リーサル・ウェポン!!
基地ヘイブンの人たちにからまれ、このゲームをやめようかって考えてたオレになんと——!
銀行ヘイブンのリーダー・ハルトマン——二階堂さんが深く頭を下げてくる。
「すまないね、タクくん。イヤなおもいをさせて。オンラインゲームの古参としてあやまらせてもらうよ。このとおりだ」
……え? え?! あわわわわっ!
ちょ、なんで二階堂さんが頭下げてんの?!
からんできたのは基地ヘイブンなのに?!
いきなりのなりゆきであわてたオレに、二階堂さんは重々しくいう。
「……いや。見て見ぬふりをし、ああいうやからをのさばらせてしまったのは我々古参ゲーマーだ。自分の楽しみのためだけに他のプレーヤーを邪魔し、傷つける——そんな連中がいれば業界全体が縮小していくことなどわかりきったことだったのに……いくつものすばらしいゲームがそのせいでつぶれたのを眼にしてきていたというのに」
……むむ。なにやらえらく後悔しておられる感じだな二階堂さん。
深くため息をついた二階堂さんにオレは、このゲームをやめようとしてたことなど、すっかり忘れてしまう。
だが——二階堂さんのビックリ発言はそこで終わりじゃなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
二階堂さんはアルコフリバスとどんぱちやってる基地ヘイブンに鋭い視線をむける。
オレをなぐさめてたときの優しい感じとは大違いの強い視線だ。
「——基地ヘイブンの彼らには思いしってもらったほうがいいだろう。力で勝手を通そうとするなら、より強い力にくつがえされることもあるのだと」
ぶっそうなことを二階堂さんはつぶやき、同じ銀行ヘイブンのメンバーを見回す。
「諸君、少しばかりわたしのわがままを通していいかね? 結果としてウチのヘイブンに多大なペナルティをもたらすことになってしまうが——」
……ほへッ? 多大なペナルティ!? いったいなんのこと?!
二階堂さんのセリフに目を白黒させるオレ。
だが銀行の皆さんはかまわず、どんどん賛成意見を返してく。
「みなまで言わないでくださいよリーダー、賛成に決まってるでしょ」
「うん。そうだよ、みんな同じ気持ちですって! ああいうヤツら大嫌いですし」
「ええ、あんな横暴を見過ごすくらいなら賠償金がなんぼのもんじゃって感じっす!」
「そうですね。ペナルティはちょっと課金すればいいだけの話ですし」
と、口々にいい、他のメンバーもなうなずいてる。
最後にはちょっとカチンとくる富豪発言まで聞こえてきて――、
……あれ? 待てよ。てことはもしかして……。
銀行のみなさん、そして二階堂さん――あの強力な基地ヘイブンにしかけるつもりなのか?!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
あばばばば! いやいやいやいや! どう考えてもムリですよ!
基地に戦いをいどむなんて! 数は向こうのほうが圧倒的に多いですし。不利すぎじゃないですか!? まったく銀行ヘイブンのみなさんどうかしてしまったんじゃなかろうか?
しかも、これって、からまれたオレのしかえしのためなんだろうか?
だとすると——これで銀行ヘイブンのみなさんが全滅させられちゃったら、原因を作った当事者としてもうしわけなさすぎだぞ!
いけません、みなさん! 勝ち目のない戦いです! わたしのために争わないで!
と、あわてたオレは勘違いヒロインらしき発言で止めたが——、
二階堂さんは涼しい顔で逆に問い返してくる。
「……おやおや。なぜ我々(ウチ)が彼らに負けると思うのだね?」
へ……いや。だって戦力がちがいすぎじゃないですか。
二階堂さんたちの実力を疑うわけじゃないですけど……でも相手はロケットランチャーとかの重火器ももってますし火力に差がありすぎなんじゃありません?
思ってもみなかった質問、目を白黒させて答えたオレに二階堂さんは不敵に笑う、
「ふむ。なるほどきみが危ぶむ理由は『火力』かね。たしかに戦いにおいて火力は重要な要素だし、相手のほうが多勢で武器も多い。だが火力というのは豆鉄砲の数をそろえることではないのだよ」
アサルトライフルやらロケランを豆鉄砲なんて、あっさり言い張る二階堂さん——あるいはハルトマン。
手にしたマシンガンを肩に乗せた姿はマフィア親分っぽい外見もあいまって、堂々としてる、
後ろにひかえる銀行のみなさんも、あくまで基地ヘイブンに戦いを挑むつもりみたいだ……しかも勝つ気満々のようだし。
う~ん。いったいどっからその自信がわいてくるんだ?
