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*8 New Year


 大晦日、今日は一年を締めくくる大事な日だ。いつものメンバーはそれぞれに食料を持ち寄って倉庫へと集まっていた。そこは以前に、アサギの誕生日を祝った事がある例の秘密基地である。

 リタとクリスティーナはパーティの計画に余念がないようで、せっせと準備を進めてくれた。ルーインとコムギ、あとはダイナモがその手伝いをしたようだ。


 倉庫の二階にはいつの間にか円形状のカーペットが敷かれ、長いソファが出現していた。その前には大型のテレビまで用意され、そこは快適なリビング空間と化している。


 食事を終えた面々はそれぞれの場所でくつろいでいた。アサギは弟のマツバとソファに並んで座り、ハルとタイランにオリバーを加えた仲間たちは互いに寄りかりながら酒を飲んでいた。

 ハルはすでに出来上がっているし、オリバーもいつもと違ってハイテンション気味でビール瓶を手放さない。


「たいちょーう。大晦日なんですからー、もっと飲みましょうよ!」


 ハルがそう言いながら背後から絡んでくる。その上、アサギの左側にボーっとした様子のウムギが座り込んできた。彼女は男の肩にもたれかかってさっそく居眠りを始める。


「(せ、狭めぇ)とりあえず、ウムギは離れろ」


「……睡眠」

 ウムギはそう呟き、眠そうな目をこすりながら離れたが、次の瞬間には膝の上に頭を乗せてきた。


「ここが、安住の地……」


「いや、安全じゃねぇよ。特に俺の命はもうやべぇよ!」


 その証拠に、真顔のダイナモが間近まで迫っていた。彼女を無理やり払い除けるのも恐ろしいので、アサギは硬直するしかない。

 ウムギが眠そうに口をムニャムニャとしていると、コムギがタタタッと駆け寄ってきて言う。


「かあさまいいなぁ、ぼくもアサギのおひざでゴロンってしたいなぁ」


 緋色のワンピースを纏った可愛らしい少年が無邪気な笑みを浮かべる姿に、アサギは思わず破顔した。


「アサギ、貴様は死にたいようだ」


「落ち着けよ、ダイナモ。正直に言おう。俺の膝上に転がるのはコムギだけでいいから、ウムギはお前に返すし」


「貴様、ウムギを侮辱したな。よし、殺す」


 酒が入って気の立っているダイナモが短剣を装備したところで、ルーインがやってきた。


「おい、ダイナモ。やめておけ」


 少女はそう言って殺気立つ鬼を宥めた。珍しく彼女が助けの手を差し伸べてくれたので、アサギは感動する。


「ルーイン、ありが……」


「ダイナモよ。神聖な『としこしぱーてぃー』を汚い血で汚しては申し訳がない」


 それを聞いて、アサギは「そこかっ」と声を上げた。片づけをしていた女子メンバーがやってくると、リタがご機嫌な様子で声を上げる。


「ねぇ、兄さん。年越しまであとどのぐらい?」


 アサギは腕時計を確認する。


「そうだな、あと十分ってところか」


「早いなぁ、もう一年も終わりなんだね」


「そうだな」


 思えばルーと出会ってから色々なことがあった。目まぐるしく変わっていく環境に当初は戸惑いもしたが、それでも今はこんな日々にアサギは満足している。


「アサギ、クリスティーナにも酒をおくれであります」


 彼女がビール瓶に手を伸ばすと、すかさずハルが割り込んできた。


「あーっ、クリスティーナさん。こちらのお酒をどうぞ。故郷のもので、お勧めですよ」


「こら、未成年の飲酒は駄目だろ」


「おっと、アサギ。クリスティーナの年齢は永遠に十八・五歳でありますよ」


「だから、酒は二十一歳からだって」


 彼女は口を尖らせて、「くっ、己が定めに溺れるとは……」などと呟いている。アサギは「相変わらず意味が分からない奴だな」と思いながら首を傾げた。


 そんな事をしている間にカウントダウンが始まっていた。全員がテレビに注目し始める。


 ――ついに年が明けた。遠くの方で花火のような音が鳴っている中で、リタがマツバ唇を合わせている。

 それを見ていたハルがへべれけ状態でアサギに掴みかかって来た。


「クソッ、ちょっやめろ、それはやめろ」


「うへへへ、ははは」


 そのテンションはすでに最高潮のようであるが、その乗りでキスされてはたまったもんじゃないと、アサギはすぐに彼を引き剥がす。


「隊長、私も」


 珍しく酔っ払っているタイランまでじりじりと迫ってくる。おまけにオリバーもフラフラとしながら同様の動きを見せた。


「いや、待てなんで、男ばっかりなんだよ! お、おい。ルーイン、手を貸せよ」


 もみくちゃになりながらも、隣にいたルーインに助けを求める。しかし、彼女は「ほほう、アサギは人気者でいいなー」と棒読みで呟きながらテレビのチャンネルを操作している。


「わーい、ぼくもなかまにいれてっ」


 そこでコムギまでもが、目を輝かせながら飛びついてきた。アサギは少年を受け止めたが、体勢を崩して尻餅をつく。


「とうさまも!」

 そんな純真無垢な声が上がると、ダイナモが表情を変えないまま立ち上がる。アサギは暴れながら叫んだ。


「ぐぁ、もうこれ以上は来るな、助けてくれぇ!」


 そんな声は倉庫内に木霊して、やがて消えていった。この後の出来事はアサギにとって、早くも「今年消去したい記憶ナンバーワン」となってしまったのである。

※海外では、ニューイヤーキスという慣習があったらしいですね。彼らが良い一年を過ごせますように!



最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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