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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
四章
56/59

アルコフリバス!!!

「え……?」


 腕の端末に映し出された成績画面、オレは功績ポイントを確認する。

 そこに表示されてたのは……ボスゾンビを撃破したにしては、低すぎる数字だった!

   


◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ……あれ? ホントだ! ボスゾンビ倒したのに、功績ポイントがほとんど入ってないぞ!

 むしろ、まわりのゾンビと戦ってた人のほうが、ランキングじゃ上に来てるし。

 嘘をつくな、ミッターマイヤー! 卿は嘘をついている!


 予想外の数字に思わずどこぞの銀河帝国皇帝みたいな発言が漏れるオレ。

 そんなオレを鼻で笑い、ごっつい基地ヘイブン兵士――ケントリオは告げた。

 

「このゲームを作ったリリパット社の社長は貧乏な育ちから成り上がったらしい。インタビュー記事じゃ、親父さんがイイ学校に行かせるために地道に働いてくれたおかげって感謝してたな。で、そのせいか、リリパットのゲームイベントじゃ、ハデな活躍より地味な裏方仕事に大きくポイントつけるんだよ。アホな話とは思うがな」

 

 ウソ……だろ。あんだけ苦労したのに……功績これだけ?

『裏方作業を評価する』ってリックさんの考えはわかるし尊敬できる話だけど……ゲームでそりゃないよ。

 ぼうぜんとしたオレを騒ぎを聞きつけて集まってきた基地ヘイブン男Cがあざ笑う。


「イベントじゃ大物倒すよりサポートに励むほうがおいしい。だから体力高いくせにポイントの低い中ボスより、周辺のザコ掃討に全力そそぐ――このゲームじゃ常識だぞ? その程度も知らねえとか、お前どんだけ初心者だよ? どこのヘイブン所属だ?」

「……あ、いえ。どこにも所属してません」


 ショックのあまり、あっさり答えてしまったオレに 小太りの基地男Dが肩をすくめ大げさに驚く。


「……は? おまえ無所属(ノラ)だったのかよ?」

「ありえねえ。ヘイブンスキルなしの無能がイベントでうろちょろすんなよな!」

「ああ、それで他のやつらが手を出してなかっただけの中ボス倒した程度でエラそうにするとか……もう笑えるし」


 周囲にいた基地の連中にめちゃくちゃ言われたけど……オレは言い返せない。

 それほどショックが大きかったからだ。


「……な、言うに事欠いて!」


 むしろサユリさんのほうがキレかけてたけど――、

 獰猛化しかけ黒いオーラをまといだしてる剣術美少女(サムライガール)さんの肩を、オレはつかんで止める。


「なぜですタッくん?! あんなヤツラに言われっぱなしで良いのですか!?」

「……相手は大勢です。いくらサユリさんでも……勝てっこない。ここまで稼いだ功績ポイントまで無くすことになりますよ」

「でも……!」

「さっき、オレのために犠牲になるようなマネはしないでくださいって言ったでしょ?」

「く……」


 暴言を吐いた基地ヘイブンに突っこんで行こうとしたサユリさんを、なんとかなだめるオレ。

 サユリさんは唇をかんで不満そうながらも暴走は止めてくれる。

 そんなオレたちに、むこうは拍子抜けした感じだ。  


「……ちっ。あんだけ言われてもしかけてこねえのか。ヘタレめ」


 戦闘が始まるのを期待してたらしい。舌打ちしたケントリオ――基地ヘイブンじゃ微妙にエラそうなポジションにいる男はきびすを返しオレたちに背を向けた。

 ケントリオのあっさりした態度に手下の基地兵ACDらがあわててたずねた。

  

「いんスか? ケンさん、あいつらほっといて?」

「しょうがねえだろ? 攻撃されたならともかく無抵抗の非戦闘員を殺害キルしたら重いヘイブンペナルティが発生するんだからな。ウチのヘイブンは……。ボス戦前にここまでの討伐ポイントがガッツリ減らされたら、もったいないじゃねえか」


 ……あ、なるほど。それでわざわざムカつく挑発してきたのか。

 相手にしかけさせて邪魔者を排除するつもりだったのかもしれない。 

 ケントリオの言葉で、ここまでの行動の意味がわかるオレ。

 一方、手下Aは不満そうに――、


「ったく、ホントなんなんスカね? このクソ仕様。体力や銃器ダメージが上昇するし、弾や強い武器が手に入りやすいんで、このヘイブンに所属させてもらってますけど……討伐ノルマはキツイし、対人向きじゃないとこがメンドウっすよ」

「万能なヘイブンなんぞないってことさ。あまり優遇されてもアホなシロウト連中が寄ってくるから、それはそれで文句ないんだが……いや。そんなことよりボス戦だ。さっさと行くぞ」


 と、自ヘイブンのスキルにグチを言った手下へケントリオは肩をすくめ、ボス戦にいざなう。

 こうして落ちこんでるオレと他ヘイブンを残し、基地ヘイブンの連中は大型ボス『アルコフリバス』のほうへ向かっていってしまった。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 

 その後、基地ヘイブンは自分らだけが戦えるように戦場をしきりだした。背後に数人が見張りに立ち、他のヘイブンが戦闘に参加しようと近寄ると銃を向けてくる。

 自分たちのヘイブンだけが活躍できるよう妨害役まで置いているらしい。この妨害役が最悪の場合、殺害ペナルティを受けても邪魔者を排除するつもりみたいだ。

 おかげで他ヘイブンはうかつにアルコフリバスに近づけない。


 う~ん……ルールで禁止されてないとはいえ、なんだか納得いかないやり方だ。

 

 ただ、それは基地が自分たちだけでボスを倒せる自信のあらわれでもあった。

 たしかに彼らは強い。大物狩りに慣れてる感じだ。



 GYOOOOOOOOOOOO!!!!!!


