表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/49

41

ふわりとシドの体が投げ飛ばされる。軽やかに着地したシドだったが、対して投げ飛ばした方の春澄といえばそのまま地面に座り込むと、どさりと後ろ向きに倒れた。

仰向けの状態から身を起こそうと頭を持ち上げた春澄だったが、そのまま数秒保った後力尽きたように全身から力を抜いてしまった。

少し離れた木の根元には、ユキが息を荒くし冷や汗を流しながら蹲っている。

つらそうな呼吸音が重なる中、シドだけが涼しい顔で立っている。暫く二人の様子を眺めていたシドだったが、おもむろに春澄の顔を覗き込みながら小首を傾げた。


「主よ、今日のところはこのくらいでいいのではないか?」

「……そう、だな。……このまま少し、休ませてくれ」


ミストの実の依頼を終えた翌日から、春澄はシドに頼んで魔力酔いの状態を強制的に起こしてもらっていた。治す事が出来るのであれば乱す事も出来る筈、と春澄が問うとごく当然のようにシドは頷いた。そこへユキも自ら希望し、冒頭のような状態になっていたのだ。

慣れが一番だと言われた春澄は、シドとユキに武術の型を教えた後に魔力酔いを起こしてもらい、その状態で魔力を使うように身体強化を施しながらシドに武術の練習に付き合ってもらっていた。初めて魔力酔いを体験するユキはその状態で耐えるのが精いっぱいのようだ。

流石に春澄が魔力酔いを起こすほどの魔法というのは場所などの問題もありそうそう使うわけにはいかないので、シドの能力は非常に助かっている。

ちなみに今は、以前移動中に通った人気が無く木などの障害物も少ない所を選んで転移してきた場所だ。

かなり長い時間休憩を取り、平衡感覚がまともになり吐き気や頭痛なども収まってきた頃。

まだ少しふらふらとした足取りでユキが春澄の隣まで歩み寄り、ごろりと横になった。


「はる様、すごいです……。私全然動けませんでした」

「よく頑張ったな。ほら」


春澄は昨日自分達用に大量に採って異空間収納に入れて来たミストの実を一粒出すとユキの口元へと運んだ。病人にも喜ばれると言われる実だけあって、吐き気があってもこの食べ物だけは身体が喜んで受け付けていた。

シドと自分にも実を出し、時間をかけて一つの実を食べ終えた頃。空を見上げながら春澄がぽつりと呟いた。


「そういえば、今日はいろいろと買い出しに行くか」


エーデルから貰った指輪の反応が近い順に示されている事から考えて、おそらく次の反応はそろそろメランジュ王国より外に行くのではないかと思われる。そうなると次からの移動はかなりの長距離になるということだ。

ここは異世界。いろいろな食べ物があるのだろう。旅の先々で出会った食べ物がいくらまずそうな見た目をしていても、それが食べ物であるなら挑戦してみようとは思っているが、やはり保険として美味いとわかっているメランジュ王国の食べ物は大量にストックしておきたい。

もしも国を出た先の主食が小麦粉を練って焼いただけのものや、ほぼ味のしないスープ、なんてものだったら旅のモチベーションが大幅に下がる事間違いないのだ。エーデルの話によるとそんな地域はほとんどなさそうだが、念には念をだ。

もう一つの目的はユキとシドの服だ。

昨日突然人化の姿での成長を遂げたユキだが、シドによるとそもそも人化に決まった見た目年齢や、時間による成長があるわけではないらしい。ただ人化しやすい見た目年齢はある為シドはいつも同じ姿を取っているが、子供の姿を取る事も出来るのだという。

ユキの場合も、人化しやすい見た目年齢は本来もっと上であったが、体力などが追いつかなかったため当初は10歳程度の姿を取っていただけで、人化に慣れてきた今回少し『成長』したのではという事だった。

つまりユキの服は現在の体型のものと、一応少し大きめの服を買った方が良いという事だ。今はギリギリ以前買った服を着ているが、やはり少しサイズが小さいためその上にローブを羽織って誤魔化している。

