第一話
当作品を執筆するにあたり、甚大なご協力をいただいた八田 若忠先生http://mypage.syosetu.com/396300/に、心からの感謝を!
え? どのあたりが協力してもらった部分かって?
……やだなぁ、そんなの恥ずかしくて言えないじゃないですかw
俺の住んでいるこの世界では、十五歳になると【天職】というものが与えられる。
有名どころを上げるならば、武器を持って戦う【戦士】や、魔術という奇跡の力を扱う【魔術師】と言ったところか。
与えられた天職はそのまま才能と言っても良い。
神の教えを説く教会は『天職は生きるための指標に過ぎない』と言っているが、その恩恵は非常に大きく、同じことをやったときに天職を持つ者とそれ以外では天と地ほどの差が生まれるのが現実だ。
ゆえに、この世界では天職にそった生き方をするのが常識となっている。
そう、たとえそれが自分の望まなかった代物だったとしてもだ。
***
「あぁ……神様、どうして俺にこんな手芸屋なんて地味で面倒な天職を与えたんだよ。
俺は食っちゃ寝しているだけで金が湯水のようにわいてきて、女の子にモテモテで人前に出ればキャーキャー言われる天職が……あ、やっぱいいや。 今のパスで」
教室の中の温度が数度下がった気がして慌てて俺は言い直す。
「そこ、黙って作業しなさい! 聞いているだけで耳が腐る!!」
俺が理想の人生について神様に熱く語っていると、隣の女子からものすごく冷たい声で文句を言われた。
なんて理不尽な。
そんなんじゃクラスの男子に嫌われるぞ……って、このクラス、男は俺一人だっけ。
【仕立て屋】の天職を持った奴は無害だから、危険人物の隔離施設でもあるこの学園には入らないし、布に魔力をこめて自在に操る【織姫】の天職は女性にしか発現しないからな。
「ライナルト・シュナイダー、今は美術の授業中です!
絵が描けたのならさっさと持ってきなさい!!」
すると、生徒達の絵を監修していた美術教師が腕を組んだまま怒鳴りつけてきた。
「その豊胸ブラの力でCをDと偽った見栄っ張りな胸は……美術のグルンツ先生じゃないですか!」
「何処で教師を見分けているんだ!! あと、私は底上げなんかしてないっ!!」
いやぁ、そんな嘘を付かなくてもみんな知っているし。
おぉっと、寒気が。
命の危険を感じた、俺は仕方なくキャンバスにペンを走らせる作業を再開させた。
目の前には女神をかたちどった石膏像。
現在はこの石膏像をモデルにしてできるだけ特徴を捉えた絵を描くという授業の時間だ。
どうしようもなく面倒ではあるが、このデュッセルドルフ学園被服科において美術は必須科目である。
単位を落とすと進級できなくなるので、いやいやではあるが真面目に授業を受けざるを得ない。
「……はぁはぁ……女神様可愛いよ可愛いよ……スクルーディ様……三姉妹の末っ子で甘やかされ放題の柔肌がツヤツヤで小ぶりな胸がツンと上向きで生意気おっぱいがまた……」
「黙って描け!」
OK、グルンツ先生、話し合おう。
まず、その殺気のこもったパレットナイフを降ろすんだ。
そして鼻血を流しつつ仕上がったキャンバスを完成させると、神経質そうな顔をした女教師の前にさっさと提出する。
その机にはまだ一枚も絵が無く、どうやら俺が一番乗りのようだ。
まぁ、いつものことだけどね。
「ちっ、特に修正するところは無い……というか、何だこの欲望にあふれた生々しいタッチは。
まったく、なんでこんな変態に限って成績がいいのか」
「ちっとか言わないで下さいよ。女教師に舌打ちされるとかどんなご褒美ですか」
正直に話したはずなのに、なぜか教室の気温がさらに下がる。
そしてデュッセルドルフ学園被服科の女子二十二名全員の突き刺さるような視線がなぜか俺に注がれた。
「まあ良い、退室を許可する。 というか、空気が汚れるから出てゆけ」
女教師が心底嫌そうに犬を追い払う様に手を振る。
「いえ、もう少し蒸れた女子学生の香りを楽しみたいので在室します!」
「くたばれ、この変態職!!」
異口同音とともに無数のペンが俺に向かって投げつけられ、俺は教室を追い出された。
まぁ、いつものことだ。
なお、この【織姫】の天職を持つ生徒ばかりを集めたデュッセルドルフ学園被服科のなかにおいて、俺の天職は【手芸屋】。
変態職とは呼ばれているものの、正式にはただの職人でしかない【仕立て屋】の変異職で、世界でたった一人のユニーク天職の所有者である。