12.ギルドマスターの謎
数日前にブックマーク100件超えたと思ったら、急に700弱になりました!
ブックマーク・評価・感想、本当にありがとうございます。
今回のはほぼギルド説明で終わってます。すみません。
「お待たせ致しました。2階でギルドマスターが話を伺いたいそうなので、ご足労頂いてもよろしいですか?」
「春澄殿、行きましょう」
(ギルドマスター……何となく強そうな響きだ)
と、関係ない事を思いながら春澄は2人の後に付いて行く。
2階に上がり、1番奥にある何の変哲もない扉を受付嬢がノックすると、中からは『入れ』と重低音の声がした。正に春澄が思い描いていた威厳のある声だった。
しかし、実際に扉を開けて目に入って来た人物は、床に裾が届くほど全身を隠す、銀刺繍の入った青いローブを着ており、フードまで深く被っていて全く顔が見えない。
椅子に座っているが、声の通り背が高く体格も良いようだ。グレンよりかなり大きく見える。
だが何となく春澄はローブの体つきに違和感を覚えた。何がおかしいとははっきり言えないのだが、答えを出す前にギルドマスターが本題に入った。
「おう、久しぶりだなグレン。手紙は読んだ。掘り出しもん見っけたって?随分強いらしいじゃねぇか。まぁ座ってその話聞かせろや」
(……掘り出し物って、俺の事か)
実際に掘り出し物とは書いてないだろうが、似たような事は書いてあるのだろう。明け透けな物言いに隣でグレンが頭の痛そうな顔をしている。
後ろで受付け嬢が『どうぞあちらのソファへお座りください』と勧めてきたので春澄が座ると、グレンもしぶしぶ付いて来た。
「ギルドマスター、あなた…」
「いいじゃねぇか。堅い事は抜きにして、そっちのが噂の恩人か?俺はメランジュ王国ヴィネグレッセント王都本部ギルドマスターのバルジ・アイリッシュってんだ。よろしくな」
「春澄だ」
グレンは何か言いかけたが、それをバルジがわざとらしく遮った。春澄も2人のやり取りは気にせず淡々と返す。
「んで?大まかには書いてあるが、グレンからも説明してくれ。既に依頼完遂してんなら言う事は無いが、国王に関する事だからもう少し詳しく知りてぇ」
バルジに促され、グレンは春澄に助けられた顛末を言いにくそうに話した。
特に春澄との出会い頭の話はバルジのつぼに嵌ったらしく、話が終わっても思い出して笑っていた。
「お前らが蛇に拘束…ぷぷっ。是非とも見たい光景だぜ。あの済ました顔のジオルネスもやられてたかと思うと……ぷぷっ」
「いい加減にしてくださいギルドマスター。陛下や王女の危機だったんですよ」
「まあまあ、実際に王達に怪我があったってんなら俺もまじめになるが、結果が良けりゃ何でも良いんだよ」
グレンが怒っていても彼は全く気にした様子がない。こういうタイプに生真面目な者が口で敵う筈がないのだ。
溜息をついたグレンが、いつの間にか置かれていたカップを手に取り一気に飲んだ。
中身は普通のお茶だが、春澄にはまるで酒のように見えた。
「で、この紹介状には実力は十分だからそれなりのランクから始める事を推奨するって書いてある。まぁそうだな…とりあえずCランクからどうだ?」
「ああ、何でもいいぞ」
一瞬室内の空気が止まった気がした。会った時から陽気な雰囲気を保っていたバルジも、呆れた声を出した。
「おいおい、Cランクだぞ?何だその冷めた反応は」
「そう言われてもな。ランクの説明も何もされてないんだが」
「まぁ確かにそうだけどよ…言わなくても分かんだろ」
この世界でCランクと言うと、全ての冒険者が目指すランクだ。
その上のAやSなんてランクは遠い雲の上の存在なので、皆が自分の目標とするのはCランク、夢を見るのはBランクとなっている。
それをいきなりCランクを薦めるバルジにも驚きだが、どうでも良い事のように扱う春澄には更に驚かされる。