買い出しと聞いて仲間の目が食べ物への期待に輝いていたが、昼時には少し早いのでもう少し我慢してもらうしかないだろう。

わずかに残る魔力酔いの症状をシドに治してもらい、春澄達は王都でチェックインしたままの『天空のゆりかご』の部屋へと転移で戻った。




まだ王都の店を把握していない春澄達は適当に足を進めていた。そこで目に入ったのは、以前にも寄った事のある店だ。ふと用事を思い出してその店の中へ入ると意外な人物達が居た。目が合うと驚いたように名前を呼ばれる。


「春澄さん!?」

「わあ、春澄さん! お久しぶりですね」

「……アルナリアとミリアリアか。何してるんだ?」


彼女たちは、春澄が以前成り行きで助けた事になるEランク冒険者の姉妹である。

この店は以前、レチカという少女が一人で初めての店番をしていた店だ。旅道具などを売っている店に冒険者である姉妹が居てもなんらおかしくはないのだが、春澄が言いたいのはそこではない。


「期間的にケガは治ってると思うんだが、まだ家に帰ってなかったのか?」


春澄の記憶が確かならば、彼女達は怪我をしたまま家に帰りたくないから親族の家に行くと言っていたはずだ。


「えっと、今は叔父の家でお世話になってるんです。うちの父が過保護なので、ずっと冒険者になる事を反対されてたんですけど、叔父さんの手伝いをしながらだったら少しだけ続けても良いって言われて……」

「それに、私たちこういう大きな町が大好きなんです。お姉ちゃんの怪我が治ってからの空いた時間は、叔父さんの手伝いか、二人でずっと王都見物してるかでした」


アルナリアが苦笑しながら言い、妹のミリアリアが悪戯っ子のように笑った。

そして視線がユキへと向けられ、姉妹たちの首が僅かに傾げられた。それに対し、春澄がユキの頭へ手をのせる。


「隣のシドには前会ったな。こっちはユキだ」

「こんにちは」


「こんにちは。ユキちゃん」

「可愛い子ですね。この子も冒険者なんですか?」

「ああ」

「そっか。お互い頑張ろうね!」


特に驚いた様子もない姉妹達の反応を見るに、ユキの今の見た目である14歳くらいの年齢で冒険者をするのはそれほど珍しくはないのだろう。

ニコニコと少女達が微笑み合っているところに、横から可愛らしい声が響いた。


「あ、このあいだのお兄さんだ!」


視線を向けた先に居たのは、ユキより少し年下に見える少女で、以前にもここの店番をしていたレチカだ。


「今日は何か欲しいものがあるの? そういえばお兄さんのお名前は?」

「春澄だ。こっちはシドとユキ。そうだな、野宿する時なんかに魔物が寄って来ないようにする道具とかないか?」

「あるよ! こっちの棚」


頭の高い位置でぴょこぴょこと揺れる二つのしっぽに案内され、通路を歩く。姉妹達も後を付いてきていて、それほど広くない店内は人口密度が高く感じる。


「えっとね、こっちは魔物が嫌う煙が出てくるやつ。安いのが3時間で、高い方が7時間効くよ。でも風が強いとその方向に全部流されちゃうから、ちょっと微妙なんだって。お金がない人とか駆け出しの冒険者の人が買うみたい」


無邪気な子供の言葉は残酷だ。後ろで姉妹がまるで言葉そのものが刺さったように『うっ』胸を押さえ、気まずそうに顔を背けた。


「それからこっちは強い魔物の声が入ってて、それより弱い魔物は寄って来ないの。声が入ってるっていっても、人間には聞こえないように出来てるから全然うるさくないよ。Cランクの魔物くらいのが一番売れてるけど、用心深い人とか危険な場所に行く人はAランクの魔物の声が入ったものを買ってくの。スイッチを入れれば音が出るんだけど、使ってる時間は中に入ってる魔石が切れるまでだから、だいたい夜一回6時間使ったとして2週間くらい使えるかな? 高いけど、風が吹いても大丈夫だよ」

