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血染めの楽園  作者: 製作する黒猫
楽園島
3/50

3 偽りの楽園



 少年たちの姿が見えなくなり、私はベンチに腰を下ろす。


 そこへ、タイミングよく彼が帰ってきた。手には2つの紙コップ。

「お待たせしました、どうぞ。」

「ありがとう。」

 彼から紅茶入りのコップを受け取る。冷たくて気持ちいい。


「どうやら見つかったようですね。」

「うん。ついさっきお父さんの方が来て・・・」

 私は、感じた違和感を思い出し、黙り込んだ。


「どうかしましたか?」

「なんか、変な感じだったと思って。噛み合っていないって、言えばいいのかな。私は、あの子が両親と公園に来てはぐれたと思っていたのだけど、お母さんの方は今家にいて、お父さんの方は仕事を早く切り上げて迎えに来たと言っていたの。おかしいと思わない?」

「・・・」

 彼は黙り込んだ後、優しく微笑んだ。


「そうですね。もしかしたら、彼は母親と喧嘩をして家を飛び出したのかもしれませんよ。最初は、迷子という言葉を否定していましたし。」

「つまり、あの子は嘘をついていたの?」

「可能性の話ですが。ただ、悪意はないのでしょう。きっと、一人で心細くなったので、一緒にいてくれる人が欲しかったのではないですか?」

「そうかな?」


「子供の言うことです。難しく考えることはありませんよ。では、行きましょうか。」

「どこに?」

「塔です。この公園のシンボルで、その塔から見える景色をお見せしたいのです。特に今の時間帯は、夕日と夕日の色になった海が綺麗なんですよ。」

「夕日。」

 そう言われてみれば、もう日が沈む時間帯になっていることに気づいた。この島に来た時間帯が遅かったので、時間が過ぎるのが早い。




 真っ白に塗られた塔は、上部分が展望台になっているようだが、それ以外は窓ひとつない。たった一つある扉は、なぜかカードキーで施錠されていて、彼はそれにシルバーのカードを使う。ピピっと電子音が聞こえた後、扉がゆっくりと開いた。


「さぁ、どうぞ。中は薄暗いので気を付けてください。」

「うん。ありがとう。」

 中に入ると、小さなろうそくの明かりに照らされて、らせん階段が上まで続いているのが見えた。らせん階段を何本ものろうそくが照らす。


 ばたんと、大きな音が響き、外からの光が遮断され、一層暗くなる。扉が閉まったようだ。

「こちらです。」

 彼はらせん階段を示して、上がり始める。それに私は続いた。


 コツコツと、彼の足音が規則正しく響いている。

「いかがですか、楽園島は?といっても、まだ公園しか案内できていませんけどね。」

「とても楽しかった!見るものすべてが美しくて、きらきら輝いていて。良いところだね。ここなら、幸せに暮らせそう。」

 本心を口にした私だったが、最後の言葉に疑問を抱いた。「ここなら幸せに暮らせそう。」それは、どういうことだろうか?

「そうですか。」


 彼の足音がとまり、私は顔をあげた。いつの間にか階段を上がりきっていた彼は、扉の前に立ち、こちらに青い瞳を向けている。

「この景色を、あなたに見せたかった。」

 そう言って、彼は扉を開けた。


 眩しくて、目を細めた私だが、目が慣れたときには息をのんだ。

「きれい。」

 夕日に照らされた、島の景色。少年の両親を探した公園、彼と会った港、海。他にも、山や独創的な建物の数々は、冒険心をくすぐった。


「楽しそうなところがいっぱいあるね。」

「・・・全部、周りましょう。今日は無理ですが、これからひとつずつ周っていきましょう。あなたが行きたいところは、どこへだって連れて行きますよ。」

「それは、楽しみだね。」

 言葉通り全部付き合ってくれるわけではないと思うが、私は嬉しく感じた。だって、自分のために時間を割いてくれると言ってくれたのだ。


「本当ですよ。それであなたが楽しめるのなら、そうします。」

「?」


 彼は、島を見渡しながら、続ける。

「ここは、有限の楽園。偽りの楽園とも言えます。ですから、あなたが望むことすべては叶いません。」

「そんなの、当たり前だと思うけど?」

「そうですね。ですが、人間とは欲深い生き物なのです。」

 彼は、港の方を指さした。その先には、数隻の船があり、その中でも一際は大きく豪華な船がある。


「本当の楽園へは、あれに乗っていきます。困難な道のりになりますが、その先に楽園があり、そこが終着点です。」

「本当の楽園?それは、どんな場所なの?」

「それは、わかりません。だって、行ったことありませんから。そして、誰も帰ってくることができませんから。」

「帰ってこれない?」

「はい。ですから。」

 彼は、こちらに真剣なまなざしを向けた。その視線を受けた私は、ごくりとつばを飲み込む。


「約束してください。あの船には乗らないと。その代わり、どんな願いでもできることなら叶えますから。だから、絶対に乗らないでください。お願いです。」

「・・・なんで?」

 別に楽園に行きたいわけではないが、そこまで言われると気になってしまう。なぜ、あの船に乗ってはいけないのか。


「・・・楽園は、誰も拒みません。ですから、いつでも行ける場所なのです。でも、楽園は、誰も逃がしません。一度行ったら帰れない場所。どうか、わかっていただけませんか?」

 答えになっていないと感じたが、私はとりあえず頷いた。彼がとっても困った顔をして、今にも泣きそうだったから。

別に彼を困らせたり悲しませたりしたいわけではない。




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