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血染めの楽園  作者: 製作する黒猫
楽園島
11/50

11 勉強


 白い花の前で、小学生の頃の思い出を振り返っていた私に、声が掛けられた。


「え、姉ちゃん?」

 声の方を見れば、この公園で迷子になっていた少年が立っていて、こちらも驚く。少年は、ジャージ姿で、肩にタオルをかけていた。


「やっぱり、姉ちゃんだ!」

 少年は私に近づいて笑った。


「おはよう、ジョギング?」

「うん。勉強ばっかじゃ、ただのがり勉になるからな。運動もして、文武両道になるんだ。俺、運動神経もいい方だから、怠けなければなれると思うけど。」

 凄い自信家だな。でも、向上心があることはいいことだ。


「姉ちゃん、時間はある?少しそこで話さないか?」

 少年はベンチを指した。白いベンチで、貴族の庭園とかにありそうな凝った作りをしている。さすが楽園だ。


「いいよ。」

「じゃ、先に行ってて。飲み物買ってくるから。紅茶だっけ?」

「うん。でも・・・」

 買ってもらうなんて悪いと私が言う前に、少年は駆け出して行ってしまった。



 少年が飲み物を買って戻ってきたので、私たちは2人で並んでベンチに座る。ふと思ったけど、お金の取引がない楽園でも「買う」という言葉を使うようだ。


「そういえば、楽園島でも学校があるの?」

「あぁ、うん、あるよ。義務教育ではないけど。別に将来に影響があるわけではないから、学校に行くやつは少ないよ。遊校っていうのがあるんだけど、そこに行くやつの方が多いかな。」

「ゆうこう?」

「学校の学を、遊ぶっていう字にして書くんだ。文字通り勉強じゃなくて、遊びがメインなんだ。一応そこで、協調性とかコミュニケーション能力を学ぶ感じなんだろうな。」

「へー。君は学校に行っているの?」

「あぁ。次の質問わかるぜ。なんで学校にしたの?とか、勉強するの?とかだろ?」

 正解だ。だって、勉強が好きな人間なんて、私の周りにはいなかった。けど、生きるために必要だから、仕方なくやるという感じだ。やらなくてもいいはずの楽園で、なぜ勉強をするのか気になった。


「知っていることが楽しいから。それが、俺が勉強をやる理由だよ。誰も知らないことを知っていて、理解できていることが嬉しいと思うんだ。ま、同い年が知らないってだけで、大人は知っていることばっかだけどな。」

「でも、君が大人になったら、君の同い年も大人だね。そしたら、君は本当に誰も知らないことを、知ることになるかもね。」

「ははっ。何言ってるの?僕がしてるのはただの勉強。だから、誰かが見つけたことを学ぶだけだ。誰も知らないことを知ることなんてできないよ。」

「それもそうだね。だったら、発明家とか冒険家になれば、楽しいかもね。」

「・・・そうかも。うん、それいいな。誰も知らないことを知っている。本当にそんなことになったら、今の何倍も楽しそうだ。」

 目を輝かせる少年に、私はにっこり笑った。







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