秘密の数字と禁断のアルファベット
「今日は、バトミントンクラブの朝練があるから!行ってきます!」
亜希は、そう嘘をついて家を飛び出した。母の彩子は、半信半疑で亜希を送り出した。
「そういえば…」
小学校の門は、7時30分からでないと開かないのだ。亜希は、門の前でため息をついた。今はまだ7時過ぎである。
「あれ、まだ門開かへんで。」
用務員の林さんが、門の前で待っている亜希を見つけて言ってきた。
「あ、ごめんなさい。今日は教室で予習と復習をしたかったので早く来てしまったんです。」
まるっきりの嘘だ。亜希は、「反省の顔」を必死でつくった。
「そうなん、感心やなあ。じゃあ、今日は特別に門を開けたげるわ。…先生には内緒やで。」
用務員の林さんは、亜希の嘘を見抜けなかったようだ。
(ラッキー。林さんに感謝!)
亜希は、「ありがとうございます」と、一応言っておいた。(優等生ぶるためである)
「6年A組…やね。教室の鍵を渡しとこう。はい。」
「ありがとうございます」(優等生になったつもりの亜希の発言)
長い足を使って、階段を2段とばしで上り、亜希はやっと教室に到着した。
(えーっと、どこに入ってたんかな…。)
引き出しを次々に開けて行く。だが、なかなか見つからない。
(次最後やけど…)
亜希は、最後の引き出しをそぉっと開…が!
(鍵かかってる!?)
最後の引き出しには、鍵がかかっていた。よく見ると、小さな4連のダイヤルがついていた。
(ああ!めんどくさいっ!もう何でもいいや!)
亜希は、まず現在担任の西田の誕生日「0928」を入力した。だが、引き出しは開かない。次に、前の担任、高野の誕生日「1014」。だが、引き出しはびくともしなかった。
(あーもう!)
何も思いつかない。ふと時計を見ると、もう7時30分になりそうだった。焦れば焦るほど頭が真っ白になっていく。亜希は、視線をダイヤルから外した…すると!
(サンキュー♡ムーミン…)
亜希たちが6年生に進級した時からあったポスターだ。今人気の「ムーミン」とその仲間たちが、原っぱで寝転がっている絵。亜希は、その絵が好きだったのだ。
(サンキュームーミン=さん、きゅう、む、み=3963…?)
亜希は、絶対にこれだ、と確信は持てなかったが、ダイヤルを3963に合わせた。すると!
「開いた!」
カチャリと音がして、最後の引き出しが開いた。やはり、ブレスレットはそこに入っていた。亜希はブレスレットをそっとハンカチで包み、引き出しを元に戻した。急いで自分の席に座る。すると、ガラガラッと教室の扉が開いた。
「あれっ、如月、早いやん。」
学級委員の仁川卓朗だった。亜希はふぅーと胸をなで下ろした。
「亜希探偵、よくやった!」
千都世が言った。今日は小夏も一緒である。2人は、泥棒亜希に盛大な拍手を送った。
「そのブレスレットがこれ。」
亜希は、そっとハンカチを広げた。中には、輝くパワーストーンのブレスレットがある。
「きれーい」
「キレイやなぁ。」
真っ赤なルビー色に、爽やかなサファイア色、そして清廉潔白なホワイト。おしゃれなフランスを連想させられる。
「ね、何か彫ってんで。」
小夏が気づいた。1番大きい赤のストーンに、アルファベットが彫ってある。
「EIJI&MICHIKO,I LOVE YOU」
「やばいで、これ。」
「え?」
「これじゃあ、梨乃のお母さんと高野先生が愛し合ってることになる…」
亜希が、顔を真っ青にして言った。だが、小夏はキョトンとしている。
「EIJIは『英治』。で、MICHIKOが『美智子』だよ!」
「あぁっ!」
梨乃の母の名前、それは美智子。小夏は、大きな目をさらに大きくした。
「でもそれ、やばいっていうかさ…。」
いきなり千都世が話し出した。
「前の担任の高野、二股ってことになるんじゃ…」
「あぁっ!…き、きもい…」
亜希と小夏は顔を見合わせた。
「ここから考えられることはつ。一つ目。高野英治と村田美智子の密通。二つ目。高野英治は、一度村田美智子と密通した。だが、何らかの事情があって赤口咲子とに代わった。何らかの事情というのは…」
「村田美智子の死!」
亜希と小夏は声を揃えた。
「そーいうことや。」
千都世はうなずいた。
「じゃあ、村田美智子を殺したという確率が高い人物は…」
…と亜希。
「赤口咲子や!」
小夏が大きな声で言った。千都世はまたもうなずいた。
「赤口咲子は、あの怪しい宗教に関わってるし、村田美智子が死んだあとに高野英治と交際。さらに、お金持ちな村田美智子に比べ、自分は借金だらけ。恨みということも考えられる。以上。…そんなところちゃう?」
千都世は、咲子について丁寧にまとめた。
「それじゃーさ、『ムーラフィー教』はあんまり関係してないんかなぁ。」
小夏がつぶやいた。亜希も「そうやんな」と相槌を打つ。
「ううん。関係してると思うで。宗教の教祖あるいは関係者である梨乃の祖母の村田ヤスエは、孫である梨乃にすごいつらく当たってるらしいから、そんな良心を持った宗教ではないはずやし。もしかしたら、赤口咲子と、同盟を結んだ『ムーラフィー宗教団体』の連合軍による殺人かもしれへんわ。」
亜希は圧倒されて千都世の説明を聞いていた。千都世の説明力、語彙力に感心したのだ。
「ん、そうそう、そーいうこと。」
小夏は、前から分かっていたような言い方をした。亜希が思わず吹き出す。
解決まであと少しである。亜希は、手に力を入れた。