「あー……まあ、詳しい事は後でテリアに聞いてくれ」
「テリア?」
「さっきの受付嬢だ。依頼報酬もその時受け取れ。それから盗賊の討伐の件だな。討伐依頼が出ていた盗賊の分は依頼報酬が出るが、そうじゃないものはただの討伐料が出る。まだ確認が出来てないから、ちょっくら待ってろ」
「護衛の最中に片付けたやつらだな。金が出るのか」
「当然だろ?そうじゃなきゃ冒険者なんて者はなりたたねぇよ」
盗賊の討伐料と言うのがいくらくらいなのか、全く想像がつかなくて考えていると、今回の護衛の報酬料も一切決めていなかった事に気づいた。
「グレン、報酬って結局いくらだったんだ?」
「…申し訳ありません、自分も聞いていないのです」
「何だ、お前ら聞いてないのか?500万ペルだとよ」
「は?」
グレンはなるほど、と言う顔をして頷いていたが、春澄からしたら桁が1つ2つ違う。
「何だその数字は。3日間護衛しただけだぞ?」
「何言ってんだ。王族の護衛なんだからこんなもんだろ」
「…そうなのか?」
実際、一般の護衛依頼は1日数万ペル、高いものを移送している商人や貴族は数万ペル~数十万ペルなので、王族だとしても今回の報酬は高くはあるが、助けられた分の礼も含まれているのだろう。
「そういう訳で、春澄だったか?下のテーブル席で待ってろ。これを渡せば1回分タダになるから好きなもん頼んで良いぜ。グレンは残れよ」
バルジに白いカードを投げ渡された春澄は、一瞬だけ見えたバルジの手の白さに驚いた。
よく見えなかったので、手袋かもしれないが、人肌の白さだったように思う。
結局バルジに対する謎は増えたまま、春澄は1階へと降りた。
1階のテーブル席に座り『一番注文を受けている食べ物と飲み物を』と言ってウエイトレスに白いカードを渡した。出てきたのはイモ類の揚げ物とエールだった。
エールは銅で出来た大きなジョッキに白い泡がこんもりと乗っている。春澄はまずエールに口を付けてみたが感想としては、特に可もなく不可もなくと言ったところだった。
実はもっと美味い物があったのだが、冒険者には酒好きが多く、安くて飲みなれているエールとつまみがよく注文を受けているものだったのでそれが出て来てしまった。
次はウエイトレスに1番美味いと思うもの、と言って頼んでみようと決めたのだった。
そうして食べ終わってゆったりとしていた頃。
「春澄様、大変お待たせしました。登録の準備と依頼報酬や盗賊の件の処理が終わりましたので、先ほどのカウンターに来ていただけますか?」
バルジにテリアと呼ばれていた受付嬢が移動を促してくる。
春澄はこの食べ終わった食器はどうするのかと思ったが、丁度ウエイトレスが他の席の食器を下げているところを見たので、そのままにしてカウンターへ向かった。
「では、春澄様。わたくし受付をしております、テリアと言う者です。よろしくお願いいたします」
「よろしく」
「ギルドについての説明は必要ですか?不要でしたら、注意事項のみ述べさせていただきます」
「いや、説明を頼む」
ギルドとは大陸全土に広がる独立した職業斡旋所のようなものだ。
国には属してないが、それぞれの国に多くの支店を置いている以上、定められた税金を国に納める事でギルドの建物を貰い運営している。誰だったか過去の偉人がギルドの事を『土地を持たない巨大国家』と例えた事があったが、当たらずと雖も遠からずで、冒険者が国民といったところか。
そう例えられた所以は何も組織の大きさだけではない。
独立しているギルドに登録するという事は、国の有事の際にも徴兵されることは無いのだ。
もし冒険者がそれに参加するとしたら、国からの依頼を自分で受けた時だ。国に徴兵されても報酬など出ないが、冒険者として依頼を受ければ報酬が出る。
