幸子のお面
初めて童話(?)を書いてみました。
試しに読んでもらえたら、嬉しいです。
幸子はもうすぐ小学生。
幸子のお父さんとお母さんは、2人とも働いている。
土曜も、日曜も働いている。
だから、幸子の遊び相手にはなってくれない。
「なんで、そんなに働くの?」
幸子は、聞いてみた。
「幸子の為よ。」
「幸子が好きな事ができるように。」
「幸子が行きたい大学に行けるように。」
「幸子がもっと立派なお家に住めるように。」
「その為に、一生懸命働いているの。」
お母さんが教えてくれた。
「そうか。幸子の為なんだ。」
幸子は我慢する事にした。
幸子は我慢出来た。
だって!幸子には『ばあば』がいたから。
『ばあば』は幸子の歌を褒めてくれた。
『ばあば』は幸子の絵を褒めてくれた。
『ばあば』は幸子と遊んでくれた。
『ばあば』はいつでも幸子の味方。
優しい『ばあば』が幸子は大好きだった。
でも、幸子はもっとたくさんの友達と遊びたかった。
「小学校に入れば、友達がいっぱいできるから大丈夫だよ。」
『ばあば』が教えてくれたから、幸子は小学校に入るのがとってもとっても待ち遠しかった。
そして、幸子は小学生になった。
でも、何故か、幸子にはなかなか友達ができなかった。
誰も遊び仲間になってくれなかった。
「なんで、一緒に遊んでくれないの?」
幸子は、席が隣の直樹君に聞いてみた。
「だって幸子は、薄笑いしてばかりじゃん。」
「幸子は、怒らないじゃん。泣かないじゃん。」
「だから、幸子と遊んでもつまらないんだよ。」
おかしいな、幸子は時々怒った筈なのに‥。
時々悲しんだ筈なのに‥。
幸子は『ばあば』に見て貰う事にした。
怒った顔をして聞いてみた。
「どう?いま幸子は怒った顔をしてる?」
『ばあば』は困った顔をした。
悲しい顔をして聞いてみた。
「今度はどう?幸子は悲しい顔をしてる?」
やっぱり、『ばあば』困ってる‥。
『ばあば』は幸子の頭を撫でながら、優しい口調でささやいた。
「幸子はいつも我慢してきたから‥、それをお父さんお母さんに悟られないように頑張ってきたからねぇ。」
やっぱり直樹君の言うとおりだった。
幸子はいつも笑った顔ばかりしていたんた。
「幸子の笑った顔、『ばあば』は大好きだよ。」
『ばあば』は言ってくれたけど、幸子は返事をしなかった。
そんな幸子に、『ばあば』が言った。
「そうだ幸子。明日、縁日がある。一緒に行こう。」
幸子は返事をしなかった。
「幸子は縁日嫌いかい?」
『ばあば』が聞いても、幸子は黙っていた‥。
「幸子は『ばあば』が嫌いかい?」
幸子がようやく口を開いた。
「『ばあば』は‥すき。」
「だったらお願いだ。『ばあば』と縁日に行っておくれ。」
「‥うん。」
返事をした幸子の顔は、いつもと同じ笑顔だった。
翌日夜になり、幸子は『ばあば』と縁日に出掛けた。
15分程歩いて神社に着いた。
たくさんの提灯が辺りを照らし、祭り囃子が流れている。
露天商がズラリと並ぶその光景が幸子をわくわくさせた。
ヨーヨー、お面、リンゴ飴、チョコバナナ、色んなものが売っている。
「幸子は何が欲しいんだい?」
『ばあば』が聞いてきたけれど、幸子はすぐには決められない。
「いろいろ見てから決めたいの。」
『ばあば』は笑顔で頷いた。
そして、神社から脇の山道沿いにズラリと並ぶ露天商を一緒に見て回ってくれた。
「あれはどうだい?」
「う~ん‥。」
「あれは?」
「う~ん‥。」
幸子はなかなか決められない。
決められないまま、立ち並ぶ露天商の端っこまで来た。
幸子は引き返そうと思った。
でも、『ばあば』が幸子の手を引き言った。
「まだ、この先にもお店があるんだよ。」
「本当?」
「行ってみる?」