「へえ、ちゃんと覚えてるんだな」


10歳程度の少女が数ある商品の中、急に聞かれたものでもきちんと説明が出来ている事に感心しながら、それぞれの商品を眺める。

先ほどの煙が出るものは太くて短い蝋燭のような形状だったが、この魔物の声が入っているものはラッパの広がった部分が上を向いているような形状をしていた。


「まあ買うなら効能が高い方だな」


折角魔物避けを使ったのに、この世界に来た時のように10分置きに起こされるのはごめんだ。かといって、睡眠中も『魔王の角ヘルム』のようなものを毎回つけるのも遠慮したい。

旅の間、夜の見張りは毎日寝なくても問題ないというシドがしてくれているのだが、魔道具は持っていて損をするものではないので春澄はいくつか買うつもりでいた。


「ならAランクのを10個と……そういえば他の冒険者は他にどんなものを買っていくんだ?」

「んーっとね、見た目よりたくさん物が入る道具袋とか、火が出たり飲み水が出たりするやつとか、緊急の時に上に打ち上げて助けを呼ぶやつとか、見た目は薄っぺらいけどどんな硬い地面でも寝られるふわふわな寝袋とかかな。寝袋は寒い時は温かくなるし、暑い時は涼しくなるのもあるよ」


とりあえず、今挙げられた中に春澄が必要とするものはなさそうだ。寝袋もその気になれば暖かいのでも冷たいのでもウォーターベッドのようなものを作れる。


「攻撃出来るようなものはないのか?」

「一応攻撃の魔道具も少しは置いてるけど、そういうのはそれ専門の店で買う人が多いかな」

「なるほど、専門の店か。……今度探してみるか」


後半ぼそりと呟いた春澄の言葉を聞き取り、ミリアリアが小さく手を挙げた。


「あの、春澄さん。もしかしてあまりお店の場所とかご存じないですか? 他に行きたい店があるなら、よかったらご案内させてください」

「えっ、ミリアリア?」


突然のミリアリアの提案に、アルナリアが驚いた声を上げた。


「何か予定があるんじゃないのか? アルナリアが驚いてるぞ」

「あ! いえ、違うんです。折角仲間の方と一緒に居るのに、お邪魔ではないかと……」

「別に、いつも一緒に居るから折角も何もないが」

「じゃあ是非! 買い物は大勢の方が楽しいですし」

「もうミリィ。春澄さん達は真面目に買い出しに来てるのよ? ……あの、でももしお邪魔でなければご案内させてください。この辺はたくさん歩いたので、だいたい分かると思います」


確かに、今日の目的は散歩ではなく買い出しなので、町をある程度把握している者が居た方が効率が良い事は確かだ。春澄はユキとシドに目線で問いかけると、特に嫌がっている素振りもなかったのでその誘いに乗ることにした。

先ほどの魔物避けを買い、春澄達は店の出口へ向かう。

年齢が近く見えたせいか『ユキちゃんまた来てね!』とレチカに大きく手を振られたユキが、控えめに手を振り返しながら照れくさそうに微笑んでいた。


「では、何のお店に行きますか?」

「攻撃用の魔道具を売ってる店と、魔法効果の掛けられた服を作れる店があれば行きたいな。あと食料も」

「あ、そういう服は評判の店がありますよ。私達は入った事無いんですけど、店員さんは変わってるけど物は確かだって聞きました」

「服がちゃんと作れるなら、店員は変わっていようが構わない」

「そうですか? じゃあ魔道具のお店の方が近いので、そこに寄ってから服屋に行きましょうか」


そして案内された魔道具の店で主にユキに持たせるための物を大量に買い込み、会計時の金額を見た姉妹に驚かれながら買い物を済ませ、次に向かったのは服屋だ。

近道だという迷路のような細い路地を通り抜け、別の大通りに出て暫く進んだところにその店はあった。青みがかったガラスの扉を開くと、ごちゃごちゃと既製品が置かれていないすっきりとした店内が目に入る。

そして一歩足を踏み入れると、派手な服を来たマッシュルームカットの筋肉質な男性と目が合った。その瞬間、春澄は少し前に『店員は変わっていても構わない』と言った自分の言葉をほんの一瞬撤回する事になる。


「逸材!!」


目が合った彼は春澄を見つめたまま重低音で叫んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