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21.解けた謎

初めてレビュー書いていただきました!ありがとうございます!

「準備は良いか?」

「はい。もう大丈夫です……って、ひゃぁ!」


アルナリアは覚えのある感覚に可愛らしい悲鳴を上げた。

春澄はきっかり10分後に病室を訪れ、彼女達の支度が整っている事を確認すると、昨日と同じようにアルナリアを抱き上げた。


「ああああああのっ、王都まで2日かかりますよね?まさか移動手段心配するなって、ずっとこれですかっ!?」

「このまま行くが、2日もかからないから安心しろ」

「えっ?……えっ?」

「そっちの奴も呆けてないで行くぞ」

「……あ、はい!」


再び羞恥心と戦うことになって混乱しているアルナリアを無視し、ミリアリアを促す。

外で待っていたシドと共にそのまま村を出た春澄は『転移魔法陣を張っておいたが、見られると都合が悪いから眼を瞑っていてくれ』と魔法陣が無い事を隠す為に適当に言い訳すると、自分の肩にシドとミリアリアを捕まらせてから王都の近くまで転移(テレポート)したのだった。





「…信じられない。もう王都に着いちゃった………」

「魔術まで扱えるなんて…」


些細な誤解を残しつつ王都に入った一行は、真っ直ぐギルドを目指した。

途中いろいろな店にふらふらと引き寄せられて逸れそうになるシドを捕まえつつ、無事にギルドの扉をくぐった春澄達にいち早く気づいたのはテリアだった。


「春澄様!」


春澄が女性を抱えていることに気づくと、テリアは一瞬むっとしたように眉根を寄せたが、すぐにいつものキリッとした仕事用の表情に戻った。


「春澄様がいらっしゃったら、すぐにギルドマスターの部屋へご案内するように言われているんですが……あの、そちらの方達は?」

「仲間と、知り合いだ。先に依頼の報告をしたい」

「わかりました。こちらへどうぞ」


彼女達が知り合いの方で、やたらと威圧感のある赤髪の美青年が春澄の仲間だったら良いな、と無意識のうちに考えたテリアは気持ちを切り替えながらいつものカウンターへと座った。

春澄とアルナリア達も座り、ギルドカードをカウンターに置く。


「では、春澄様はダート村付近のポイズンタイガー討伐ですね。どうかなさいましたか?」

「依頼は完了した。これ、村長のサインな」

「……往復だけで4日はかかるはずですが、まだ3日ほどですよね?」

「そうだな」

「……かしこまりました。確かに依頼完了しております。では次に、アルナリア様、ミリアリア様は、ゴブリンの調査ですね」


冒険者はそれぞれのツテや能力を持っている。それを一介の受付嬢があまり深く聞いてはならないのだ。

テリアは気になった事を考えないようにし、次の仕事に取り掛かった。


「あの、私たちの依頼ですが……」

「ゴブリンの数は95匹、ホブゴブリン9匹、メイジゴブリン3匹、ゴブリンキング1匹だ」

「「「えっ?」」」


テリアと姉妹の声が見事に重なった。なぜか春澄がすらすらとゴブリンたちの数を言ったからだ。


「あの…」

「彼女達の依頼はゴブリンの調査だろ?依頼を取ったわけじゃない。俺は討伐しただけだ」

「………はい?」


辛うじてテリアが聞き返した。姉妹は言葉を脳に浸透させている最中のようで目をぱちぱちとさせている。


「ええっと、春澄様?」

「討伐証明は左耳だったな?普通のゴブリンは多くて面倒だったから魔石は取ってこなかったが、他は魔石も取ってきてある。確認はどうする?………テリア?」

「は、はい!ここで確認もやってますが、数が多い場合は別の部屋での確認をお願いしております。あの、まさか後ろの赤髪の方と?」

「いや、俺一人でに決まってるだろ」


テリアは、まさか2人だけじゃなくて他にも討伐した者が居るのだろうと思っての『まさか』だったのだが、まったく逆の答えが返ってきてしまった。

春澄にとって大量のゴブリンと戦うのも、アルカフロ王国の兵士を相手にするのもさほど大差は無かった。最後のゴブリンキングは他のに比べてしぶとかったが、春澄が負けるような相手ではない。


