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仲間たちの決意

 アサギが三番隊サードの執務室へ入ると、ルーインが椅子に腰掛けていた。男が頷くと、彼女は立ち上がる。


「行くのか、アサギ」


「ああ」

 そう肯定すると、着替えをして戦闘用ベストを羽織った。最後にいつもの武器を装備する。


「施設へは私が導こう」

 ルーインは曲剣(サーベル)を腰元へさしてそう言った。アサギの脳裏に一抹の不安が過ぎる。


「お前はそれでいいのか」


「何の話だ?」


「このまま俺と行動を共にすれば、仲間と争わなければならない可能性もあるんだぞ」


 その言葉に対し、彼女は意気込んだ様子でフンと鼻息を荒くさせる。


「私は旧友であるアイズを、敵の手から解放するためにお前を利用するだけだ」


 そのぶっきらぼうな物言いにアサギは少しだけ表情を緩めた。


「そうか、分かった」



 ルーインと共に裏口へ向かう。外へ出ると前方に武装した集団がいるのが目に留まった。

 ハル、タイラン、クリスティーナ、オリバーが並んでいる。


 クリスティーナが仁王立ちをしながら大声を上げた。


「全く、水くさいでありますよ!」


 その声にオリバーが続く。


DSダースにも、協力させてくれまいか」


 今度はハルが「ルーインさんから事情は伺いました」と言って空へ短機関銃(サブマシンガン)を構える。それを素早く下ろすと、強い眼差しを向けてきた。


「隊長、僕らもお供します!」



 隣にいたタイランが「私も」と強く頷く。


 仲間たちの思いに、アサギは昂揚した。ジンと目頭が熱くなって、誤魔化そうと眉を寄せる。


 しかし、そこでルーインが腕を振り上げて「よし、では皆の者。私に続け」と宣う。これでは台無しだ。


「おい、なんでお前が仕切ってるんだよ」


 少女は「いいだろ、別に」と唇を尖らせている。アサギは彼女の事はひとまず置いておく事にした。


「みんな。気持ちは嬉しいが、これは任務ではない。それにかなりの危険をはらんでいる。だから、ルーインと二人で行くことにしたんだ。俺はもう部下を失いたくはない。分かってくれ」


 そう言うと、難しい顔をしたハルが一歩前に出てきた。


「隊長。僕はこの間、偉そうな事を言いましたよね。でも、見返す前にジルさんは殉職してしました。悔しいし、殺した奴らが憎いです。


 だからもう我慢するのはやめます。僕を連れて行かないなら、隊長に勝手に後へ続きますから、どうぞお気になさらず」


「ハル、それでもな」


 今度はタイランが前へ出てきた。


「出来ない、我慢。隊長、共に、私を連れ立っていてください!」


「タイラン、それを言うなら『連れて行ってください』だ。……うん、お前たちの気持ちは分かったよ」


 そう頷くとオリバーがやってきて、肩に大きな手を乗せられた。


「アサギ殿、自分が大した力になるかは分からないが、好きに使ってくれ」


「ありがとう、オリバーがいれば本当に百人力だ」


 ルーインが「アサギ、そろそろ行くぞ」と歩き出す。

 アサギは意気揚々と先頭を進む彼女の後に続く仲間たちの背を眺めながら、大丈夫だと確信した。


「(何が待ち受けているかは予測が付かない。それでもお前たちがいれば乗り越えられるよ)」



 ******


 駐屯基地からザジテリアズ地区までは大した距離はない。しかし、ルーインは目的地の反対側へ回り込むような形で、漁港へと向かった。


「ルーイン、どうしてわざわざトラス地区まで来たんだ?」


「ああ、漁港倉庫には地下施設への出入り口の一つが設置されている。基地から一番近い場所で目立たない所なら、ここがいいだろう」


 確かに彼女が言った通り、コンテナが積み上げられた倉庫群に人影はない。

 赤褐色のトタン屋根が特徴の倉庫前でルーインは歩みを止めた。その鉄戸は倉庫にしては厳重なセキュリティで守られ、ロックがかかっているようだ。


「ロックされているな、どうやって入る」


「ああ、私が昔使っていた識別番号(あいでぃ)が使えるといいんだが」


 そう言ってルーインは扉に設置されたセキュリティーパネルを操作する。彼女が指を一本立てて丁寧に複雑な文字列を入力すると、そのロックは無事に解除された。


「よし、開いたぞ」


「じゃあ、ここで再度、作戦の確認をしておくぞ。この間と同じように二人班(ツーマンセル)で行動する。目的はアイズの洗脳を解いて、他のスローターたちを確保することだ。手駒がいなくなれば敵もこれ以上の手出しはできない筈だ」


