暴露実行
「…ということは、殺した犯人は?」
奈々絵が問いかけた。亜希は少し考えてからこう言った。
「まだ分からない。でも、早水先輩は、『ムーラフィー教っていう宗教による殺人だろう』って言ってたわ。まだ警察には知られてないけど。」
小夏も、うんうんとうなずく。
夏休み1日目の今日は、亜希の家で事件についての会議だ。もちろん蒼璃は塾の夏期講習で、亜希の家には来られなかった。
「ムーラフィー教の教祖って…、梨乃のおばあちゃんなんかなぁ…、『先生』やもんなぁ。」
奈々絵が言った。すると、亜希が立ち上がった。
「今の段階でこの事件の真相を警察に通報しても、何の証拠もないからアテにしてもらえへんわ。だから、…この夏休み中に八ヶ岳にある宗教要塞に行こうや!ちょっと大人っぽい格好して。絶対に証拠を作り出せるって!」
そう言って奈々絵と小夏を見る。2人も立ち上がった。うん、とうなずく。
「日時は7月30日水曜日、じゃあ、石切駅の北口で朝7時に待ち合わせでいい?」
亜希がスケジュール帳を見ながら言った。奈々絵も小夏も予定はないようだ。
「じゃ、頑張ろう!」
小夏が拳を握りしめて言った。亜希、奈々絵も大きくうなずいた。
「よし、行こう!」
7月30日水曜日、3人は予定通り集まった。石切から大和西大寺、京都、名古屋で乗り換え。そしてやっと松本に着く。松本からも乗り換え、無人駅を通る電車に乗る。だが、里帰りの人が多く、案外人は多かった。
「ここやったと思う。」
駅から出ると、そこには畑が広がっていた。老若男女問わず多くの人が畑仕事をしている。夏休みだからだ。
「なぁ〜、まだ〜?、あぢぃ〜!ちょっと休もう〜!」
最初にしびれを切らしたのは小夏だ。小夏という名前なのに、彼女は夏が嫌いだ。
「…、じゃあ、ちょっとだけ休もっか。」
亜希が木陰に腰をおろした。奈々絵と小夏も座り込む。
「時間余ったら梨乃んち行こうや!ウチらも会いたい!」
水分補給を終えた小夏が言った。奈々絵もうなずく。
「うん!そうしようっか!じゃ、早よ行こう!」
もうお昼前だ。3人のお腹が一斉に鳴る。だが、お腹の空きは、3人の好奇心には敗北してしまうのだ。少女らは、歩くスピードをドンドン早めた。そして…、
「先生と奈緒のお母さん、ここから入って行ってん。」
そこには、八ヶ岳登山道入口と記してあった。まだお昼前なのに道は暗い感じがする。
「行く、か…」
ぞぉっとするのを抑えて、亜希たちは登山道に入った。山に入ったため、少しヒンヤリとする。
「どんなけ歩くん…。」
登山道入口から5kmくらい歩くと、看板が見えてきた。
「『八ヶ岳頂上展望台、キャンプ場、ムーラフィー宗教団体』やって。こっちで合ってるみたいやな。」
奈々絵が言った。だが、なぜか「ムーラフィー宗教団体」という文字を見ると、どことなく不気味だ。白いペンキで書かれている。
「進もう。」
亜希を先頭に山を登る。今ちょうど正午を過ぎた頃だ。3人は歩き続けた。
「ここ…?」
ムーラフィー宗教団体とやはり不気味に書かれた、薄汚れた小さな看板が建物の前に立っていた。建物は小さく、2階もないぐらいの小ささだ。壁は薄汚れている。
「行、く…?」
亜希たちはだんだんと怖くなってきたようだ。寒くもないのにガタガタと震える。
亜希は、ドアをそっと開けた。忍び足で中に入る。奈々絵と小夏もついていった。
…中からは何の音も聞こえない。亜希は思い出した。宗教団体は、時間にならないと来ないのだった。それは、確か午後3時頃だった。今は午後12時40分。とても時間がある。亜希は、2人に合図して一旦外に出た。そして、草むらの中に隠れる。…と、その瞬間、
「誰か来るっ。」
小夏が知らせた。3人はサッと身を伏せる。
「皆の者よ。今日から夏休みである。それゆえ、信仰開始時刻を午後1時とする。よいな。」
教祖らしい老婆が教徒たちに指示をする。教徒は地面に座り込み、「承知いたしました!教祖様!」と言い、土下座と似た行為をする。そこには、女しかいなかった。亜希がそっと覗くと、奈緒の母、咲子も交じっている。そして、教祖らしい老婆の顔は…、梨乃の父、村田優也に似ていたため、梨乃の祖母だと見当がついた。
「では、入るが良い。」
教徒たちは、ゾロゾロと入っていく。亜希たちは、草むらから抜け出し、教祖の方に走り寄った。
「教祖様…、えと、私達、宗教の体験で来ました…。な、中に入れてもらえますかね…」
緊張したのか、亜希の声がかすれた。だが、教祖はうなずき、
「入るが良い。」
と言った。亜希、奈々絵、小夏の順に入る。そして最後に教祖が入った。
「わしについて来るが良い。」
教祖はそう言って、前を歩いた。1番後ろの小夏は、通った各部屋に、素早く超ミニ型監視カメラを目につかないように取り付けて行く。
そして、亜希たちは1番奥の部屋に通された。小夏は、後ろの彫刻を見るフリをしてカメラを設置する。
「○○××△¥△□&€□◇@¥$◇&%%!」
急に呪文みたいな儀式が始まった。教祖はじっと座っている。教徒たちは、変な舞を踊りながらわけの分からない言葉を口走る。まるで、酒に酔った人のようだ。すると教祖は、そばにあった引き出しの中から、重たそうな石を取り出した。不気味に黒ずんでいる。
「○×△&@-□◇◇&¥$|%#€○××△△@%!」
教祖は喚き立てながら石をさすったり押さえたりして、1分間くらいそれが続いた。亜希たち3人は吹き出しそうになるのをこらえて正座している。
「体験のもんよ。あとで説明するもんで、玄関からじきの部屋で待て。」
教祖はそう言った。これからは見られてはいけないことをするのだろう。亜希たち3人は速やかに退室した。カメラがあるから見ておかなくても大丈夫だ。カメラを外す時には、「もう1度部屋を見たい」と言えばいい。
ジメジメした部屋には、暖かい日差しが差していた。




