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悪魔の住む石  作者: Aino
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暗闇の暗殺

暗闇で静まり返った学校の近くの路地に、コツコツ…と1つの足音が不気味に響く。もう真夜中、午前0時を少し過ぎていた。

何者かの陰は、校門で止まった。そして、校舎から足音がして誰かが現れた。2人は、ヒソヒソと話し合っている。

「キャアーー!」

突然悲鳴がした。1つの陰はばったりと倒れ、バタバタと2つの陰が逃げ去ってゆく…。


梨乃は、午前5時頃目覚ましアラームの音で目が覚めた。体中汗でぐっしょりだった。変な夢を見たのだ。黒ずきんをかぶった何者かが突然笑い出し、灰色の大きな物体の中に入っていくという…。梨乃は嫌な予感がした。

「お母さん…。」

梨乃は起き上がって、いつも母の美智子が寝ている部屋に行った。…ところが!

「お母、さん…!?」

布団はぬけガラだった。跡形もなく美智子は消えている。

「お母さんっ!どこにおるん!?ねえ!」

梨乃は広い豪邸をただひたすら走った。応接間のドアも、和室のふすまも、倉庫の扉も全て開け放した。だが、どこの部屋も暗く静まり返っていた。梨乃は疲れ果てて、廊下にへなへなと座りこんだ。

「なんで…、お母さん…?」

ふと窓の外を見ると、空が不気味な紫色に染まり、薄い雲がどんよりと広がっている。清少納言の「春はあけぼの…」という文章など、嘘のようにしか聞こえないほどだ。

「お母さん、どこにおるんっ!?」

梨乃は不気味な空にむかってそう叫んだ。その声は、…だだっ広い豪邸にこだまするだけだった。


梨乃の母、美智子は学校の門の前で倒れているところを発見された。胸には、刺されたような傷跡があり、辺りには血が飛び散っている。警察は、野次馬(ほとんどが世間で言う「オバちゃん」という者である)を抑えて現場検証にあたった。一方、学校側は今回の事件には一切関与していないと言い張り、また、事件の起こった通用門の反対側にある正門から児童を登校させると結論を出した。

梨乃は、祖母のたえ子から母の死を聞かされた。たえ子は母方の祖母で、近所に住んでいる。

「美智子…。なんで私より先に…。美智子を殺した奴を呪ってやるわ…。」

たえ子は村田家の広いリビングの床に倒れこんだ。梨乃もソファーに顔をうずめる。

「梨乃!」

突然梨乃の父、優也が帰宅した。優也は大手企業の社長で、朝早くから大阪市の此花区に出勤する。優也は此花に着いてから電話で美智子の死を知り、急いでここ東大阪の端、石切に帰ってきたのだ。

「お義母さんも…、ありがとうございます…。梨乃!お前は長野のおばあちゃんちに行くから、早く準備してっ!」

優也はそう言って自分の部屋に入った。

「えっ!?なんで?お母さんの方のおばあちゃんじゃあかんの?」

梨乃は言った。近所にいる祖母ではなく、なぜわざわざ遠くにいる祖母を選んだのかが分からなかったのだ。

「ごめんねぇ…。梨乃、私は体の調子が近頃悪くなってきてん…長野のおばあちゃんなら元気やし、山の中だからきれいな自然で心も休まると思うから…」

たえ子は残念そうに言った。また、たえ子の夫、つまり梨乃の母方の祖父は何年か前に心筋梗塞で倒れ、今は故人となっている。だから、梨乃を育てることができるくらいの体力がある身内は、長野にいる優也の母-ヤスエしかいないのだ。

「そんな…、学校は…?」

「長野の小学校に行くしかないなあ…お友達と別れるのは悲しいやろうけど、このことは受け止めやなあかんねん、梨乃。」

梨乃は唖然としてたえ子を見た。亜希や奈々絵、小夏、蒼璃とはもう会えないかもしれない。

「梨乃ぉ!学校遅れるでーー!早く!」

いつも通りの亜希の声。亜希はまだ梨乃の今の状態を知らないのだ。梨乃は涙を拭いて玄関へと走った。

「り、梨乃…!?」

亜希は、出てきた梨乃の顔を見て驚愕した。目の下には黒々とクマができていて、また、顔が赤く腫れ上がりやつれた様子だ。

「お母さんが…!」

梨乃は、美智子が殺されたこと、長野に引っ越すことを亜希に全て話した。そして、逃げるように亜希の前から姿を消した。亜希は、苦い思いでいっぱいだった。

(梨乃のお母さんを殺した奴をつきとめて捕まえてやるわ…。)

亜希はそう決心し、学校に向かった。


「梨乃。実は…、お父さんの会社、つぶれてん。」

荷物を片付けて休憩していた梨乃に、優也が話しかけた。

「えっ…、じゃあ、ここの家…。」

「ああ。もう売った。お父さんは、また頑張って会社を立て直そうと思ってんねん。だからそれまではアパートの一室を借りて、貧乏暮らししやなあかんくなる。梨乃は、そんな狭い所には住みたくないやろ…というか、住ませたくないねん。だから、長野のおばあちゃんちに行く方が良いと思って。」

優也はそう言ってから大きくため息をついた。

「ごめんなさい。そういうこと…。」

梨乃はボロボロと涙を流した。隣ではたえ子も号泣している。

「梨乃、長野でも上手くやってな。頑張ってな。」

優也が言った。梨乃はうん、とうなずいた。

優也は転校の手続きをしに学校へ、たえ子はたくさんの荷作りをして疲れていたため、一旦家に帰った。

梨乃は、外に出て今までずっと住んできた家を見上げ泣いていた。もうすぐ梅雨の季節なのだが、空は青く、太陽がぎらぎらと光る。

「さよなら…石切…」

梨乃はつぶやいた。もはや梨乃たちのものではない、売り払われた豪邸は何も答えてくれなかった。いつもは華やかに見えた壁は暗くなり、いつもは明るい窓も今日はゲッソリとしている。

「ねぇ、一体何が起きたの?お父さんとかお母さんに何があったわけ?」

梨乃は活気の無い豪邸の前に座りこんだ。誰も彼女を優しく包み込んでくれる者はいない。今まで彼女を支えてきた家、風、空…誰も相手にしてくれない。5年前の事故で、彼女が倒れた時のように。あの時には救世主が現れたが、今回はいっこうに現れない。


梨乃は、この次の日の朝早く、後ろ髪を引かれる思いで石切を去った。

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