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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
一章
6/59

バタリオン!!

「ふん!」


 気合……一発!

 大穴が空きスプリングが露出したソファを引きずり、目的地まで一気に運ぶ。

 仮想空間じゃ、ぎっくり腰の心配をしなくていいから、思いっきりやれる。

  

「ああ、もう! バリケード設営なんてショッピングモールやホームセンター住みのスキルじゃない!

 なんで……警官の、あたしが……こんなこと!」

 ぶつくさ言いながら、ユズキさんも会議用の折り畳みテーブルを運んでくる。


 こうしてきっちりビルの入り口をふさいだ防壁バリケードは、オレたちの苦労の産物だ。

 ゾンビの体当たりに悲鳴を上げていたドアも、あと少しは持ってくれるだろう。



 ゾンビの大群に追われたオレたちは、とあるビルに逃げこんでいた。


 彼らの姿は――思い出したくない。

 描写が生々しい有料版を選んだことを後悔するようなグロさだった。

 まず腐ってる。皮膚とか肉とか色々はがれてる。

 そして目玉とか臓物とかあれこれはみ出てる。

 それでいて人の形を保ってるもんだから、気色悪さ倍増である。


「ほんと、においがないことだけが救いですよ」

「噂では腐汁とかと合わせて臭いも再現しようとしたらしいわよ。でもアメリカの法律に引っかかるんでお蔵入りになったみたい。なんか生物兵器禁止条約にひっかかりそうだったからとか……」


 ユズキさんが知りたくもない裏情報を教えてくれた。  

 ていうか、やろうとしたのかリリパット社? 

 やめてくれ。いや過ぎる技術革新だ。

 そしてグッジョブ、司法省。たしかに仮想空間上のバイオテロだもんな。

 さすがに、あれに悪臭つきだったら耐えられそうにない。 



 さて、オレたちがビルに逃げこんだのは、体力とスタミナの回復のため。

 あとは作戦会議その他もろもろの準備のためだ。

 

 まずはオレの持っている回復アイテムの半分を彼女に渡す。

 まともに武装がある彼女が倒れたら、そこで作戦は終わる。

 だから優先順位は彼女が一番だ。

 

 廃墟のビルの中、ガツガツとお菓子を食らってスタミナ回復する男女二人。

 かなりシュールな光景だ。

 ちなみにお菓子はおいしかった。味覚再現システムの実装バンザイ。

 

 もっとも、このシステムのせいで現実空間リアルでの栄養補給を忘れ、廃人プレイヤーが低血糖で入院したらしい。ニュースになってた。技術ってのは良し悪しだね。

 ま、それ以前にそこまで長時間VRするなって話だけど。

 ゲームは一日三時間。それ以上は社会的に後戻りできなくなります。

 長時間プレイ、ダメ、絶対。


 続けて武装を整える。

 リベレーターは副武装(サイドアーム)に降格してもらい、ダマスクスナイフを主武装(メインアーム)に変更。乱戦確実だったので一発撃ったら終わりのリベレーターさんは完全にお役御免なのだ。


 それにほら、どっかのレオンさんもいってただろ? 接近戦じゃ、ナイフのほうが速いって。


 落ちてた鉄パイプをひろう。

 よし。これを使おう。

 太さがちょうどいい。内径もちょうどいい。

 空洞にナイフの柄を差し込み、落っこちてたワイヤーでぐるぐる巻きつけて固定する。

 即席の槍ができあがった。


 槍を作った理由――それはゾンビとは距離を取って戦いたいたかったからだ。

 相手は大勢だ。組みつかれたら、あきらめなくてもそこで試合終了ですよ、という戦術的な問題と、

 グチョグチョに近寄りたくないという精神的な問題の両方で。


 それはもうナイフじゃない、レオンさんはどうしたって? 

 細かいことはいいんだよ。  

 

「できました」

 命名・ダマスクス槍をユズキさんに見せびらかす。

菊池千本槍アイデアのしょうりだね」

 ユズキさんが笑う。そのネタがわかるお姉さんって素敵です。


 オレたちは今、ビルの二階にいる。

 でかい窓から下を見下ろすとそこら一帯はゾンビの群れ、群れ、群れ。 

 ビルは(おれたち)を狙うゾンビによって完全に包囲されている。

 メガホンで投降を呼びかけてこないのが不思議なくらいだ。


 しかし、これもオレたちの作戦通り――、 



 よし、作戦開始だ。 


「じゃあ行くよ!」

「はい!」

 ユズキさんの呼びかけに勢い込んで応える。  


 二人で同時にでかい窓に体当たり。ビルに面している狭い路地裏に飛び降りた。


 ガッシャーン!


