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13.ギルド登録

「では、改めて登録の手続きに入らせて頂きます。カードへ春澄様の情報を記録しますので、この紙に名前と主に扱う武器、魔法は何が使えるかなどお書きください」


櫻井春澄、20歳、人族、刀、火・水・風・地・雷・闇と書き込んでいく。

エーデルによって文字は書けるようになっているが、自分の手が異世界の文字を書いているというのは不思議な感覚だ。


「え!?……素晴らしいですね。光以外全部使えるんですか?」


春澄が書き込んでいく文字を見ながらテリアは呆然と呟く。

そういえば、この世界では2.3属性くらいしか扱えないんだったかと思い出すが、書いてしまったものは仕方がない。書き上がったものをテリアに戻した。


「あら?従魔の欄が空いてますが、その子は一緒に登録なさらないんですか?」

「まだ従魔じゃないからな」

「えっ」


不思議そうに春澄の頭の上を見ながら尋ねる彼女に事実を言うと、そのまま固まってしまった。


「………春澄様、従魔にしていない魔物を連れて歩くのはあまり感心しません」


法などで『従魔でない魔物を連れて歩いてはいけない』などある訳ではないが、そもそも契約していない魔物が人間に従う前例が無かったので、そんな法が出来るはずがない。

そんな訳で、テリアははっきりと連れて歩くなとは言えず、注意するだけに留めた。もちろん連れて歩くなと言ったところで誰もテリアを咎めなかっただろう。むしろ褒めたかもしれない。

最初は特に気にしていなかった春澄だが、契約外の魔物と言うのは、人々にとって少なからず恐怖の対象になるのだという事を今は何となく察していた。


「悪い、契約方法を知らないんだ。どっかで調べられないか?」

「ご存知ないんですか?でしたら有料ですが、ギルドで講習を行っています。本屋で魔法陣の描き方を載せた書物も売ってますし、魔道具店ではそのまま使えるように紙や布に魔法陣が描いてあるものも売ってますが、ギルドでは実際に契約する場面を見せていますので分かりやすいですよ」

「わかった。その講習はいつある?」

「次は1週間後ですね。午前と午後に一回ずつ行います」


テリアは気になるのか先ほどよりもちらちらと春澄の頭上を見ているが、その存在はまったりと寛いでいて特に襲い掛かってくる様子は無い。

とりあえずテリアは本題へ戻る事にした。


「ではカードに春澄様の血を登録して完了となります。ここに指を置いて、出た血をカードの側面のどこでも良いので付けてください」


受付の隅に手のひらサイズの赤色の四角い物があり、ごく小さく開いた穴の上を示される。

これは指を置くと針が飛び出す仕組みになっているのだが、痛み除去の効果が掛けられた地味だが高価な魔道具だ。本人確認が必要な場面で毎回血が必要になるのだが、最初は魔道具など使っていなかった。


しかし些細な痛みとは言え何度もあると苦情も出る。魔力で代用しようにも魔力が扱えない者もいるので、仕方なくギルドが開発した魔道具だった。

指先に浮かんだ赤い玉を、テリアに渡された縁取りが赤色のカードにつけると、一瞬側面が光を発した。


「はい、これで登録完了となります。失くしたり除名された場合、再登録に1万ペル掛かりますから気をつけてください」


光った後は黒で文字が浮かびあがり、名前・年齢・ランクのみ書いてあるシンプルなカードが出来上がった。


「見た目は普通のカードなんだな」

「ええ。ですが機能はとても高度なんですよ。これでギルドにお金を預ける事が出来るんですが、カードを失くして拾われたとしても血で本人確認をするので、本人以外はお金を引き出す事が出来ませんから安心ですし、表面に書いてある以外の登録された情報も、ギルドの受付や決められた魔道具でしか見る事は出来ないので、個人情報も守られます」

「なるほど」

「では報酬の件に入らせて頂きます。今回の護衛依頼の報酬は500万ペル。盗賊の討伐2件のうち討伐依頼が出ていたものが1件ありまして100万ペル。依頼報酬とは別で盗賊1人につき5000ペル出ますので、23人で11万5000ペルです。もう1件は依頼報酬は無し、盗賊8人で4万ぺルです。全て合わせて615万5000ペルですね」