もちろん参加しなくても誰も文句を言う権利はない。
ちなみに戦争に参加したくないが為に冒険者登録をしようとする者を防ぐ為、戦争期間中は国民登録から冒険者登録への移行は禁止されている。
実力が無ければ食べていけないが、自由に生きられるので登録者は後を絶たない。登録に種族も何も問わない為、過去には数人だが魔族の登録もあったとか。
ギルドに登録するには、国の身分証を返却しなければならないのも、どちらへ所属しているのか明確にする為だ。
それほど巨大な組織をどの国も侵略などを警戒しないのは、国など手に入れてしまったらギルドの存在理由でもある『自由』が失われ冒険者たちが離れて行く為、侵略に全く意味が無い事を誰もが知っているからだ。
むしろどの国もギルドから払われる莫大な税金を当てにしているので、ギルドの支店を積極的に増やしたがっている。
そんな風に大陸全土に影響のあるギルドが成した偉業が身分証作成だ。
そもそもギルドを作ったのが、その昔魔王を倒し大陸を救った勇者なのだ。その勇者が各国へ推奨したのかどうかは伝わっていないが、ギルドで使用し始めた身分証制度をいつの間にか国が真似、国境や町の関所では身分証を見せるようになったのだという。
冒険者のランクはGからSまでの8段階に分かれている。
初心者はGから始まり、Fは半人前、Eは漸く一人前。
Dは一目置かれる冒険者で、鍛えられた兵士や騎士達と同じくらいの強さとなる。
それ以上は才能も影響してくるランクとなり、Cは熟練者と呼ばれ、国でも上位の騎士隊長格と同じくらいの強さで、貴族などが冒険者に依頼を出す場合はこのレベル以上を指定してくる事が多い。
BやAとなると最早人間業ではない程強い夢のランクとなり、Sなど個人では世界で2人しか現存しておらず、単体で国が滅ぼせるのではないかと言われる程強いのだそうだ。
パーティーは何人でも組むことが出来て、5人以上居るパーティーのランクは平均値の1つ上となる。
ランクを上げるには、自分と同じランクの依頼を連続で10個と上のランクの依頼を一つ完遂するか、あるいは1つ上のランクを5個完遂する事が主な手段だ。
だが1度失敗すればリセットされ、また最初から連続完遂を目指さなければいけない。あるいは試験料金がかかるが、上のランクの試験官と模擬戦をする事で、合格を貰えたらランクを上げられる。
また、5回連続で依頼を失敗したり、1ヶ月間何も依頼を受けないでいるとギルド除名となり、1年間は登録が出来なくなる。
そして、何事もイレギュラーな事態と言うものがある。依頼を失敗したとしても、ギルドの担当と審議の上その冒険者の過失でないと認められれば、今回の依頼は受けていない扱いに出来るのだ。
例えば魔物討伐の依頼を受けて現地に赴いたとしても、既に通りすがりの冒険者によって討伐されているなど稀にある事だし、依頼者が作物などの被害を魔物が居ると勘違いしてしまい、結局探しても魔物が見当たらなかった事などは冒険者の過失に当たらない。
その冒険者が虚偽を言っていないかどうかは、真実を判断出来る『真理の輪』と言う魔道具を首に嵌めた状態か、あるいは1時間真実しか口に出来なくなる『潔癖の魔水』という飲み物を飲んでから質疑応答が成されるのですぐに分かるようになっている。
ギルドが開発した非常に貴重な魔道具なので、そうそう簡単に使用許可が出るものではないが、もしそれで悪質な虚偽があることが分かれば、最悪の場合ギルド登録資格を剥奪される事になる。
資格剥奪とは犯罪者になる訳ではないが、ギルドはどの国にも属さぬ自由を掲げている分、信用問題には少々厳しい。
一度剥奪されれば何処へ行っても登録が出来なくなるので、個人で仕事を見つけるしかない。