「了解です、隊長」


「クリスティーナの魔眼で、敵を華麗に追いつめてやるであります」


 タイランとオリバーも強く頷いたところで、アサギはその扉を潜った。


 階段を下ると、大型のエレベーターが見えてきた。ルーインがパスワードを入力するとそれは動き出す。


「システムが稼働しているところをみると、まだ研究は続行していそうだ」


 彼女がそう言うと、武装集団はエレベーターへと乗り込んだ。

 それは早いスピードで下層に到着する。両開きの戸が開くと、ハルとタイランが銃器を構えながら外の様子を窺う。


 アサギが見る限りだとT字型の廊下となっている。そこは静けさに支配され、敵の姿は見えない。

 全員が慎重に鉄板の床へ降り立つと、ルーインが先陣を切った。


「ふむ、微かだがアイズの気配がする。私の予想が正しければ、司令官の自室だった研究室にいるはずだ。このまま私に続け」


 ルーインが足を踏み出した瞬間、突き当たりの廊下左右から一人ずつ人影が現れた。それは瞳の角膜と強角が逆さとなった男女だ。


 彼らはそれぞれに鋭利な武器を携えている。ルーインが「襲撃ッ」と叫ぶと、アサギ顔を掠めるように背後から矢弾(ダート)が放たれてきた。


 それは対象者の二人へと次々に突き刺さる。彼らが床へ倒れると、クリスティーナの満足げな声が響く。


「ふふん、ちょろいちょろいっ!」


 しかし、それと同時に先ほど同じ様な顔をした虐殺者(スローター)がわらわらと湧いて出てきた。


 クリスティーナの「これは、さすがに的が多すぎるであります」という戸惑った声がする。ルーインがすかさず前へ出て、曲剣(サーベル)を構えた。


「いいかお前たち、よく聞け。右方向へ曲がるぞッ」


 その言葉にアサギは「嘘だろ」と思ったが、少女は有無をいわさず駆けだした。

 男はヤケクソになって叫ぶ。


「クソッ、仕方ない。――突破するぞ!」


 少女が的確に同胞を切り裂く。アサギも散弾銃(ショットガン)を構える。ハンドグリップを前後させながら弾を再装填し、容赦なく発砲を繰り返す。

 ルーインが「少しでもいいから進め!」と要求してくる。


 ただ、幸いなことに敵の方は全くといっていいほど統率がとれていなかった。彼らはバラバラに行動する上に、治癒速度もそれほど早くない。

 これながば倒れた対象者を避けながら進むことが可能だろう。


 それでも回復を終えた者から順に背後からも迫ってくる。そんな絶望感溢れる状況の中でハルが銃弾を連射しながら叫ぶ。


「隊長、ここは僕らに任せて、先に行ってください!」


 アサギの後方で光学照準器(スコープ)を覗き込んでいたクリスティーナがそれに続く。


「敵を沈黙させたら、我々も後を追うであります!」


 素早く廊下を移動していたルーインはすでに敵を退け、前方の扉を開いている。


「アサギ、早く来い!!」


「よし分かった、ここは任せるぞ」


 アサギは構えを解いて駆けだした。一人の虐殺者スローターが襲いかかってくるが、タイランの放った銃弾を額に受けて倒れた。

 彼は鬼気として迫ってくる対象者を正確に打ち抜いていく。

 アサギが扉を潜り終え、仲間たちを振り返るとると扉が自動的に閉じてしまった。設置されていた緑のランプが赤色へと変化する。


「――なッ! まさか、施錠(ロック)されたのか!?」


「そのようだ。アサギ、どうやら我々が突入したことは、すでに知られているようだな」


「皆が閉じこめられたぞ。どうする」


「任せろ、当てがある」


 アサギは一度だけ強く頷いた。

 先を急ぐルーインの背に続く。アサギは銃器を構えつつ慎重に廊下を進んだが、警戒していたわりには対象者は一人も現れななかった。

 迷路のように複雑な道を進み、何度か角を曲がった所である部屋の前へと辿り着いたのである。

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