今回の魔物の異変は、シドを封じていた結界が自力で破れるほどに弱まり、漏れ出た気配に怯えた魔物が移動し魔物が増えているように見えていたのが主な原因だ。

だがゴブリンが活性化していたのは、偶然にもこのタイミングで誕生したゴブリンキングのせいだったようだ。

誕生したばかりのゴブリンキングは不運にもタイミングが悪かったせいで、春澄のような強者にあっさり討伐される事となってしまった。


ちなみにその間ユキを託されていたシドは、ユキをもふもふしたり春澄の真似をしてユキを頭の上に乗せたりして遊んでいたのだった。


ゴブリンといえど、ゴブリンキングやメイジゴブリンが居る群れを単独で討伐できるものではない。

テリアは初日からCランク登録を許された春澄の異常さを改めてかみ締め、すぐに気を取り直した。


「では、ゴブリンの確認は後で別室をご案内させていただきます。春澄様とアルナリア様達は依頼報酬はどのようにお受けになりますか?」

「そのままカードに入れてくれ」

「あの!私たちは、何も…」


なにやら自分達の依頼も完了した事になりそうな雰囲気に、姉妹は気まずそうに慌てて両手を振っている。

テリアは、無表情でじっと見てくる春澄と、彼女達の様子を見て何となく状況がつかめたのか、一つの提案を出した。


「では、春澄様達は一時的にパーティーを組まれたという形でいかがでしょう」

「ああ、かまわない。報酬は全部彼女達の方で良い」

「かしこまりました」

「えっ…あの、春澄さん?どうして……私達何もしてないです」


姉妹の依頼を、姉妹が完了していなければそれは失敗だ。

だが春澄とのパーティー扱いにすれば、たとえアルナリア達が何もしていないとしても問題は無い。パーティーを組んでいる春澄が完了しているのだから。

実際、何もしていなくてもランクが上がっている者はよくいる事だ。

汚い手を使っている者や、国から籍を抜くのは立場上よくない貴族の子供が使用人などに代わりに登録させている例もある。

ようは依頼がきちんと達成されていれば概ね問題は無いのだ。


テリアは素早くカードへの操作を行い、アルナリア達は戸惑いながら春澄へ目を向けた。


「お前達から『一帯で魔物の異変が起きている』という情報を得たお陰で結果的に仲間が増えた、いわば情報料みたいなものだ。俺の自己満足だから気にするな」

「春澄さん………本当に、ありがとうございます」


彼女達は少し迷った素振りを見せたが、ここで遠慮して押し問答をするよりも、素直に甘える事を選択したアルナリアは妹と共に頭を下げた。


あの情報がなければ、シドの咆哮を聞いても『異世界には凄い声の主が居るんだな、後で見てみたい』と後回しにしてしまったかもしれない。

むしろ『強敵』という認識がなければ、シドのあの声は不思議な音色をしていたので声と認識出来なかった可能性もあった。

そう考えれば、ゴブリンの群れくらいどうという事は無い。

回復薬(ポーション)を渡しても良かったが、そのうち治る怪我と達成出来るか分からない依頼であれば、こちらの方が礼としては良いと思っての判断だ。



「俺はこれからギルドマスターに呼ばれてるようなんだが、親戚の家へは2人で行けそうか?」

