11 勉強
白い花の前で、小学生の頃の思い出を振り返っていた私に、声が掛けられた。
「え、姉ちゃん?」
声の方を見れば、この公園で迷子になっていた少年が立っていて、こちらも驚く。少年は、ジャージ姿で、肩にタオルをかけていた。
「やっぱり、姉ちゃんだ!」
少年は私に近づいて笑った。
「おはよう、ジョギング?」
「うん。勉強ばっかじゃ、ただのがり勉になるからな。運動もして、文武両道になるんだ。俺、運動神経もいい方だから、怠けなければなれると思うけど。」
凄い自信家だな。でも、向上心があることはいいことだ。
「姉ちゃん、時間はある?少しそこで話さないか?」
少年はベンチを指した。白いベンチで、貴族の庭園とかにありそうな凝った作りをしている。さすが楽園だ。
「いいよ。」
「じゃ、先に行ってて。飲み物買ってくるから。紅茶だっけ?」
「うん。でも・・・」
買ってもらうなんて悪いと私が言う前に、少年は駆け出して行ってしまった。
少年が飲み物を買って戻ってきたので、私たちは2人で並んでベンチに座る。ふと思ったけど、お金の取引がない楽園でも「買う」という言葉を使うようだ。
「そういえば、楽園島でも学校があるの?」
「あぁ、うん、あるよ。義務教育ではないけど。別に将来に影響があるわけではないから、学校に行くやつは少ないよ。遊校っていうのがあるんだけど、そこに行くやつの方が多いかな。」
「ゆうこう?」
「学校の学を、遊ぶっていう字にして書くんだ。文字通り勉強じゃなくて、遊びがメインなんだ。一応そこで、協調性とかコミュニケーション能力を学ぶ感じなんだろうな。」
「へー。君は学校に行っているの?」
「あぁ。次の質問わかるぜ。なんで学校にしたの?とか、勉強するの?とかだろ?」
正解だ。だって、勉強が好きな人間なんて、私の周りにはいなかった。けど、生きるために必要だから、仕方なくやるという感じだ。やらなくてもいいはずの楽園で、なぜ勉強をするのか気になった。
「知っていることが楽しいから。それが、俺が勉強をやる理由だよ。誰も知らないことを知っていて、理解できていることが嬉しいと思うんだ。ま、同い年が知らないってだけで、大人は知っていることばっかだけどな。」
「でも、君が大人になったら、君の同い年も大人だね。そしたら、君は本当に誰も知らないことを、知ることになるかもね。」
「ははっ。何言ってるの?僕がしてるのはただの勉強。だから、誰かが見つけたことを学ぶだけだ。誰も知らないことを知ることなんてできないよ。」
「それもそうだね。だったら、発明家とか冒険家になれば、楽しいかもね。」
「・・・そうかも。うん、それいいな。誰も知らないことを知っている。本当にそんなことになったら、今の何倍も楽しそうだ。」
目を輝かせる少年に、私はにっこり笑った。