ギルドを通さない新規の仕事はお互いに信用度が不透明なので、普通の仕事を見つけるのは苦労する上に、ギルドから身分証を剥奪された事が明るみに出れば仕事を任せようという者が居なくなるので、下手な犯罪者より生きていくのが難しくなるのだ。
そうなれば盗賊などに身を落とす者も少なくなく、そのまま隠れながら生きるか冒険者に討伐されるかの人生だ。
依頼は自分のランクを問わず何でも受けられるが、自分より下のランクの依頼を失敗した場合は依頼料の1割を、同ランクは2割を違約金として支払わなければならない。同ランクでさえ危険が伴う職業なので、ランクが1つ違えば命を失う事もありえる。
その為無闇に依頼を受けないよう上のランクからは違約金が上がり、1つ上のランクは依頼料の全額、2つ上は二倍の違約金を支払う事になる為、よっぽどの愚か者でなければ無茶な依頼は受けないという。
ここのギルドは建物に入って正面にあった掲示板に依頼が貼り出しており、そこから受けたい依頼の紙をカウンターに持ってきて手続きをする。
期限が設けられているものがほとんどで、その期限までにギルドに報告が出来なければ失敗とみなされるので注意した方が良いだろう。
そして依頼の完遂に冒険者の態度は関係ない為、粗暴な者がかなり多いのもまた困った事実だ。そんな者が多い職業なので、冒険者同士の揉め事には基本的にギルドは不介入となっている。
無意味な殺人は流石にギルド資格を剥奪されるが、正当防衛で殺してしまった場合はお咎め無しだ。
もしも一般人と争った場合は過失のある方に罰が下る。冒険者ならば国とギルドから罰を、一般人なら国からのみ罰がある。
魔物の討伐の場合はそれぞれ討伐部位があり、それを持ち帰ることで討伐証明になる。その他の部位は冒険者の自由だが、もしもそのまま捨ててくるならマナーとして死体は燃やす事を推奨している。その死体に誘き寄せられた新たな魔物が出てくるからだ。
魔物の素材や鉱物などの売買はギルドでも町でも行っているが、ギルドでは常に公平な価格であるのに対し、町では稀に騙される事もあるので目利きが出来ない冒険者はギルドを利用することが多い。
Cランク以上にはささやかな特典があり、ギルドに物を売却する場合は金額に1割上乗せされ、買う場合は1割引となる。ギルドで提携している町の宿でも、カードを見せると1割引かれるようになっているようだ。
全ランクにある特典としては、カードを見せれば練習や模擬戦に使う広大な闘技場をいつでも使う事が出来る。
ギルドも闘技場も、夜の間でも開いている。魔法の練習をする場合でも闘技場が壊れないように結界を張っているので多少は無理をしても大丈夫だが、他の使用者に攻撃が当たると大変なので、十分注意しなければならない。
また有料で魔法や剣の指導をして貰う事が出来るが日によって内容が違うので、貼り出してある予定を自分で確認する事が必要だ。
「なるほど、だいたい分かった」
「こんなに詳しく説明したのは初めてです………」
何度も質問しながらギルドについて粗方把握した春澄は満足そうにしているが、誰でも知っていそうな常識も説明させられた受付嬢のテリアは喋り疲れたようで、小さく息を吐いている。
「他に質問はありませんか?」
「どの魔物が売れるとか、討伐部位なんかがまとめて書いてある物は無いのか?」
「ございます。全ての魔物について書いてある訳では無いですが、貸し出しもしていますし、2000ペルで販売もしてます。それほど厚くないので結構皆さん買われます」
「じゃぁ1冊売ってくれ」
先日はゴブリンなど売れないだろうと勝手に思い捨ててきてしまったが、意外な物が売れたりするかも知れないと思い、いつでも確認出来るように買う事にした。
後でそれを見た春澄はやはりゴブリンに価値など無い事を確認したのだった。
お読みいただきありがとうございました。




