表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
二章
9/59

ログイン!!

「 GRRRRRRRRRRR!」

 

 凶暴なうなりを上げ、迫るゾンビ。

 いつものように攻撃的。目に入るものへ襲いかかってくる習性は変わらない……はず。

 だが、今はなぜか恐ろしさより哀愁を感じてしまう。


 たぶん、この市民Fタイプのゾンビくんが最後の一体だからだろう。

 さっきまで、仲間と仲良くうじゃうじゃしてたんだけどね。

 

「AAAAAAAAAAAH!」


 さて、ラスト一体、どうしますかね? 


「タクくん、ユー、やっちゃいなよ!」 


 ユズキさんの言葉でオレはホルスターから相棒を引き抜く。



      ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ――オレ、桜井タクトは、再びこの仮想空間にもどってきた。

 

 平凡な日常にもどって数日たち、それでも――、

 ゾンビと戦ったあの興奮が忘れられなかったからだ。

 

 ゾンビの大群(バタリオン)に囲まれたときの絶望感。

 そしてバタリオンをガソリンスタンドで爆散させたときの壮快感。 

 すべてが心地よい記憶としてよみがえり、いつの間にかオレはVR機ドリームキャッチャーをまた取り出していた。



 ――そして、リスタートしたのはログアウトした、あの警察署前。




「タクくん!」

 

 その瞬間、いきなり飛びつかれた。びっくりした。


 ていうか超密着です。

 そしてバトルスーツごしのエッチい感触は、あの日のままで――


「ユズキさん!」

「タクくん! 心配したんだよ! あれから、ずっとログインしないからさ。リベレーターガチャのショックで世をはかなんだのかと……」

「いえ、さすがにその程度では……リアルのほうもいそがしかったですし」

 

 うん、少しはすねてたけどな。


「そうか、よかった! またいっしょにゲームできるね!」


 ユズキさんはまぶしい笑顔を見せた。

  

「でも、こんだけ長い間、ログインなしってひどいよ!」


 ユズキさんはオレのことを探してくれていたという。

 なんか、ちょっとうれしい。

 ネットゲームの世界の中、初対面の相手を気にかけてくれる人ってのは、ありがたいと思う。


 とはいえ、あちらこちらの掲示板に『タクくん見かけませんでしたか?』という探し人の依頼を張り付けていたらしいって話がちょっと――、

 もう他の場所に顔出ししづらいな。イヤな知名度にもほどがあり過ぎる。


 ……というか、オレは迷い犬ですか?



     ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 その後は彼女の同僚である警官のかたたちに手伝ってもらい、ゾンビ退治の日々。

 ちまちま気楽な討伐を繰り返す。

(ま、そもそも最初からバタリオンに当たったオレがおかしいらしい) 


 同じヘイブンでもないのに、オレの強化を手伝ってくれたユズキさん。

 そしてユズキさんのお願いに応えて手伝いに参加してくれた警官さんたち。

 ありがたいお話です。


 そして今日――。

 

「GUUUUUUUUUUUH!」


 最期まで雄々しく猛々しいゾンビさんの頭部に向け、相棒(リベレーター)のトリガーを引く。 


 眉間のど真ん中に一発命中。

 後頭部から中身をまき散らしつつ、ゾンビさんは、のけぞるように吹っ飛んだ。

 余韻を残すように吹っ飛んで、地面にぼてっと落ちる。

 あとは早々に土に還ることだろう。エコなゾンビさんだ。

 

 よし。これで五十体。

 十分な討伐ポイントだ。交換すればクレジットは銃器ガチャに足りるはず。

 今度こそ……、いけるはずだ。

 

    ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 こうしてゾンビ狩りを終えたオレたちは警察署に帰る。

 ちなみに今回ご一緒したのはコルトSAAさん、ワルサーP99さん、ユズキさんの三名である。

 

「タクくん、なんで他人のこと、使ってる銃の名前で呼んでるの?」


 ユズキさんは首をかしげた。

 会話中に聞いた、他のメンバーの呼び方が気になったらしい。 


「尊敬する先輩が言ってたんですよ。人は名前や外見を選べないが使う物は選べる。だから人を見るときはそいつの使ってる物を見ろって」


 オレはドヤ顔でうんちくを披露する。

 やっぱり男の生きざまには哲学が必要ですよね?


「ん? このゲームだと逆なんじゃない?」


 

 あ……それも、そうですね。ユズキさん、鋭い指摘だ。

 おお、さすが大人のお姉さん。


 たしかにこのゲームじゃ、アバターもユーザーネームもほぼ自由。

 一方、銃はガチャだもんな。

 よく考えたらオレだってリベレーターさんなわけで。


 うん。方針変更。

 

 テムさんとリックさん、それにユズキさんとゾンビ狩りに出て帰ってきたというわけだ。



 テムさんの外見は中年男性。コルトSAA(シングルアクションアーミー)の使い手である。

 この古典的なリボルバーに合わせて、西部劇みたいな保安官ファッションで装備を固めている。

 なんでも最初にこの銃をガチャしたとき、運命的なものを感じたんだそうだ。 

 わざわざ乗り物も馬にしているらしい。風流というものをわかっているかただ。

 ちなみに名前は――と聞くと『松風』と言っていた。そこだけは和風なんですね。

 前田どのですか? 

 かぶくんでしょうか? 

 風流しますから銭ください。 



 そしてリックさん。二十代半ばのアバターを使っている。彼はワルサーP99、ちょっと近未来的なデザインの拳銃を使う。

 服装もそれに合わせてSFっぽいバトルスーツ。ユズキさんの着てるのとほぼ同じものだ。

 もっともガッチムチな感じのアバターさんなので、あちこちがパッツンパッツンになっている。

 一部の熱狂的ファン以外は、あまりうれしくないサービスだ。


 ユズキさんの装備はいつもどおりのPS90ですね。

 うん、そしていつもどおり動作のかわいいクール美人さんです。



 さて、ポイント交換もすみ、十分なクレジットが入ったところで――、

 ……ガチャを始めますか。 



      ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



『抽選武器を購入します。本当によろしいですか?』

     

       YES/NO


 もちろんです。このための長く苦し……くはなかったゾンビ狩りです。


『抽選武器の購入ありがとうございます。ただいま発送いたしました』


 さあ、来い! ばっち来い! 


 この前のように配達機(ヘリボット)の虫の羽音のような飛行音が響く。

 そして――、


 ぽとり、


 包みが落ちてきた。

 オレはそれをそっと拾い、ゆっくりと包装をといていく。 

 

 ごくり。


 おれだけでなく、そばにいたテムさん、リックさん、ユズキさんが息を飲み、


 そして現れたものは――、


「ん? これは?」


 おお、アルミケースが出てきたぞ。

 変だな? リベレーターのときには味もそっけもない木箱だったのに。


「おお、タクくん! これはレア銃器だよ!」 


 ユズキさんが歓声を上げた。


 なんですと! 粋な演出ですね。期待感が高まります。

 いいじゃないですか! 

 そして、ありがとうリリパット社さん!

 

 ではさっそく中身を拝見いたしましょう。

 よ、こう……かな?


 ――オレはアルミケースの金具を外し、中身をのぞきこんだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