 

 怪獣の雄叫びみたいに街中に響くアルコフリバスの威嚇の声――しかし基地の連中はひるまない。

 接近してくるアルコフリバスの装甲と粘液をまとった巨体に闘志と銃口を向け続けている。

 そして距離が十分に近づいたところで――、


「――よし今だ! 目標、敵の右足先! てぇッ!」

 

 指揮官らしき人物の指示が飛ぶとともに一斉射撃――巨大ゾンビの足の指先へ貫通力の強いフルメタルジャケットの軍用弾丸を集中させた。



 ――ゴゴゴゴゴガガガガガガガガガガガガガガガァ!



 大人数の同時連続射撃はさすがに迫力がある。銃声が雷のようにこだまし、巨大ゾンビの丸太ぐらいある足の指が集中砲火をくらう。

 その結果、粘液による再生を上回る早さで、厚い装甲は連射により削られていき、血潮が飛び散った。基地ヘイブンの攻撃が巨大ゾンビの圧倒的防御力を上回った瞬間だ。



 GYAAAAAAAAAAAAHHHHHHH!!!!!



 タンスの角に足の小指をぶつけた感じの激痛が走ったのだろうか。アルコフリバスはたまらず絶叫を上げ、身をよじらせる。

 と、そこへさらなる一斉射撃。今度はもう片方、左足の先端にまたも軍用弾丸の雨が降り注いだ。

 両足先の敏感な場所にダブルで直撃をくらい、アルコフリバスは……ついに倒れる。



 ――ズ、弩ォォォォォゥゥゥゥゥン!!



 すさまじく大きな地響きを立てて、前のめりに崩れ落ちるアルコフリバス。

 地面に巨体が叩きつけられ、巨大な顔があごから大地に突き上げられる。衝撃で土煙が雪崩のように吹き付けた。

 だが、まだまだ基地ヘイブンの攻勢は止まらない――ロケットランチャーをかかえた数人が土煙の中を駆け抜け、間近にある顔面に全弾ぶちこんでいく。


 

 ――ドゴォ、ドゴ、ドゴォォォォン!

 


 連続した爆発がアルコフリバスの顔面装甲を剥がし、肉が見えたたとこで……さらなる軍用弾の一斉射撃!

 なんと! 基地ヘイブンはたった一度の攻撃で超巨大ゾンビにダメージを与えていた。


「よし、一度引け!」


 で、そこから一気に押し切っていくかと思ったけど……基地ヘイブンは巨大ゾンビが立ちあがろうとすると無理にしかけず後退する。

 しかし、顔面を押さえたアルコフリバスがふらふらと立ちあがったとこで、もう一度足の指狙いの攻撃を実行する。


「今だ! グレネード!」


 ひゅっ……ドオォォン!


 今度は手榴弾(ハンドグレネード)でダメージを与え、アルコフリバスにまたも不本意なボディプレスを強要させた。

 そこへ……再び顔面に向けロケラン発射。再生しかかっていた顔面を破壊し、そしてまたアサルトライフルによる一斉射撃。先ほど与えた傷を深くした。


 かくして――基地ヘイブンは流れるような連携でアルコフリバスの体力をゴリゴリ削っていく。

 


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 実力者ぞろいの基地ヘイブンが数をそろえ、息を合わせてボスゾンビを攻める。装甲と回復力に巨体ゆえの圧倒的な攻撃力をあわせ持つアルコフリバスも完全に翻弄されていた。

 足を狙って態勢を崩し転ばせて弱点に大打撃を与える――大物退治のやり方としてはふつうだけど、ここまでうまくやれるのはスゴイ。

 むむ~、ムダに洗練されたムダのないムダな動きってのはこのことなんだろうか?