「はい。馬車を拾えばすぐです。いろいろとお世話になりました」

「本当に助かりました!ありがとうございました」

「ああ」


ギルドカードを返されながら、いつまでもお礼を言い続けそうな姉妹に軽く返事を返すと、春澄はテリアに促され、数日前に訪れたばかりのギルドマスターの部屋へと向かった。

後ろでは、アルナリア達が春澄の姿が見えなくなるまで頭を下げていた。






部屋へ入った春澄を迎えたのは、前回と同じく銀刺繍の入った青いローブを着た人物だった。前回と違うのは、フードを下ろし顔を見せているところだろう。

こげ茶色の髪をオールバックにし、楽しげに口元を歪めた50歳前後の大柄な男と目が合う。

髪と同色の瞳は、春澄が思い描いていたギルドマスターにふさわしい強者の目をしていた。


「よぉ、聞いたぜ。驚愕通り越して笑えるような事しでかしてくれたんだって?」


春澄は冒険者だ。王都のギルドマスターであるバルジには、既に詳細がグレン辺りから伝わっているのだろう。

バルジの目が春澄の後ろにいるシドへと向けられた。

口調は軽い調子のバルジだが、流石に赤竜が相手となっては訳が違うのか、隠し切れない警戒がにじみ出ている。


「お前があの…赤竜なのか?」

「いかにも」

「俺はここのギルドマスターをやってるバルジだ」

「我はシドと申す」

「赤竜が人間と契約、ねぇ…」


どかりとソファに座ったバルジが、顎で向かいの席を示す。

春澄が先に座るとシドも隣に腰掛け、ソファの感触を確かめるように三度ほど座りなおしてからバルジの方を向いた。


「まぁ、グレンから聞いてるから間違いないんだろうが、従魔が人化するのはかなり珍しい現象なんだぜ?」

「そうなのか?」

「そうなんだよ。俺も人生で1人くらいしかしらねぇな…しっかし、お前も相当強いんだろうとは思ってたけどよ。まさか赤竜に勝って、更に契約してくるとはなぁ。何者だよ、お前」


バルジが呆れたように言葉を吐き出す。


「俺からも質問なんだが、あんたこそ何者なのか聞きたいな」

「あん?」

「いや、違うな。前回のやつは何者だ、かな?」

「………へぇ、ほんっとに何者だよお前」


一瞬目を見開いたバルジが、降参したとでも言うように両手を挙げて笑った。

前回会った時は座ったままのギルドマスターにしか会わなかったが、今回は顔も見せて歩いているバルジを見て春澄は確信した。

前回のギルドマスターと今目の前に居る人物は同一ではないと。


「なんでばれた?テリアやグレンだって最初は気づかなかったんだぞ」

「前回は違和感を感じただけだったが、あんたとは体つきが違う。今思えばなんだかあれは人形くさかったな。でも最後に一瞬見えた手の白さは人肌だったように思う」

「で、何で俺が本物だと思うんだ?あっちが本物のギルマスかもしれねぇぜ?」

「ただの勘としか言いようが無いんだが。王族とかだったら本物を隠して影武者が顔を出してるとかありえそうだが、ギルドマスターが顔を隠す必要なんて無いように思うしな。あと『ギルドマスター』ってなんか強そうな響きに聞こえないか?あんたの方が強そうだから、あんただったら良いなと思っただけだ」


