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血染めの楽園  作者: 製作する黒猫
楽園島
20/50

20 前夜



「冷えてきましたね。」

 夕日が沈んでも、私たちは屋根裏部屋でずっと景色を見ていたが、彼の言うように少し寒くなってきた。


 私は彼の後に続いて、階段を下りてリビングまで戻る。すると、彼が床に手をついた。


「何してるの?」

「実は、ここに・・・」

 がこんと、小さな音をたてながら、彼は床に見えた地下への扉を開けた。


「地下?」

「はい。実は、シアタールームがあるのですよ。夜中だと、楽園島は静かすぎて、テレビの音が外に漏れたりするのですが、ここなら近所の耳を気にせず見れます。」

 防音対策がされているということだろう。彼はさっさと階段を下りて行ったので、私もそれに続く。


 階段をおりきると、一畳ほどの空間があって、重そうな扉が一つ付けられている。それを彼は開けて、中へと私を促した。


 扉の先には、テレビに机とソファ、ベッドもある。よく見れば洗面もあって、ここで生活ができそうだ。


「そこのソファに座って待っていてください。あ、リモコンはテーブルの上にあります。」

 重そうな扉が少しだけ音をたてて閉まる。それに少し恐怖を感じたが、私はソファに座って、テレビの電源を入れる。


 なんだか落ち着かなくて、彼が帰ってくるまで、私はテレビの内容も頭に入らなかった。



 彼は夕ご飯を持って、部屋に入ってきた。

 ステーキにポテトサラダ。デザートはフルーツヨーグルト。どれもおいしそうだ。


「豪華だね。」

 ステーキを目にして言う私を、彼は嬉しそうに笑った。


「これで豪華と言っていただけてうれしいですね。実は、時間が無くて思ったよりも用意ができなかったのですが。」

「これで十分だよ!ありがとう、もう食べてもいい?」

「ふふっ、はい、どうぞ召し上がれ。」

「いただきます!」

 メインディッシュから行くスタイルの私を、彼はまた笑った。そんなにおかしいことだろうか?でも、彼が嬉しそうなので、いいか。


「足りなければ、そこの冷蔵庫にケーキがあります。今日食べれなければ、明日食べてください。他にも、プリンやゼリーもありますよ。」

 彼に言われて初めて冷蔵庫の存在に気づく。冷凍庫もついたそこそこ大きな冷蔵庫だ。隣には電子レンジもあり、本当にここで生活できそうだと思った。


「てか、暮らしてるの?」

「ここで、ですか?いいえ、普段は別の家にいます。あぁ、でもここ2週間はここからあなたの家に通っていました。」

「ふーん。そういえば、あなたの家ってどこにあるの?」

 彼が私の家に来ることは日常だが、私が彼の家に行ったことはなかった。


「僕の家なんて、何もありませんよ。ですが、気になるのでしたら、今度お招きしますよ。」

「招いて、行きたいから!」

「わかりました。では、まずはここの説明をしましょうか。」

 なぜここの説明をするのかわからないが、とりあえず食べながら聞いた。


「ここは、1か月程度は外に出なくても生活できるようにしています。ただ、コンロなど火を使うものを置くのは不安でしたので、食事は冷凍食品やカップ麺などになりますね。」

「いざって時の避難場所なんだね?」

「・・・はい。」

 彼の説明をいざというときのために聞いた私は、この部屋で生活できる自信ができた。ま、そんな事態は起こらないに限るけどね。


「それでは、今日は映画でも見ましょうか。せっかくのシアタールームですし。」

「いいね。私は、ホラーがいいな。」

「それは・・・今日はやめておきましょうか。かわりに、笑いしかない怪談というのはどうですか?」

「それはそれで面白そう。って、ホラーじゃないの、それ。怪談ってホラーじゃないの?」

「怖さなし、笑いありと書いてあります。」

 彼はディスクを入れながら答える。もうこれに決まったようだ。


「今日は、楽しみましょう。」

「いつも楽しんでいるよ?」

「それは、良かった。」

 なんだか彼がしみじみ言うものだから、少し不安に感じた。なぜかわからないけど。


「・・・今、伝えておきましょうか。」

 そう言うと、彼はテレビを一時停止の状態にして、私を見た。


「改まってどうしたの?」

「明日から、一週間・・・会えなくなります。」

「え?」

 それは、突然のことで、私の思考をフリーズさせた。


「申し訳ございません。」

「なんで、そんな急に・・・」

「言い出せなかったのです。ですから、今日は特に楽しませたいと思いまして・・・笑って欲しいと。」

 それで、笑いありの怪談を選んだのか。彼が選ぶものとしては珍しいと思った。


「戻ってきたら、また一緒にいてくれますか?」

 こぶしを握り締めて言いう彼の瞳は、不安そうで、今にも泣いてしまうのではないかと思うほどだった。


「こちらこそ、一緒にいて欲しいよ。もう、あなたがいない生活なんて考えられない。」

 言ってから少し恥ずかしく思ったが、私は笑う。彼も嬉しそうに笑った。


 こんな彼が、まさか私を監禁するなんて、この時の私は思わなかった。




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