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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
一章
8/59

ガチャ!!

  ~とあるゲーム雑誌のインタビューにて~


 ギガンティック・リリパット社の愛すべきCEOリチャードは、ゾンビヘイブンの成長システムについてこう述べた。 

「経験値だって? 他者を傷つけて殺したからといって、それで自分がより良い存在になれるとでも? だれかをけなしたところで、そいつが立派な人間になるとでも言うのかい?」



 ――その数日後、とある大作RPG(経験値式)の発表にのぞむ、元気なリチャードの姿があった。



「うるさいな! 資本主義をなめるんじゃない! 売れないもん作って社員を路頭に迷わせるわけにはいかないんだよ!」  


 ゲーム界におけるちょっとアレな思想家、リリパット社の敏腕経営者、どちらもリチャードの本性なのだ。



       ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「――という話があってね、このゲームじゃ、いくらゾンビを倒しても強くはならないんだよ」

「はい。聞いてました。あんだけ苦労したのになんか理不尽感がありますが」


 オレはうなずきつつも不満を隠せない。ユズキさんも苦笑している。

 わたしも同じような気分を味わったよって顔だ。


「でもね、討伐戦果をヘイブンに報告すれば報酬がもらえる。それがクレジット」

「たしか、それで装備を買えるんでしたよね?」


 読んでたゲーム雑誌に書いてあったことを思い出す。 


「そう。ただし、確実に欲しい武器を買うにはかなりクレジットが必要になるんだ。消費アイテムのことを考えるとよほど欲しい武器じゃなきゃ、そこまでしない」

「それで抽選武器(ガチャ)ってわけですか?」

「そういうこと!」


 ユズキさんはそこでピースサイン。

 黙ってればクールな美人さんなのに、ときどき、こういう少女みたいなことをする。

 そのギャップがとてもかわいいのだけれど。


「でね、戦果報告なんだけど……ウチの署でやってくれる?」

「はい。もともとそのつもりでしたから」

「やった!」


 大はしゃぎだ。

 うわ、抱きついてきた! 子どもか!

 いや、ちがう。

 旧式のVRゲーム機のにぶい触感フィードバックでも、二つの柔らかい感触が伝わって……!


「早く早く!」

 

 今度は手をひっぱるユズキさん。

 本当に元気な人だ。


「どうしてそんなに戦果報告がうれしいんですか?」

「受付したうちの署にもポイントが入るからよ!」


 なるほど、けっこうな数のゾンビを倒したからな。

 たしかオレの討伐数は39体。ガソリンスタンド爆破後に30も増えていた。

 ユズキさんもそうだという。

 つまりオレとユズキさんとで最後の討伐数を二分した形。

 あのガソリンスタンドにゾンビの大群(バタリオン)は60体いたってことか。

 よく生き延びられたな、オレ……。


 このゲームに搭載されている状況判定システムは、どうやら二人の貢献度を同じととらえたようだ。

 引火させる銃弾を放ったオレと、ガソリンをぶちまけたユズキさん。

 彼女が計画を立てたのに、半々というのは後ろめたいが、それでもあの激闘の報酬が目に見える形で現れると、うれしい。

 

(気分は良いし、彼女には借りもある。少しくらい便宜を図るのが当たり前だよな)


 そんなことを思いながら、オレは警察署への道を急ぐ。


    ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「ほら、あそこ、見えてきた!」


 ユズキさんの指がさした先には、歴史を感じさせる重厚な建物があった。

 赤レンガの壁をツタが覆い、厳重に周囲をかこむゴツい柵には優雅にバラがからみついている。

 思ったより、豪勢な建物だった。もっとそっけない建物を想像してたから、ちょっと驚いた。

 これが高級ホテルといわれても違和感がない。


「すごいでしょ」

「ええ、予想していたのとちがいました」

 

 オレの驚く顔に、ユズキさんはうれしげな笑みを見せる。


「とうちゃ~く!」


 ユズキさんとオレは正門の前に立つ。  


 と、頑丈な柵で構築された巨大な門がゆっくり、地響きを立てながら開いていく。 


 門の内側、目を見開いたオレ、そしてユズキさんを迎えたのは――、

 

(おお、雰囲気あるな!)