 あたりに盛大に響くガラスの破砕音。

 そして飛び散ったガラス片とともに舞い降りるオレたち。気分はアクション映画だ。

 二人とも軽やかな着地に成功する。

 そこへ――発生した物音によってくるゾンビたち。


 姿勢を立て直したオレは槍を構え、ユズキさんは銃の狙いをつける。


 ビルをまんべんなく包囲させることで一か所の敵の厚さは薄くなる。二人でそこを突破する計画だ。

 もっとも、そのあと追ってくる敵をうまく各個撃破し続けなきゃ、包囲殲滅の憂き目を見るけど。


 そこから先の計画は……、  

 いや、まず今を生き抜かなきゃならない。


「UUUUUUUUUU!」

「おりゃ!」


 真っ先によってきたゾンビを槍で突く。

 おお、骨の手ごたえなく刃物が肉にめり込んだ。


 なんて鋭さだ! よし、槍よ、今日からお前の名は『人間無骨』だ!


 さらに首筋を払う。あっさり首と胴が生き別れ、ゾンビの頭部が宙を舞う。 

 記念すべき討伐数1がカウントされた。 


 これでゾンビ童貞を卒業だ。


 は、初めては大好きな銃器さんがよかったんだけど……


 しかし、思いのほか使えるぞ刃物。火器志望から鞍替えしたくなる。

 そういえば近接武器愛好者もゲーム内にはいるらしい。手ごたえが癖になるのだそうだ。

 気持ちは大いにわかる。


 だが、すぐに打撃武器つまり柄のほうを振り回したのほうが効率がいいことに気付く。

 切れ味が良すぎるあまり、刃物部分ではゾンビの群れをうまく追い返せないのだ。

 銃弾でいうところの、いわゆるストッピングパワーの問題である。

 恐怖心なく迫りくるゾンビに対しては、切り裂くより、背後のゾンビを巻き込むほど強く全力の打撃で薙ぎ払ったほうが効果的なのだ。

 さすがにマッチョ思考の洋ゲーらしい。


「AAAAAAAAAAAAH!」

 うめきとともに寄ってきたゾンビの頭部に、

 持ち替えた槍の柄――ぶっちゃけただの鉄パイプがクリーンヒット。 


 鈍い音、衝撃、柔らかくなっていた骨と半ば腐っていた肉はあっけなく飛び散る。

 続けて圧力が高まった頭蓋が破裂。

 ドチャとグチャの中間、名状しがたい湿った音を立てて、飛び散る脳漿。


 OK! ナイス・スプラッター!


 頭部をなくした胴体を蹴飛ばすと、まとめてゾンビを押し返すことができた。

   

 タン、タン、タタン、


 オレの横じゃユズキさんが愛銃PS90を軽やかに撃ち放つ。

 リズミカルな射撃音とともに一弾一殺(ワンショット・ワンキル)

 眉間(みけん)を射抜く腕はトウゴウな感じのスナイパーなみですな。


 あれ、もしかしてユズキさん、一人でもこのくらいのゾンビ押し返せるんじゃ?


「無理よ。ここが狭い路地で一度にかかってくる数が限定されてるからできることだし、

 ついでに、あなたが近場にくるゾンビを処理してくれているから狙いに集中できているだけ」


 おお、なんか信頼がうれしい。出会ってすぐの美人さんに相棒あつかいされるといい気分だ。


「さ、行くわよ!」

「はい」


 (ゾンビ)はいい具合に集まってくれた。そろそろ次のステージに移行しよう。 

 ある程度のゾンビを排除し、進路の安全を確保。

 路地裏で挟み撃ちになる前、オレたちはその場を離脱する。


 さて次に向かう場所は――、

 

「そこ、右に曲がって!」

「了解、右ですね!」


 おお、あった。オレたちの目的地。ガソリンスタンドだ。

 

 このゲームは映画などのお約束を外さない。噂では高度な状況判定システムが載っているらしい。

 たとえば特定の状況での会話、「この戦いが終わったら〇〇」といったフラグには、全力のゾンビ発生で応えてくれる。

 噂では、このプログラムを応用した稼ぎ方法まで存在しているらしい。


 そしてもう一つのハリウッド的お約束――『可燃物は大爆発』も忠実に守ってくれる。


 たとえばファンサイトに記されている格言が一つ『車を見たら爆弾と思え』

 そこらに乗り捨てられた車は、なんと一定確率で火器ダメージを与えられると爆発する。

 ゾンビを車近くにおびきよせ、即席のグレネードがわりにしている金欠ユーザーもいるくらいだ。


 しかし今回は車は利用できない。敵の量が多すぎる。

 車を吹き飛ばすのにもそれなりの量の弾薬が必要だし。

 だから、オレたちはガソリンスタンドを利用する。

 

 通称・ガススタ爆弾。

 

 ハリウッド映画でよく見るだろう? 

 ガソリンスタンドの給油機から、こぼれる燃料。

 そして銃撃が着弾するかライターが落っこちて――、

 

 ドカーン!

 

 あのシーンがこのゾンビヘイブンに実装されているのだそうだ。 



 そう、オレたちの狙い、ユズキさんの思いついた策とは、あのシーンの完全再現なのである。 


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