 と、すばらしいチームワークに感心させられたが、しかしオレは微妙に違和感を覚えていた。


 ……う~ん。でも基地ヘイブンって、なんだか戦いが作業をこなしてるっぽいんだよな。

 銀行ヘイブンのみなさんみたいに楽しんでゲームやってるって感じじゃない。効率重視の戦い方といい、アルコフリバス戦を独占したことといい、なんかもやっとさせられる感じだ。

 なんて不満をいだきつつも、基地ヘイブンの活躍を見てるしかないオレに――、

 銀行ヘイブンの気さくなお兄さん――マークスさんが話しかけてくる。


「あのボスは巨大だから転んだときの負荷もデカい。その転倒ダメージも狙ってるんだろうな」


 からまれてヘコんでるオレの気を軽い世間話でまぎらわす、さりげない気づかいなのかもしれない。

 で、軽い口調のマークスさんはこう続けた。


「さすが戦い慣れしてるよ。基地ヘイブンは『ワールドワイドワイルドUMA』っていう別のオンラインゲームからの流入組が多いらしいから、そっちでの経験が生きてるんだろう」


 ……ほう。『ワールドワイドワイルドUMA』通称ワルドマか。たしか、リリパット社のライバル企業、ヴェノムホリック社の製品だったよな。

 雪男(イエティ)宇宙人グレイ、ネッシーにクラーケン、それにビックフットにチュパカブラにドラゴン――神話やら都市伝説に出てくる未確認生物と現代兵器で戦う、数年前から人気のVRオンラインゲームだ。

 ただオレは対応する本体を持ってなかったりして残念なことに遊んだことがないけど……プレイ動画がやたら楽しそうだったのを覚えている。


 ……ふむ。なるほど。あのゲームのプレイヤーなら巨大生物との戦いに慣れてるはずだろう。


 でも、それならなんでそっちの楽しそうな未確認生物バトルでおとなしくしててくれなかったんだろ? 

 わざわざこっちにやって来て空気悪くされてもこまるんですけどねえ――基地ヘイブンの人たち。

 と、口をとがらせてたずねたオレにマークスさんは表情をくもらせる。



「……おれも未プレイで友人から聞いたんだが、あのゲーム少し前に内紛(ゴタゴタ)があったみたいでね」


 え? ゴタゴタって? いったいなにがあったんです?

 聞きかえしたオレに、マークスさんは小声で告げた。


「……あくまで楽しくゲームしたいっていうプレイヤーと本気でゲームに打ちこむプレイヤーが二派に別れて争うようになってしまったそうだ。で、他のプレイヤーにもプレイスタイルやら装備やらを強要してウザがられるようになった連中が支持を失い、居づらくなってこっちに移ってきたらしい」  


 ……ふむ。そうか。どこのゲームでも聞く『エンジョイ派とガチ派の争い』ってやつだな。

 しかしまさか、あのワルドマで、そこまでの問題になってるとは思わなかった。

 ま、プレイヤー同士の関係性が強いオンラインゲームじゃモメごとでやめるってのはよくあること。仮想現実で遊ぶVRゲームだと並みのオンラインゲーより密度の濃いつきあいになるしね。


 と、マークスさんの説明に納得させられたオレ。


 だが――元のゲームがいづらくなったからって、こっちにやってきて好き勝手に荒らしてかれるのは、ちょっとこまる。

 

「……ああ、そうだね。ゲームは楽しく遊べる空気じゃないと」


 苦笑しつつうなずいたマークスさんにオレは愛想笑いで応えつつも、落ちこんでた。


 うん。そう……だよな。やっぱゲームは楽しくなきゃ。その点じゃ今日は最悪だ。まず地下水道の連中にからまれ、次に病院院長にハメられた。

 で、基地ヘイブンの人らにもバカにされて――そんなヤツらが強引なやりかたでボス戦を独占する光景をながめてるしかない。

 最初に巨大ゾンビとの戦いはワクワクさせられたぶん、よけい気分が悪い。他人といっしょに作業する楽しさがあるけど、もめごとも多いオンラインゲームの悪い面だろう。

 というか――今日は二度も言われたけど、そんなにヘイブン未所属って悪いことなんだろうか?

 どのヘイブンに入るか大事な決断だと思ってるからこそ、じっくり選びたいだけなのに……。   

 どうして事情も知らないヤツらに、ああまで言われなならんのだろう?


 なんて感じに抱えてたヤな気分がオレの中で大きくなっていく。

 イヤガラセしてきた人らのやりたいほうだいを見てるしかない状況も考えをごちゃごちゃさせていた。


 ……う~ん。こうなったらオレもどこかのヘイブンに入ろうか? 

 この先もずっと未所属(ノラ)ってバカにされたり迫害され続けるのはいやだし。

 ……けど、たぶん今、どこのヘイブンに入ったとしても参加を強制させられた気分になって、後からイヤになりそうだな。



 ……ああ、もう、すごくモヤモヤする。



 ………………やっぱゾンビヘイブンやめようかな? 



 このゲームのおかげで幼なじみのサユリさんやヒサヨシさんに再会できたし、偶然知り合った製作者のリックさんたちもいい人なんだけど……。 

 楽しいはずのゲームでイヤな気分になるのはなんか違う気が……するし。

 


 と、オレがごちゃごちゃした頭で最悪の決断をしかけたそのとき――、



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 いきなり、ぽんと肩をたたかれた。

 ふりかえると、そこにはマフィア親分っぽい外見なのに優しい笑顔を浮かべた二階堂さんがいて――、



「……すまないね。タクくん。ゲームでイヤな気分にさせて。古参のゲーマーとして謝らせてもらうよ」



 なんと二階堂さんは――オレに深々と頭を下げてきた!





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