「盗賊1件が随分高いんだな」

「ええ、彼らはなかなか討伐する事が出来なくて、だんだんランクと報酬が上がっていたんです。今回の護衛も、盗賊討伐も両方Bランクの依頼でした」


今回のように依頼を出されていたものを知らずに討伐した場合でも、きちんと冒険者の評価に入る事になっている。

春澄にとっては数が違うだけで似たような盗賊だったが、随分と値段が違うんだなと思った。


「それにしても、ランクもさることながら、登録初日からこんなありえない金額を稼ぐなんて…春澄様ならすぐBやAランクになってしまいそうですね」


テリアは苦笑しながらも、どこか期待を含ませた声をしていた。

AやBランクなど、国の中でも数えられる程度にしか存在しないのだ。登録初日からCランクなどと異例を認められた存在に期待するなと言う方が無理だろう。


「報酬は現金になさいますか?それともこのままギルドに預けますか?」

「ああ、ギルドに預ける」

「かしこまりました」


すぐに操作が終わり、カードを渡される。漸く全ての手続きが済んだので、春澄は席を立ち帰ろうとした。


「あ、もう少しお待ちください」


ギルドカードを異空間収納(インベントリ)にしまっているとテリアに呼び止められた。


「グレン様が、よろしければ宿までご案内したいと仰ってました。今お呼びしますのでお待ちいただけますか?多分、ギルドマスターが無駄に話しかけていて、降りて来られないんだと思います」


苦笑しながら2階へ向かうテリアを見送り、手持ち無沙汰になった春澄は張り出してある依頼でも眺めていようとパーテーションの方へ向かった。

依頼はランクに分かれてGFEDと並んでおり、Gの欄から順番に見ていく。



Gは『部屋の片付け』『ペンキ塗りの手伝い』『飼い猫探し』など基本的に雑用のようだ


Fは『ネクネク草30束』『ホーンラビットの毛皮5匹分』など。


Eは『ホロ鳥の生け捕り・40羽まで買取り可』『ゴブリンの討伐・数は問わず』『街道付近のホーンウルフ討伐』


Dは『ネル村付近のオークの調査』『カラムスタッドの町への護衛・5名ほど』等が書いてあった。


しかし春澄が一番困難だと感じたのはGランクの『飼い猫探し』だ。

はっきり言って猫などその辺に沢山居るうえに、どんな隙間に居るのかも分からない。

春澄なら探索(サーチ)を使えば何処に『猫』が居るかは分かるが、なにしろ飼い猫探しなどに使った事が無いので、依頼者が探している猫をピンポイントで探す事が出来るのかは春澄にも不明だ。

試験でランクを上げる実力があれば良いが、こんな依頼ばかりだったら、地道にランクを上げるのは大変そうだと春澄は思った。


他の依頼が見当たらないので、パーテーションの裏に回ってみた。予想通りCランクからの依頼が並んでいる。


C『サーモンバイパー求む・パーティー推奨』『フロート神殿跡地のデュラハンとスケルトン討伐』『コトリヤード迷宮(ダンジョン)内の護衛』


B『コカトリスの目求む』『ミストの実・完全な状態で50粒以上』『生きたままのユニコーンから折った角』


A『トト峠のワイバーン討伐・複数パーティー推奨」


S『ロッキアナ火口の赤竜の封印強化の補助』等が貼り出してあった。


当たり前だが反対側の依頼より難易度が上がっているし、こちらの方が興味深いものがある。春澄は気になった依頼に何度も目を走らせた。


迷宮(ダンジョン)があるなら是非潜りたいし、サーモンバイパーは何となく食べられそうな気がする。

ミストの実が何かは分からないが知らないものは見てみたいし、コカトリスの目はまさか食べるのだろうか、それとも何かに使うのか。

何より赤竜が気になった。ドラゴンは是非この目で実物を見てみたいものだ。

そんな事を考えていると、入り口から騒がしい集団が入ってきた。


「あーあ、やってられねぇよ」

「………バディストが失敗したから」

「ああ?てめぇの合図が遅かったんだろうがよ」

「ケケケッ!お前等が足引っ張りあってんのが一番の原因だっての!」

「………ハボックは見てるだけだった」


会話だけでは何やら失敗したようだと言う事しか分からないが、それにしても騒がしい連中だった。

バディストと呼ばれた男は隻眼で均整の取れた身体をした長身の男で、薄紅色の髪の毛を無造作に背中まで流している。

ハボックと呼ばれた男は背はかなり低いが体中が筋肉で盛り上っていて頭も口周りも黒い毛が生い茂っている男だ。

寡黙そうな男は体躯の良いスキンヘッドの男だった。


一見タイプが違うようだが、揃って鈍色(にびいろ)のプレートメイルを着込み、背中にそれぞれの武器を背負っている。酒が好きなんだろうと思わせる彼らの声質はよく響き、ギルド内の何人かは不快気に目を細め、ある者はそっと席を立って行った。