「うん。」
幸子と『ばあば』は山道を5分程歩いた。
もう祭り囃子も聞こえない‥。
すると、店先に提灯をぶら下げた一軒の露店があった。
近くに行くと、その提灯には『お面屋』と書かれていた。
「へいっらっしゃい!」
角刈りに鉢巻をした四角い顔の店主が、切符のよい掛け声で幸子達を迎えた。
ひょっとこ顔のお面、おたふく顔のお面、のっぺらぼうのお面‥店頭には色んなお面が所狭しと並んでいた。
(‥‥あれ、おかしいな。)
幸子はある事に気づいた。
人気のヒーローやヒロインといった、テレビで見るキャラクター達のお面が1つもないのだ。
そして、並んでいるお面の中に1つだけ、他の物とは異質な個性のお面があった。
そのお面は縦に3分割にデザインされていた。一番上には太陽が、真ん中には雲が、一番下には雨が派手な色合いで表現されていた。
幸子の目がそのお面に釘付けになっているのに店主が気付いた。
「お嬢ちゃん、いいのに目をつけたね。それは『解放の面』と言って、被った人の心を外に曝け出す力を持ったお面なんだよ。」
「かいほうの‥めん?」
「幸子の気持ちを、他人に伝えてくれるお面って事だよ。」
『ばあば』が分かり易く教えてくれた。
幸子はしばらくジーッとそのお面を見つめていた。
やがて、幸子は『ばあば』の方を見て言った。
「幸子、このお面が欲しい。」
『ばあば』は黙って頷いた。
「毎度ありー!」
幸子はお面を買ってもらった。
2日後の月曜日、幸子はランドセルにお面を忍ばせた。
(いつ、お面を被ろうかな‥。)そう考えているうちに、午前中の授業が終わった。
(よしっ!)幸子は決心した。
お面を懐に隠して、トイレへ向かった、
個室に入ると、幸子はお面を取り出した。
そして、恐る恐るそれを顔にあてがってみた。
すると、その瞬間、お面がフッと消えた。
(あれっ、何処に行ったんだろう?)
顔を触っても何もない。辺りを見回しても何も落ちてなかった。
個室を出て、鏡で顔を見ても、そこにはいつもと同じ幸子の顔があるだけだった。
教室に戻ると、既に給食の配膳が始まっていた。
その日は、幸子の大好物のプリンが付いていた。
幸子のクラスには、アレルギー持ちでプリンが食べられない子が1人いた。それでいつも、その余った1個を貰える子をジャンケンで決めていた。幸子はいつもそのジャンケンに参加していた。
この日の幸子は、勝負強かった。
幸運にも最後の2人まで残った。あと1人は隣の席の直樹君だ。
プリンを懸けた運命の一戦。
「ジャーンケーンぽいっ!」
「‥‥ぽいっ!」
幸子はグーを出し‥負けてしまった。
でも、直樹君の出したパーは明らかな後出しだった。
「やった、やった!」
喜んでいる直樹君に幸子が言った。
「今の、後出しだよね。」
直樹君はそれを無視した。
次の瞬間だった。
「直樹君、ずるいでしょ!今のは後出しじゃん!」
ジャンケンにさして興味も無く、給食を食べながら談笑していた子達まで振り返る程、幸子は強い語気、大きな声で言った。
そして、幸子はこれまで見せた事のない怒った顔をしていた。
担任の先生が、慌てて仲裁に入った。
「幸子さん、怒らないでね。今のは直樹君の後出しだったから、やり直しましょう。直樹君もそれでいいでしょ?」
「ま‥まぁ、仕方ないからそれでいいよ。」
直樹君は、渋々応じた。
そして、2度目の勝負が行われた。
「ジャーンケーン、ぽいっ!」
再びグーを出した幸子が、チョキを出した直樹君に勝った。
「やった~!」
幸子は、大喜びをした。
その顔は、今まで見せた事のない満面の笑みだった。
クラスのみんなは、そんな幸子に驚いた。
(幸子が怒った?)
(幸子が大喜びした?)
(幸子が怒った?)
(幸子が大喜びした?)
