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悪魔の住む石  作者: Aino
7/16

衝撃の事実

梨乃が再び長野に帰ってから2、3日たつ。

「来週の授業までにこれをやっときや。…今日は終わり。解散。」

亜希の通う塾は、学校の予習、復習、学力向上専門の塾だ。亜希はあまり勉強が得意ではない。だから、母の彩子が入塾させたのだ。勉強の嫌いな亜希は、もちろん塾も好きではない。亜希は、やっと終わった、と思いながら塾を出た。外は梅雨のジメジメとした熱気と繁華街の人混みの熱気で、むんむんと暑苦しい。また、明るいネオンがチカチカと光って、疲れた亜希をますますいら立たせる。

いつも通りの道。だが今日はいつもよりお腹が空いていた。だから、少し早めに歩く。

…が、亜希は足を止めた。前から歩いてくる男…それは見覚えのある顔だ。

(梨乃のお父さん…!?)

それは、あの、まぎれもない村田優也であった。亜希は、優也とすれ違ったあとすぐにくるりと向きを変えた。亜希の得意中の得意、尾行である。

(横の女の人、誰…?)

優也の隣には、謎の女が寄り添っていた。雰囲気からして、2人は恋人のようだ。

亜希はすぐさま鞄の中からシャープペンシルとメモ帳を取り出した。そして、携帯電話のモードをボイスレコーダーに切り替える。

「じゃあ、奥さんは亡くなられたんやね。」

女の声だ。高くて可愛い声をしている。年は、20代前半といったところだろう。

「そうや。だからもう心配せんでもいいで。ちょうど良かったわ。…そういえばリカ、同居はいつにする?」

亜希は愕然としたが、静かに聞き耳を立てた。そして、メモ帳に「リカ」と書く。

「うーん、来週の頭くらいから?優ちゃんは何か都合悪い?」

同居も忘れずメモする。

「そうやな。うん、そうしよう。来週からな」

優也はそう言った。リカという女は、うん、と幸せそうに笑う。

「ねぇ、それより、優ちゃん子供いるんやろ。その子、引き取らへんやんな。私、嫌やで。自分の子供じゃないねんもん。」

自己中心的で薄情な女である。

「引き取らへんで。おかんが引き取ってるから。っていうか、そもそも子供なんていらんし。邪魔なだけやん。」

亜希はまたもメモしようとした。でも、書く内容が、あまりにも残酷すぎて、シャーペンが動かない。そして、梨乃のことを考えると胸が痛くなる。

そんな時、亜希の携帯電話が鳴った。亜希はちっと舌打ちして携帯電話を耳にあてた。

「はい。」

「亜希!?遅いやん!何してるん?」

亜希の母、彩子だ。彩子は極度の心配性である。

「あ、うん。ちょっと授業が延長しちゃってん。すぐ帰るから。」

亜希はとっさに思いついた嘘を口走った。

「そうなん。早よ帰って来てや。気ぃつけて。」

電話が切れた。亜希はすぐに携帯電話を鞄に入れた。そして顔をあげた。…が、

「おらん…?」

亜希が電話している間に、優也とリカという女は消えていた。亜希ははぁ、とため息をつき、人混みをかき分けて歩く。

(これを梨乃が知ったら…!?)

亜希は、混雑した駅前の車道を抜けて細い路地に着いた時、しゃがみ込んだ。あの時…豪邸の玄関から真っ赤に腫れた顔をして出てきたときの梨乃を思い出し、目から涙が出そうになる。

今日は、大阪の方の明かりで星は1つも見えない。見えるはずの天の川もである。亜希は暗い空に肩を落とし、とぼとぼと歩いた。

「お前、如月(きさらぎ)亜希?」

急に名前を呼ばれた亜希は、ビクッとふり返った。

「あっ!も、もしかして、早水先輩…?」

梨乃の幼なじみ、千都世だった。今や、早水千都世の名前を知らないここの辺りの人はいない。なぜならば、彼は中学の中で最も成績が良く優秀な生徒で、部活のサッカーのエースストライカーであり、近畿大会を突破したからである。また、顔が人気歌手のように格好良く、スタイルも抜群だ。さらに、誰にでも優しく、文句無しの性格なのだ。

「うん。早水千都世やで。お前って、村田梨乃の親友やんなぁ?」

「は、はい。でも、梨乃は長野の山奥に引っ越したんです。色々あったんで…。」

千都世に憧れていた亜希は、顔が真っ赤だ。声が自然と高くなる。

「それは知ってる。母親が殺されたんやんな。それで、今お前誰かの後つけてきたやろ。」

亜希は唖然とした。なぜ、亜希が尾行をしていたことを知っているのか…亜希の疑問が分かったように、千都世はちょっと笑った。

「新石切でお前見つけたから、尾行してた。」

亜希は何も気づいていなかった。でも、憧れの千都世先輩に尾行されていたのは、いい気分だ。

「調査結果分けてくれへん?俺も事件のこといろいろ調べようとしててん。だからさ、共同作業でやれへん?」

千都世は真剣な表情で話す。幼なじみの梨乃を思う気持ちが、表情に浮かんでいる。亜希はすぐさまうなずいた。千都世は、爽やかな笑顔で「ありがとうな」と言った。

「あ、ケータイ持ってる?」

千都世が訊いた。

「あ、はい。持ってますけど…」

もしかして…亜希は、胸の鼓動を感じた。

「どんなん?スマホ?スマホやったらLINEで連絡とろうや。ガラケーやったらメールでも。」

千都世は、自分のスマホをポケットから出した。最新式のiPhoneだ。

「あ、私もスマホです。登録しますね。」

表面では冷静に装う亜希だが、裏はメロメロになっている。亜希は、千都世を友達登録してから、千都世と別れた。そして、千都世が颯爽と去っていくの横目に見ながら、飛び跳ねて帰った。(これを状況の知らない他人が見たら、変人だと思うだろう)

「亜希!遅かったじゃない!」

突然聞こえた彩子の怒鳴り声。亜希は、やっと我に返ったのだった…。


「昨日…、重大で衝撃的な出来事と、それと同時に重大で素晴らしい出来事があってん!みんなよく聞くんだ」

学校の中休みの時間、亜希の話が始まった。いつものメンバー、奈々絵、小夏、蒼璃は、亜希の席に身を乗り出す。

「なんなん〜!?素晴らしい方からしゃべってぇや。」

小夏がワクワクしながら言った。亜希は、コホン、とせきばらいをして話し始めた。

「まずは最後まで聞いて。昨日、塾から帰る途中で、早水千都世先輩に呼び止められてん!それで、共同作業で梨乃のお母さんの殺人事件のこと調べようって。私は、まあ当たり前やけどOKしたら、LINEで友達登録してくれた…っていう話。」

亜希は一気に話した。

「えぇっ!それ、早水先輩と近づくチャンスじゃん!すごいよ!亜希、でかした!」

小夏は小さく拍手した。奈々絵、蒼璃も亜希の功績を讃える。(亜希はただメロメロになっていただけなのだが…)

「やばやばっ!早水先輩と喋ってみたいー!」

「あの人ほんまパーフェクトやんなぁ!」

「彼女おらんって噂やしな。」

亜希たちの女子トークに花が咲いた。

でも、すぐにチャイムが盛大に鳴り響いて、少女たちは慌てて座った。

さきほどの話よりももっと重大な話はすっかりと忘れられていたのだった…。

*(後々亜希が気付いてことを説明したが。)


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