この3人組はパーティーを組んでおり、少し前に皆Dランクに上がってから素行の悪さが目立ってきていたので、知ってる者は関わらないよう回避しているのだ。

そんな中、何の反応も示さずボードの依頼を見ている春澄は彼らの目を引いたらしい。


「見ろよ。貧弱そうなガキが高ランクボードなんか見てるぜ」

「ケケッ、字が読めねぇんじゃねぇのか?誰か読んでやれよ」

「………ハボックも字が読めるようになったの最近」

「うるせぇよゴード!このボケがっ」


春澄はちらりと横目で彼らを見たが、興味無さ気にボードへ視線を戻した。

ミストの実は食べ物だろうと見当をつけ、サーモンバイパーとどちらを先に見に行くか考えていたところだったのだ。竜は楽しみを取っておくために後回しでも良い。

春澄のその冷めた態度は3人組にとって(はなは)だ不愉快な事だった。


「坊ちゃんよ、もしかして今俺等の事無視したのか?」

「ケケ、まさかなぁ!字が読めない上に耳も聞こえないんじゃねぇの?」

「しょうがねぇな、目には異常が無いか確認してやるぜ」


3人が、主に2人が闘志を撒き散らしながら春澄の方へ近づいてくる。そして彼らは漸くある事実に気がついた。


「おいおいおい!変な格好に変な帽子でもかぶってんのかと思ったら、ホーンラビットじゃねぇかよ!」

「ケケッ。正気かよ!しかもちっちぇなぁおい。こんなの連れても役にたたねぇだろが」


隻眼の男が春澄の肩へ、黒髭の男がホーンラビットへと手を伸ばした。しかしどちらの目的も達成されない。その前に春澄が彼らの手を捻り上げたからだ。


「いで!いででっ!」

「離せこのヤロウ!」

「……おい!はなせ!」


捻った手を押し離してやると、2人ともそのまま床に転がり腕を押さえている。スキンヘッドの男が2人に駆け寄って春澄を睨みつけたが、春澄はまた涼しい顔をしてボードに向き直ってしまった。

この態度でついに3人組の怒りが沸点を突破した。


「この!」


まだ立っていたスキンヘッドの男が春澄に殴りかかる。

しかし春澄はそれを最小限の動きで交わした為、男は踏鞴(たたら)を踏みパーテーションごと盛大に倒れこんでしまった。

床とパーテーションがぶつかる音と、彼がその上に転がる音が辺りに大きく響き渡る。騒ぎに気づいていなかった者も、気づいていながら見ないようにしていた者もギルド内を満たした音に驚きそちらへ注目した。


体格の良い男3人が倒れ、細身の青年一人が立っているという状況だったのだが、隻眼の男がその事にいち早く自覚し、怒りと羞恥心をばねに春澄へ足払いをかけた。

これはフェイクで、この攻撃を避けようと飛び跳ねた春澄の着地を狙い、もう一度すぐ足払いをかけ殴りつける予定だった。

だがそれは読まれていたのか、春澄は飛び跳ねた後にすぐ足を勢いよく下ろし、男が出した足の脛を思いきり踏みつける。春澄は下駄をはいていたので、上半身ばかり鎧で覆い足の防御が疎かになっていた男には大変な痛手だった。


仲間の呻き声を聞きながら黒髭の男が起き上がり、今度は自らの筋力を活かそうと春澄を羽交い絞めする為に襲い掛かった。だが男は油断しているつもりは無かったが、手を少し広げた隙を突いて鳩尾に重い拳を入れられうずくまってしまう。


この間、数秒の出来事だ。



『ロッキアナ火口の赤竜の再封印』を『ロッキアナ火口の赤竜の封印強化の手伝い』に変更しました。

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