鑑定(アイデンティファイ)を使えば名前もわかる為簡単だったが、それでは面白くないのだ。

春澄の言葉を聞いて、バルジは心底可笑しそうに笑った。


「ぶっ、わっははははははっ!おう、お前ほど強くは無いが、俺は一応元Aランク冒険者だ。んで、あいつの話だが、あれは俺の娘だ」

「…………娘?」


随分大柄な娘だな、と首を傾げた春澄を見て、バルジがまた笑う。

バルジが笑いながら話した内容によると、バルジの娘は魔術師でゴーレムを作り操る事が出来るのだそうだ。

性格的にあまり戦闘向きでないようで、普段はその力を使って図書館で重い本を運んだり、知り合いに頼まれて荷物運びをしているらしい。

その平和な能力に目をつけたバルジが、たまに自分の身代わりをさせ、疼く冒険者魂を発散させに魔物狩りに出かけるのだと言う。


ゴーレムはあまり細かい作業が得意ではないので、身代わりの間は娘はゴーレムに作った窪みに入って一体化しており、手は自分自身のものを使うようだ。

口の部分に魔道具をしこんで離れたところに居るバルジの声を出せるようにし、ローブで体を隠せば、バルジのように大柄な身代わり人形の完成と言うわけだ。


まったく酷い父親も居たものである。


「……あんたの娘、大変だな」

「ふむ、人間とは面倒な事を好むのだな」

「はっはっは、あいつ文句言いながらも断らないからな。でもちゃんと礼に馬鹿みたいに高ぇ飯奢ってんだぜ?」

「馬鹿高い飯と身代わりの労力が釣りあってるかは知らないけどな」

「お前も言うねぇ。ま、それは置いておくとして、本題だ」


おそらく娘に身代わりをさせてまで留守を隠したい理由はそれだけでは無いとは思うのだが、バルジはこれ以上話す気は無いようだ。

話題を変えると、バルジはほんの少し真面目そうな雰囲気を出した。


「グレンからも言われたと思うが、そいつが赤竜だって事は広めない方向で頼む。まだ国はお前達の件をどうするのか決めかねてるんでな。赤竜の封印は成功した事にするのか、討伐した事にするのか。討伐した事にすると、それを誰がやったかをどうするのか。単独であの赤竜を倒して契約しちまったなんて民衆に広まったら、えらい騒ぎになるのは確実だぜ。つっても、どうせ隠したって赤竜があの場に居ないことがばれるのも時間の問題だ。ただ……根回しに時間が掛かるだろうからな」

「ああ。シドも良いか?」

「うむ、問題なかろう」

「ありがとよ。で、春澄の実力はSランクあるのは明らかだが、この件が片付くまでは、とりあえずAランクで我慢しといてくれや」

「構わないが、SランクとAランクでそんなに違うのか?」

「大陸でも単独Sランクは2人しかいねぇが、Aランクなら三桁は居るからな。まだマシだ。まあAランクでも騒がれるだろうけどな。なにしろ登録して1週間たたずにAランクに昇格だ。異例だぞ異例」

「へぇ。ちなみにこいつの事を隠しておくなら、従魔じゃなく人間扱いするんだろ?ギルドカードは作れるのか?」

「また軽く流しやがったな…もちろん作れるぞ。ただギルドカードの表には書かれないが、ギルドの受付とかで見る種族の隠蔽は出来ねぇから、封印されてた赤竜と同一だって事さえばれなきゃ良い。ランクは春澄と一緒にAランクだ。この事を知ってるのはこのギルド内では俺と数人だけだから気をつけてくれ。テリアを担当にするから何かあったらあいつに言えや」

「わかった」

「んじゃ、俺はテリアに話通してくるから、下で待ってろ」





シドと共に下の食堂へ降りた春澄は、前回の失敗を糧に『一番美味いと思うものを2人分』とウエイトレスに注文した。

どうやらウエイトレスのお勧めは、ホロ鳥の雛の丸焼きらしく、両手で包めそうな程の小さな鳥の丸焼きが運ばれてきた。雛でももっと大きな鳥かと思っていたのだが意外にも小さかった。そして丸い。ホロ鳥ではなくマル鳥だ。

食べてみると、前回の串焼きともまた違った味わいで美味かった。そしてなんと骨まで残さず食べる事が出来るのだ。これはホロ鳥の雛の特徴で、大人になってしまうと普通に硬い骨になり食べられなくなるそうだ。

シドが『大人のホロ鳥の骨も食べられるぞ?』と言っていたのだが、本来の大きさの違う竜の言葉は無視だ。食べられると言うなら人型で是非とも試してもらいたいものである。

あっという間に食べ終わり、面白いものを食べれた事に満足していると、後ろから声を掛けられた。



今までで2件ご指摘いただいてるんですが、タグの『notお人好し』を消そうかなーと思ってます。

理由つけて仕方なくでも、人を助ける感じになっちゃうとお人よしですかね?


春澄の態度が気に入ったもの以外にあまり友好的でないので、それを表すタグだったんですが・・・

『notお人好し』を期待されてた方は本当にすみません。

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