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11.メランジュ王国へ

メランジュ王国に着くまでの間、護衛も見当たらない高級そうな馬車を良いカモだと狙いをつけたのか、途中もう1度盗賊に襲われたが、Bランクの盗賊をあっさりと無力化した春澄にとって、その辺の盗賊を倒す事など朝飯前だった。


馬車の中から探索(サーチ)を使って敵の位置を把握し、馬車から降りる事無く絡みつく蛇(コイル・スネーク)で8名居た盗賊を捕らえる。

また地魔法で檻を作りその辺に放置しておいたが、そのうち報告を受けた警備隊か何かが回収しに来るだろう。

隊長達は春澄が涼しい顔で流れ作業のように魔法を操る精密さと便利さに、感心を通り越して呆れてしまったが、実は素手で対戦したとしてもあっさり勝てたと知ったら、その万能さに更に驚くだろう。


まだ見たことの無い春澄の実力をその目で見るのは、後日行われる騎士との対戦の場での事だ。






国境に着いたようで、白いレンガで造られた巨大な門の前で国境警備に馬車を止められる。

数人居る警備隊のうちの2人が中を検めようと馬車を覗き、驚いた声を上げた。


「これは隣国の!少し前にここからバラク国へ入国されたばかりの筈でしたが、どうされましたか?それに他の騎士の方々は…」


(……ん?)


兵士の言葉に何か違和感を覚えたが、今は春澄が口を開く時では無いので黙っておいた。警備隊の言葉にジオルネスが答える。


「盗賊に襲われてね。馬も逃げてしまって情けない事にこの様だ。近くの警備隊に連絡しておいたから、盗賊は回収されていると思う」


それを聞いた警備隊の兵士はすっかり青ざめてしまった。他国の王族が自国で襲われたなど、友好にひびが入るどころか最悪の場合、こちらが情報を流しメランジュ王国の王族を襲わせたなど思われて戦争に発展しかねない事態だ。

実際今回の件は全くの偶然で、かの盗賊団は他国の王族を襲ったという認識は無かったのだが、そんな事は問題ではなかった。


「な、なんと…それで、国王様にお怪我は…他の皆様は………」

「大丈夫だ。運よく彼に助けてもらった」

「そ、そうですか…本当に、何と申し上げて良いのか…早急に我が国の王にも報告させていただきます。大変申し訳ありませんでした!!」


青ざめたまま兵士は深々と頭を下げた。異変を察したのか、門の向こうに居た別の兵士が2人走って来た。

国境とは当然2つの国の境であり、常にそれぞれの国の警備隊が門を隔てて自分の国の側に常在している。その為国境を越える時は人や物を2回審査される。審査と言っても、身分証の名前が犯罪者と一致してないか、怪しい者や不審な物を運んでいないかなどを調べるだけだ。

友好国であろうと、危険思想を持つ者も少なくはないので、素通りさせるわけに行かないのだ。何事もある程度の警戒は必要である。

本来なら彼らがこちらに来ることは無いのだが、止まっているのが誰の馬車なのか察して待ちきれなかったらしい。


「うちの陛下の馬車だよな。どうしたんだ?」

「他の護衛はどうされました?」


先ほどの兵士と同様の疑問を述べながら馬車に近づく。

盗賊に襲われた話を聞き、焦って国王達の無事を確認してくる自国の兵士に、国王は苦笑しながら直々に声をかけた。


「心配をかけたな。私たちは何とも無い。怪我を負った騎士には近くの町に頼んで迎えをやってあるし、幸い亡くなった者は居ない。彼に助けてもらったのだが、城まで護衛を頼んだのだ。このまま通してくれ」


国王の言葉で、兵士達は見慣れない服装の男が居る事に初めて気がつく。その男を見た兵士は揃ってこう思った。

『武器を持ってはいるが強そうでも無く、魔法使いなら逆に武器を持つ必要も無い気がするが、この男が護衛で大丈夫なのだろうか。しかもホーンラビットなんか連れてるし』と。