やがて、1人が拍手した。
「凄いぞ!幸子~!」
そして、1人また1人と拍手が増えていった。
「やったな、幸子~!」
「おめでとう、幸子~!」
それは、幸子が勝った事への拍手ではなかった。
幸子が感情を初めて露わにした事に対する拍手だった‥。
キーン コーン カーン コーン♪
五時間目の授業の終了を伝えるチャイムが鳴った。
これにて今日の授業は終わり、下校時間を迎えた。
幸子はランドセルを背負い帰ろうとしていた。
その時、直樹君が声をかけてきた。
「これから俺ら、公園で缶蹴りやるんだけど、幸子も来ないか?」
それは幸子にとって、初めての遊びの誘いだった。
「‥‥うん、行く!」
ニッコリ笑って幸子は答えた。
クラスメートとの初めての遊び、初めての缶蹴り‥
幸子は楽しくてしょうがなかった。
鬼の役が何回も続いて、幸子は大泣きした。
それでも幸子は楽しくて楽しくて仕方なかった。
やがて日が暮れ、楽しかったひと時も終わりを迎えた。
でも、別れ際に直樹君が言った。
「じゃあ、また明日な!」
幸子は凄く嬉しかった。
今日、幸子に友達が出来た‥。
帰宅した幸子を『ばあば』が迎えた。
「遅かったねぇ。ちょっと心配しちゃったよ。」
でも、ほっぺを赤くして目を輝かせていた幸子の顔を見た『ばあば』は解った。
「何かいい事があったのかい?」
「うん!」
「幸子、友達が出来たの!あのお面のお陰だよ!」
そう言った幸子の顔は、『ばあば』も見たことがない程の笑顔で輝いていた。‥‥本当に嬉しそうだった。
「そうか、そうか。‥良かったねぇ。」
『ばあば』も嬉しかった。
ただ、幸子はちょっと困っていた‥。
「実はねぇ‥幸子、お面が見えなくて外せないの‥。」
「なんだ、そんな事かい。大丈夫だよ。」
「ほら、こうやって鼻をつまんでごらん。」
幸子は『ばあば』の言うとおりに鼻をつまんでみた。
すると、お面が外れ、その姿を現した。
「本当だ~良かった。」
そう言う幸子の顔は、いつもの笑顔に戻っていた‥。
それから1ヶ月が過ぎた。
今ではもう、幸子にはたくさんの友達がいた。
缶蹴り、縄跳び、ドッジボール‥毎日皆でよく遊んだ。
幸子は学校に行っているときだけ、お面を使った。
皆と遊んで帰りが遅くなると、『ばあば』が迎えに来てくれた。
ある日、『ばあば』が言った。
「たまには『ばあば』とも遊んでちょうだいね。」
「うん!」
幸子は答えた。
でも、幸子は友達達と遊ぶのに夢中だった。毎日、毎日、友達と遊び『ばあば』と遊ぶのは後回しになっていた。
『ばあば』は少し淋しそうだった‥。
それから2カ月が経った。
今日も公園で友達と遊んでいた幸子。気が付くと、もう夕方の五時を過ぎていた。
その時、
「幸子~。」
公園の入り口近くで幸子を呼ぶ声がした。
そこにいたのは、幸子を迎えに来てくれたお母さんだった。
幸子は急いでお面を外した。
でも、幸子は不思議に思った。
それで、お母さんに聞いてみた。
「今日は何でお母さんが来てくれたの?『ばあば』はどうしたの?」
お母さんは、一瞬黙っていた‥。
それから、幸子の肩にそっと手を置いて言った。
「幸子、『ばあば』が一昨日から寝込んでいたのは知ってるよね。」
「うん。ちょっと風邪ひいたって『ばあば』言ってた。」
「そうね。でも、本当は風邪じゃあないの。」
「『ばあば』は癌だったのよ。」
「‥がん?」
「重い病気だったの。」
「それでね‥。‥‥今日『ばあば』は亡くなったの。」
『ばあば』が死んじゃった‥?
幸子には信じられなかった。
「お母さん、何で嘘つくの?」
幸子は言ったけど‥‥お母さんは首を横に振った。
「ごめんね。『ばあば』に幸子には黙っててと頼まれてたの。」
「嘘だ!嘘だ!」
「ごめんね。嘘じゃないの‥。」
「‥‥うえ~ん!」
幸子は泣き出した。
お母さんにとって、見たことのない幸子の姿だった。
「うえ~ん! うえ~ん! うえ~ん‥」
幸子はお面を被っていなかった。
それでも幸子は大声で泣き続けた‥。
「幸子、ごめんね。いつも幸子の事は『ばあば』にお願いばかりしてたからね‥‥。ごめんね。」
お母さんも泣いていた。
それから3日が経ち、『ばあば』のお葬式も終わった。
休んでいた学校に、今日から行く幸子はランドセルの中を見た。
でも、そこにしまっておいた筈のお面が無かった。
探し回ってもお面は見つからなかった。
仕方なく幸子はそのまま家を出た。
通学路を歩いていた幸子に、後ろから友達が声をかけてきた。
「さっちゃん、おはよう!」
「おはよう!」
そう答えた幸子の顔は、元気いっぱいの笑顔だった。
もう、幸子にお面は必要なかった。
ーおわりー