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
一方そのころ――、
ほかのヘイブンそっちのけで超大型ゾンビとの戦闘にいそしむ基地ヘイブンの人たち。
「足の装甲破壊完了!! フルメタルジャケットの貫通力なめんな!」
「いいぞ! これでダウン6回目だ!」
「よーし、次は顔面に当てろ! 装甲が壊れたら復帰までの間にロケラン全部ぶちこめ!」
てな感じにあいかわらずの流れ作業じみた攻撃でアルコフリバスを追いつめてる。
以前やってたゲームで大物狩りの経験があるからか、「あ、この問題、この前やったやつだ」ってくらいに楽々戦えていた。
基地ヘイブンはラスボスらしき大型ゾンビさん・アルコフリバスの装甲をゴリゴリえぐり、回復力を上回るダメージを与え続けてる。
……ううむ。くやしいけどうまい。そして強い。そつがない。
ゲームなのに面白みのない攻め方には納得いかないけど――他を押しのけてまで自分たちだけでボス戦に挑もうとするだけの実力はある。
そんな基地ヘイブンの強さを見てオレは不安になった。
あんな人らを二階堂さんや銀行ヘイブンのみなさん、いったいどうやって倒す気なんだ?
相手はかなりの実力者だし。まさか、なにか『秘密兵器』でも隠してたのだろうか?
でも、そんな強力な武器を持ち込んでるようには思えなかったんだけどなぁ。
なんて首をかしげたオレの疑問にハルトマン――銀行ヘイブンリーダーは、しれっと答える。
「ああ、そのとおりだよ。わたしの使おうとしている武器は今『ここ』にはない。はるか遠くにある」
……え? それじゃダメじゃないですか。勝ち目がない。
いくら強い武器があってもヘイブンに置きっぱなしじゃ使えないでしょ!
泡を食ったオレだったが、二階堂さんはよゆうの表情を見せ胸を張った。
「いいや。使えるさ——いいぐあいにラスボスも地上に出てきてくれて、倒したい連中と固まっている。これはおおいにありがたい」
妙なセリフにキョトンとするオレに向け、二階堂さんはにやりと笑う。
そしてマフィア姿のヘイブンリーダーさんは、『とあるもの』を懐から取り出した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「我々が勝つために必要なのはペナルティを恐れない少しの覚悟……そしてあとはコイツだけさ」
と、二階堂さんがコートの内ポケットから取り出したのは――小型拳銃ほどの大きさの物体。
ただ外見はいちおう銃の形はしてたけど、まるで強そうじゃない。銃身にあたる部分についてる電卓みたいなパネルがとりわけぶかっこう。武器というより工具のように思える。
正直、あの猛者ぞろいで数も多い基地ヘイブンと戦えるような『秘密兵器』にはとても見えない外見だ。
ここまで手にしてたマシンガン——トミーガンだっけ? そっちのほうが強そうに思える。
ていうかソレ、そもそも銃口がついてないじゃないですか!
そんなオモチャでなにをどうするつもりなんです!?
と、ツッコミを入れかけたとこで――、
オレはふと思い出す。
……いや。ちょっと待てよ。
『銃口がなくて武器に見えないアイテム』っていえば、以前にもどこかで見たことがあるよな。
だとすると……二階堂さんが持ってるあれって…………まさか?!
脳裏によみがえってきたのは『とある武器』の記憶。
まさかここで目にするとは思ってなかったシロモノにびっくりしてオレは目を白黒させるしかない。
そんなオレに、いたずらっぽくウインクする二階堂さん。
「いいかね。タクくん——『火力』というのは、こういうのをいうのだ」
楽しそうに告げた二階堂さんは――、
手にした金属製の機器——いや、『とある武器』のレーザー照準器を巨人ゾンビと基地ヘイブンが戦う一角にむけ、トリガーに指をかけた!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『対地上・軌道砲撃殲滅システム《ジェイクス・ラダー》の起動を確認しました。照準データも確認。本体に向け座標の転送を完了――臨時権限者の場合は続けて、すみやかに十二ケタの発射許可コードを入力してください』
二階堂さんが構えた銃らしきもの――いやレーザー照準器が機械的な女性の声で案内する。
その声にも、やはり聞き覚えがあって、オレは銀行ヘイブンのリーダーさんが持ち出した武器の正体を確信する。
一方、二階堂さんは照準器の要求に対して肩をすくめて――、
「ああ。そういえばそんな手続きもせにゃならんのだったな。やれやれ……強力な武器だが、めんどうなのがこまりものだ」
ぶつくさ言いつつ、お高そうなコートの内ポケから一枚のカードを取り出した。
そしてプラスチック製のそれをパキっと割って、中から厳重にたたまれた紙を引き出し、そこに記された数字をゆっくり確実に入力しはじめる。