もちろん口には出さない。だが国王たちが無事で居るのは事実なので、兵士達はほっとした。


「そうでしたか。陛下や王女様方がご無事で何よりでした。王都までまだ距離がありますので、どうぞお気をつけて」

「うむ」


こうして、春澄は無事メランジュ王国へ入国する事が出来たのだ。






先ほど感じた違和感の正体を後から聞いてみると、どうやら春澄が転移(テレポート)した山脈はアルカフロ王国のものではなく、バラク国のものらしい。


その昔、アルカフロ王国とバラク国が戦争になったが、8割がた負けるだろうと予想したアルカフロ王国側が、一番鉱物が採れるという一帯を明け渡す事で戦争を終結させたのだという。その為メランジュ王国とアルカフロ王国の境に細長く割り込む形でバラク国の領土が出来たのだ。


道理で国境でバラク国の名前を出された時、おかしいと感じたはずである。

身分証を持っていない春澄がアルカフロ王国だと認識しつつ、バラク国に居たと言う事態に馬車の中はまた騒がしくなったのだが、面倒くさがった春澄が『移動をちょっと楽しようと思って転移(テレポート)した』と話すと、真剣な顔をしたディアス王に『その事は軽々しく他人に言ってはならない』と注意を受けた。


春澄の予想通り、一般的に現在地と目的地の両方に転移魔法陣を置かなければ移動は出来ず、見える所や行った事がある場所に、簡単に転移するなどありえない事のようだ。

やはり人目を避けていて正解だったなと春澄は思った。






馬車で移動して3日目。ついにメランジュ王国の王都にたどり着いた。

道中、夜は大分早い時間に大きな町で高そうな宿を取っていたので、移動時間に限りがあり、春澄の予定より少々のんびりになってしまった。が、春澄が1人で正しく王都に辿り着けたかどうかを考えると非常に早い到着だったと言えよう。


王都の門は今までの町の検問より厳重な気配がしたが、やはりここでもディアス王が顔を見せるだけで簡単に通過する事が出来た。

馬車の窓から見える街並みは中世ヨーロッパにほど近い様子で、赤茶色の屋根に漆喰の壁の建物が並んでいて、中々雰囲気が良い。沢山の人も歩いていて人々の服装まではヨーロッパ風ではないが、一般の女性はワンピース、男性は生成りのシャツと濃い色のズボンが多いようだ。冒険者は多少なりとも武装しているので分かりやすい。

ちらほらと派手な格好の者も混じっているが、貴族かただの金持ちだろうか。

しかし、後で街を見て周ろうと思っていたが、先ほどから食べ物屋らしきものがあまり見当たらない。


「何か面白いものでもありましたか?」


春澄が外を観察していると、リディアが話しかけてきた。


「食べ物屋が見当たらないなと思ったんだ」


今回の護衛の最中で、春澄のリディアへの苦手意識は大分薄れていた。

押せば押しただけ春澄が引いていく事を察したリディアが作戦を変えてきたのだ。引くのではなく、押さないだけの作戦であるが、普通に接してくるのであれば春澄には十分だった。

薄れただけで、まだそれほど好意的にはなれないが、この短時間でマイナス感情を減らせる手腕は流石王族と言ったところだろう。観察眼と強かさではリディアの方が断然上だった。