 警察署の巨大な正面玄関は石造り。全面にすき間なく彫刻がほどこされていた。 

 壁のツタ模様、屋根のガーゴイル、アルコーブの聖人像――オレが一歩、歩み寄るごとに表情を変える。

 ここが仮想空間だということを忘れさせるような、すばらしい造形だ。


 オレが、歴史遺産レベルの仮想建築に見とれていると――、


 背後で正門の柵が閉まる重い音。


「さあ、ここまでくれば安全だよ!」


 ユズキさんがにこにこして笑いかけてきた。

 少しの間、黙っていたのは、オレがこの建物に感動していることに気をつかってくれたらしい。   

 

「あ、はい、そういえば討伐ポイントの変換でしたよね?」

 オレはウェアラブル端末のメニュー画面を表示させた。

 それらしいところを検索していくと――、


 おお、あった。これか?

『討伐ポイントをヘイブンでクレジットに変換』

 

 ――そのまんまだな。


「そうそう、それそれ」


 わきから画面をのぞきこんでいたユズキさんが表示を指さす。


「はい。これですね」


 ぽちっとな。

 すると、討伐ポイントのカウンターが見る見るうちに減っていく。


『ポイント変換を終了しました。大量変換ボーナス。大量討伐ボーナスが付きます』


「おお、さらなるお布施ありがとう!」

 ユズキさんはほくほく顔だ。

 ……ここは何かの宗教団体か?


 で、どれくらい入ったんだろう?

 オレは表示されたクレジットの合計を確認してみる。

 おお……、ボーナスの乗りがでかかったな。合計二万ポイントと少し。

 有料版の初期ポイントが一万だから、さっきの討伐で一万ポイント強か。 

 そして、初期クレジットってけっこう多いんだな。あんだけの討伐数と一緒なんだから。

 さすが資本主義の総本家。


「おお、これで武器ガチャできるじゃん!」

 ユズキさんがクレジットの額を見ていった。

 

 え? これで?

 もしかしてけっこうお高いんですか? 武器ガチャ。

 

「うん。武器ガチャは一万二千、雑貨ガチャが五百、あとはランダムガチャが三千クレジットだよ」


 そうか。最初の武器ガチャ三連ってけっこう大盤振る舞いだったんだな。

 結果はアレだったけど……。

 しかし、です。今回のタクトさんはちがいますよ。


「じゃ、さっそく武器ガチャで!」


 ためらいなく端末をいじる。これまたぽちっとな。

 すると――、


『抽選武器ご購入ありがとうございます。ただいま武器を発送いたしました』

 

 え? 発送? この前みたいに空中箱じゃないの?


「ああ、あのギミックは評判悪くてね。無人機による配送に変わったみたいだよ」


 へえ、通販とかで利用されてるあれですか?


「うん。あのトレジャーボックスは共有フレームで作ってたRPG時代の遺産だからね。アップデートが間に合わなくて、まだスタート時点の武器ガチャには使用されてるみたいだけど」

 

 そうか。たしかにリアルが売り物のゲームであれはないよなと思ってたけど。


 てなことを考えていると、上空から虫の羽音のようなブーンという響き。

 音のするほうを見上げると――、

 大きさは一抱えほど、下の広がった樽のような見た目の無線操縦機(ラジコン)がホバリングしている。


 ぽとり。

 オレのすぐわきにベージュ色の包みを投下すると、無人機はすぐに飛び去った。

 ずしりと重い小包を拾い、オレは包装を解いていく。


「よし、今度こそ!」


 心に沸いたのは少しの期待とそれより大きな不安。

 だから自分に言い聞かせる。


「だいじょうぶだよ! 今度はせめてFive-seveNとか、ブローニングハイパワーとかが来るよ!」


 そうだ。ユズキさんも励ましてくれる。

 だから、今度こそはまともな銃器を――、

 

「えいッ!」


 そして登場したのは――、 


『FP45 リベレーター』




 ――説明は無言で、そっと閉じた。




「………………………………」

「…………………………ッ!」


 沈黙する二人。

 静寂はしばらく続いて――、


「……家出(ログアウト)します。名前検索(さがさ)ないでください」

「あ、ちょっと! タクくん!」



 遠ざかるユズキさんの声を背後に、オレは仮想空間を去る。


 ――それからしばらく、ゾンビヘイブンは戸棚に封印することにした。


 


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