- 痕跡 -
廃工場が立ち並ぶ郊外に激しい銃撃音が鳴り響いていた。
朽ちた建物の屋上に二人の隊員が身を潜めている。一人は神妙な表情で銃器を抱える青年。もう片方は双眼鏡を手にした男だ。
男は観測手と呼ばれ、初実戦となる青年の支援を目的として存在していた。
無線機のアンテナが通信を知らせる。男が電源に触れると現場からの声が聞こえてきた。
『対象者の残りは、少女一名だ』
ジッと鳴る無線、彼らは心の音を一致させた。
現場に緊張が走る。
『……そちらから、――狙えるか?』
青年は、すかさず特殊な狙撃銃を構えた。銃器に装備された光学照準器を覗き込むと、スカートの裾を風に靡かせた少女の姿が確認できる。
無言で顎を引くと、それを見ていた男、観測手は無線の相手へ返答をした。
「対象者を確認。こちらから狙撃可能、どうぞ」
『よし、勘付かれる前に済ませろ。DS、外すなよ』
「了解」
現場からの指示を聞き終えた男から狙撃の許可が下された。
「焦るなよ。慎重に狙えばいいからな」
青年は緊張しながらも丁寧に狙撃銃のトリガーに指をかけた。そうして発射された矢弾は、直線的な軌道を描きながら対象者の肩へと見事に命中する。
地に伏した少女へと、武装した隊員たちが駆け寄っていく様子が窺える。
「よくやったな。俺たちはこのまま待機するぞ」
男に肩を軽く小突かれた。彼は後方で上司への定時連絡を始めたので、青年は一息ついてから改めて現場を目視する。
大地には真新しい血液が散布していた。慌てて光学照準器を覗き込む。
「……そんな、嘘だ」
その瞳に映ったのは、体を裂かれて絶命する隊員たちの無惨な姿だった。
――クソッ、バケモノがッ。
その怒号と共に、背後で銃が乱射された。
驚いて振り返ると、そこには一人の少女が立っている。
その手には現場の隊員から奪い取ったと思われる細身の剣が握られていた。
鋭い先端から血が滴り落ちた。それを辿ると、コンクリート上で観測手の男が芋虫のように体をうねらせている。
苦悶に喘ぐ男は、懸命に口を開く。
「逃げろ、じゅ、れ――」
そこまで叫んだ男の頭が血飛沫をまき散らしながら、胴体から切り離された。少女がその後顎部へ刃物を振り下ろしていた。
彼女は先ほどから顔色を少しも変えていない。無表情のままで、今度は青年の方へゆっくりと歩み寄って来たのである。