教室に入ってすぐ、椎名さんの席は確認していた。私の席は廊下側の後ろから2番目、椎名さんは3列目の一番前。椎名さんのことは気になったけど、椎名さんは机に伏せていたし、担任の先生がまだ来ないからと言って席を立つのもどうかと思い行かなかった。メモに放課後と書いてあったのだから、やはり放課後まで待つべきなのだろう。
「はーい、遅くなったけど、始めます。まずは―――」
入って来た先生に従って自己紹介やら何やら。後は、クラス委員長から、各委員まで淡々と決める。椎名さんは美化委員、実里ちゃんは実行委員、私は図書委員。乙女漫画的な偶然同じ委員会になっちゃたー!?みたいなことはない。というか同じ委員会になんかなったら、また倒れるんじゃ無かろうか。掃除当番の割り振りなど、細々とした連絡も終わり、大掃除をしたら今日は午前放課。
放課後まで、すぐだ。
読んでくださり、ありがとうございました!
次もちょっと短めです。