「それでしたら、一つ向こうの区画にありますわ。この通りは主に雑貨や魔道具などを扱う店が多いです」


一緒に街を歩きませんかと誘いたいのを抑さえ、リディアは質問の答えのみ返した。断られるのは明らかだったからだ。


「春澄君、もうすぐ城に着くが、このまま今日は城に泊まって行かないかね?美味い飯もあるぞ」

「…いや、それより早くギルドに行ってみたい。どんな所か興味があるし、これから暫く泊まる宿も探したいからな」


ディアス王の飯に少し釣られそうになりながら、春澄は本来の目的を優先した。

ギルドに興味があるのも本当だが、召喚陣の反応を追っていたら他国にも行くだろうし、早めに身分証を作らなければ行き来が面倒になる。


「では、護衛の依頼は城の門に着いたら完遂という事にしよう。グレンを案内につけるから、一緒にギルドまで行くと良い。少し待っていてくれるかな?」

「わかった」


城に着きグレンを待つ間通された客間で、春澄はアルカフロ王国で出されたものより更に美味い茶菓子を堪能しながら待っていた。

ストレートの紅茶の横にたっぷりのミルクと砂糖が用意され、隣には5段の豪華なケーキスタンドが用意されている。下2段には一口サイズに切られた数種類のサンドイッチ、3段目にベリー系の果物と、スプーンに乗った一口サイズのつるりと丸い半透明の不思議なもの、その上には柑橘系の果物が練りこまれたパウンドケーキとバターの風味が豊かなクッキー、ナッツが練りこまれたスコーンが綺麗に盛り付けられている。


頬を染めて春澄の事をそわそわと気にしている侍女に気づかず、ユキを膝に乗せて一緒に嬉々としてそれぞれの食べ物に手をつけていると、真っ白の騎士服に着替え迎えに来たグレンが入室して来る。

春澄はグレンの登場に、もう少し遅くても良かったのにと思ったが、表情に出ないのでグレンは春澄の心情には気づかなかった。


「お待たせしました。ギルドへご案内します」

「……ああ、頼む」


名残惜しそうにケーキスタンドをちらりと見た後、グレンに続いて部屋を出た。

先ほど侍女の熱い視線には気づかなかった春澄だが、城内での侍女や兵士達からの視線と、城を出てからも続くさまざまな視線には少し鬱陶しく思い始めていた。


「やっぱりここで着物じゃ目立つか…」

「そうですね、服も珍しいですが、春澄殿の容貌も非常に目を引きますからね。その服は着物と言うのですか?」


グレンはあえて春澄の頭の上の存在には触れなかった。


「こういう服は全く見た事はないのか?」

「見た事はないですが、自分はあまり服に詳しくはないので、知らないだけかもしれません」


確かに大柄で生真面目そうなグレンは、服の種類など見るからに興味を持たなそうな外見ではあるが、他の者も和服を見た事がないのは向けられる視線から明らかである。

見る方にとっては『珍しいな』『ずいぶん綺麗な青年だな』などと一瞬見ただけなのだが、春澄にとっては百の視線だ。春澄は努めてあまり気にしないようにしながら歩いた。


しかし、メランジュ王国は異国の服装の者も多々居る。その為普段ならこれほど人目は集めないが、今回の場合は春澄の頭の上の存在と、目立つ騎士服姿の190cmはある大柄なグレンが目を引き、その流れで春澄の服装や容貌などにも目が行ってしまったのだが。






建物の壁は白色系が多い街並みの中、赤茶とオレンジのレンガで立てられたその建物は遠くからでも目を引いた。

交差された剣に乗るようにお金の絵が描いてある看板が、入り口の上に大きく飾られていて、重そうな鉄の扉は常時開かれているようだ。グレンに続いて中に入るとやはり好奇の視線が寄せられる。


入って左側は木製のテーブル席が並んでおり、食堂になっているようで何人か騒がしく飲み食いをしていた。

正面に掲示板が立っていて、右にある役所のようなカウンターと食堂を隔てているようだ。グレンは迷わず右に向かい、6席あるカウンターのうちの1つに向かった。


「あら、お久しぶりですグレン様。どうされましたか?」


こげ茶色の髪を胸元まで真っ直ぐ伸ばし、キリッとした表情の秘書のような美女がメガネを押し上げながらグレンに挨拶をした。


「今日は事後依頼と完遂、それから彼のギルドの登録に来ました。これが紹介状です」

「拝見いたします」


春澄を見て驚いた顔をしたものの、すぐに仕事の顔になった。

しかしグレンから渡された物の署名を見て暫く固まり、少々お待ちくださいと言うと焦ったように奥へ引っ込んでしまった。


「…何を渡したんだ?」

「陛下からのギルドへの紹介状です」

「だからあんなに焦ってたのか」


国王陛下からの紹介状など、一介の受付嬢には開けることが出来ないのだろう。それを開ける事が出来る上の者に渡しに行ったのかもしれない。

あまり待たされないと良いなと思ったが、受付嬢は数分で戻ってきた。



お読みいただきありがとう御座いました。

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